6,000円以上の賃上げ方針を決定/自動車総連の中央委員会

(2015年1月16日 調査・解析部)

[労使]

自動車総連(相原康伸会長、約76万人)は15日、愛知県名古屋市で中央委員会を開催し、2015春闘方針である「2015年総合生活改善の取り組み方針」を決定した。賃金引き上げの要求基準(平均賃金)について、6年ぶりに明確な額で設定し、6,000円以上とした。また初めて、直接雇用の非正規労働者の賃金改善を設定することを要求基準に盛り込んだ。

自動車総連には、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、マツダなどの各自動車グループの労連が加盟している。加盟組合は完成車メーカーや車体・部品だけでなく、輸送や販売の組合も含まれる。

初めて非正規労働者の賃金改善分を設定

2014春闘における要求基準でも、すべての単組が賃金改善分を額で要求する方針としたが、明確な額では示さなかった。今回の平均賃金での要求基準は、「すべての単組は、目指すべき経済の実現、物価動向、生産性の向上の成果配分、産業実態、賃金実態を踏まえた格差・体系の是正など様々な観点を総合勘案し、6,000円以上の賃金改善分を設定する」とし、2009年の春闘以来、6年ぶりに引き上げ幅を額で示した。非正規労働者の賃金改善については、初めて要求基準に「直接雇用の非正規労働者の賃金についても、原則として、賃金改善分を設定する」と盛り込んだ。

中央委員会で挨拶した相原会長は、「自動車総連における基準作りを通じ深めた今年の取り組みの意義は、昨年、全員の努力で見出した『意義ある起点』を点から線にすることによって経済の歯車をもう1つ前に進め、経済好循環にふさわしい賃金ベクトルを日本の労働組合が総掛かりで導き出すことにある」と述べたうえで、今回の取り組みの意義として2点を強調した。1点目は「短期的な観点からの賃金引き上げの必要性だ」とし、「現在、日本経済は、円安・株高の一方、輸入物価の上昇、地方や中小企業への景気波及問題など、政府の政策がもたらす様々な光と影が交錯する状況にある。とりわけ消費税引き上げ以降、自動車など耐久消費財の需要は回復が遅れている。物価の上昇が先行し続け、消費低迷を長引かせば、景気失速は明らかであり、一年半にも及ぶ実質賃金の低下をこれ以上放置できない。安定的・継続的な賃金引き上げを実現し、実体経済を底上げしていく必要がある」と強調した。

今年の賃上げの趨勢が日本経済の構造転換の重要な道標になる/相原会長

2点目としては、「中期的な観点からの賃金引き上げの重要性」を指摘。「自動車総連はこれまで、異次元の金融緩和政策や機動的な財政政策に過度に依存する現政権の経済政策上のリスク・危なさや、財政健全化の必要性などについて警鐘を鳴らしてきた。日本の政府債務の残高がGDPの2.5倍にも達するなか、世界の目は日本の経済政策の成否に注がれている。大いなる社会実験と称されるゆえんでもあるが、デフレ脱却の道筋を確かなものとし、日本経済に対する世界の信任を獲得していく極めて重要な2015年を迎えている。今年の賃金引き上げの趨勢は、日本の経済構造の転換にとって重要な道標となることを十分留意したい」とし、「したがって、政府が異次元の経済政策に踏み込むなか、自律的な経済回復への道筋を需要サイドから立て直す重要性は増しており、労働組合が短期・中期両面から掲げる要求の役割を職場と共有する必要がある」と訴えた。

また、相原会長は、初めて要求基準に非正規労働者の賃金改善設定を盛り込んだことについて、「同じ自動車産業で働く『人』に焦点を当て、原則、直接雇用の非正規労働者を賃金引き上げの対象とし、『底上げ』に取り組む」と強調した。

水準設定には産業内格差是正の狙いが

消費税の影響も含めた物価上昇率が3%程度に及ぶなか、6,000円以上という水準設定に落ち着いたことについて、同日の中央委員会の前に行われた会見で相原会長は、「消費税分の取扱いについては、連合、金属労協での方針論議において一定の整理がついた。消費税率の引き上げ分については税と社会保障の一体改革が待ったなしであり、国民で広く負担すべき」と述べる一方、家計への影響も考慮して総合的に判断して6,000円以上としたと説明した。

また、自動車総連における平均賃金は月給で25万円程度であり、6,000円は率にすれば2%を大きく超える水準となることから、「30万円の組合にとっての6,000円と25万円の組合にとっての6,000円とでは重みが異なる」とし、「産業内格差是正の狙いが込められている」と説明した。

36協定の特別延長時間を年間540時間以下に

賃金の要求基準ではこのほか、例年どおり、業種間、規模間の格差是正を狙いとして、個別ポイントでの絶対水準要求も積極的に行うとしている。

企業内最低賃金協定の要求基準は、18歳の最低賃金要求で15万6,000円以上と設定し、基準未達成の組合は基準額以上での協定化をめざす。現在、自動車総連における協定締結率は71%(806組合)であり、基準未達成組合が416組合と半数を超える。

年間一時金の要求基準は昨年と同様、「年間5カ月を基準とし、最低でも昨年獲得実績以上とする」とした。

総実労働時間の短縮では、年次有給休暇の完全取得や、所定外労働時間の削減に向け、全単組で36協定の年間特別延長時間を年間540時間以下とすることなどに取り組む。

闘争日程については、自動車大手メーカー労組の統一要求提出日を2月18日に設定した。

春闘方針の討議では、スズキ労連から「加盟組合すべてで6,000円以上の賃金改善に取り組み、産業内に波及させることが大事であり、総連本部の強いサポートをお願いする」との要望が出され、自動車総連の冨田珠代副事務局長は「限りなくひとかたまりで取り組むことが重要だ」などと答弁した。

中央委員会ではこのほか、第5次組織拡大中期計画(2017年8月まで)を確立した。直接雇用の非正規労働者の組織化などに積極的に取り組むとし、目標を464件、約3万5,599人に設定した。