ベア拡大の背景に、人材確保重視も/JAMの春闘中間総括

(2015年5月27日 調査・解析部)

[労使]

金属、機械関連の中小労組を多く抱える産別労組のJAM(眞中行雄会長)は5月26日、都内で中央委員会を開催し、2015年春季生活闘争中間総括を確認した。加盟単組のこれまでの回答状況をみると、ベアを獲得した加盟単組数と獲得額は、結成(1999年)以来で最高となっている。中間総括は、ベア獲得が拡大している背景として、共闘運動の強化のほかに、人材確保対策を重視する経営者の意識が広がっていることもあげた。

平均賃上げ、前年比412円増の5,517円

最新の回答集計(5月13日現在)によると、賃金構造維持分を明示できる802組合の回答内訳は、賃金改善分獲得が564組合、構造分のみが199組合、構造維持分割れが39組合となっている。賃金改善分を獲得した組合数を前年同期と比べると、43組合増加している。賃金改善分を獲得した組合の改善分の平均額は1,834円で、前年同期を315円上回った。

平均賃上げ方式では、5,517円で前年に比べ412円増、300人未満の規模でも5,208円で345円増となっていると、眞中会長があいさつで報告した。

2015春季生活闘争におけるベア獲得が拡大した背景について中間総括は、①JAMとして、過年度物価上昇の獲得を重視した共闘運動の強化を追求したこと、②人口減少を背景として人材確保対策を重視する経営者の意識が広がっていること、③この2年間、賃上げを社会的な課題とする政府から労使への要請が強められてきたこと――の3点をあげた。

強まる相場見極めの動き

統一要求の状況をふりかえると、統一要求日における要求提出単組数は昨年に比べ若干の増加にとどまった。単組の要求状況を4タイプに区分すると、「昨年も今年も統一要求日までに要求提出」が512単組(32.2%)、「昨年はできなかったが今年は提出」が249単組(15.7%)、「昨年はできたが今年はできなかった」が110単組(6.9%)、「昨年も今年もできなかった」が719単組(45.2%)――となっている。中間総括を提案した労働政策委員長を務める藤川慎一副会長は、「昨年はできたが今年はできなかった」単組が今年要求できれば、要求率が5割を超えることができたと話し、各地方支部に対して、「これらの単組の状況や背景について分析してほしい」と述べた。

回答額と妥結額の交渉開始以降の推移をみると、回答金額の平均値の推移が、例年は明らかな右肩下がりとなるのに対して、今年は「極めて緩やか」(中間総括)になっている。中間総括はその背景について「使用者の間で相場を見極めようとする動きが強まっていることがうかがわれる。また、そこでは、妥結額を高く維持する共闘運動の効果もあらわれていると思われる」と分析している。

一方、2015闘争の問題点と課題については、中間総括は3点を指摘。1つは、要求提出についてで、統一要求日に提出する組合数は昨年に比べ改善したものの、「全体として日程を早める方向をめざし、要求の相場づくりという観点に立って取り組みかたの検討を進める必要がある」と記述した。

2つめは、一部の組合で9,000円のベア要求を掲げることができず、要求内容のばらつきが生じた点。中間総括は、過年度物価上昇分と格差是正分に関する産別としての考え方について「十分な理解や浸透がはかれなかった」とし、今後は単組が要求を組み立てる際に、「産別要求基準のさらなる浸透をはかっていく必要がある」としている。

3点目としては要求と回答に乖離が生じたことをあげた。中間総括は、「それぞれの単組でどういうことが問題になったのかについて情報共有をはかり、次期の取り組みに生かしていく必要がある」としている。

要求水準のばらつきが課題に

JAMでは、各単組が自社の賃金水準の高さを把握し、格差改善の取り組みにつなげられるよう、個別賃金データの把握を単組に対して指導している。今次闘争での個別賃金の取り組み状況をみると、個別賃金データのある単組数は、30歳ポイントの交渉前「現行水準」データでは166組合、35歳ポイントでは160組合で、それぞれ昨年よりもやや減少している。

交渉後の「確定水準」を把握している組合でも、30歳ポイントが90組合、35歳ポイントが82組合で、こちらも昨年よりも減少している。こうした状況から中間総括は個別賃金のデータ把握の取り組みについて「引き続きねばり強い取り組みが求められる」としている。

18歳以上の従業員を対象とした企業内最低賃金協定を保有する組合数は、現時点で525組合で、昨年の闘争時よりも29組合増加した。労働協約の取り組み状況では、「所定労働時間」に取り組んだ単組数が99組合で、前年同期(39単組)に比べ倍以上に増加した。

「インターバル規制」について今年は83組合が取り組んだ(昨年は年末時点での取り組み組合数が11組合)。

討議では、JAM神奈川が、単組の賃上げ要求額が産別方針の9,000円で足並みが揃っていない点について言及。「ふたを開けてみたら要求できていない。であるならば、せめて地方とか、同じ業種別のなかで一致団結して要求をそろえるような取り組みはできなかったのか」などと意見を述べた。これに対して藤川副会長は、「決めたことはきちっと守るのが産別組織の役割であり、今後もこれを徹底したい。ただ、JAMは、同じ要求を企業連のなかで各単組に降ろしていくことができるような産別ではない。丁寧に職場で議論して積み上げていって方針をつくるのがJAMであり、それがまたJAMの強み」などと述べて理解を求めた。

中央委員会ではこのほか、夏の定期大会で決定する「2016・2017年度運動方針」の骨子や、2011年度から実施してきた「熟練技能継承事業」(厚生労働省委託事業)の「総括」の中間報告などを確認した。