雇用の維持・安定を最優先に/今春交渉に向け経団連が「経労委報告」を発表

(2013年1月23日 調査・解析部)

[労使]

経団連(米倉弘昌会長)は22日、「2013年版経営労働政策委員会報告」を発表し、今季労使交渉に臨む経営側のスタンスを明らかにした。副題は「活力ある未来に向けて―労使一体となって危機に立ち向かう」。報告では総額人件費管理の重要性を主張しつつ、労働法制の規制緩和や65歳までの就労確保などによって定期昇給制度の見直しが必要になることなどを指摘したうえで、企業の存続と従業員の雇用の維持・安定が最優先との考えを強調している。

「6重苦」の解消に向け一刻の猶予もない政策転換

同報告は、第1章一段と厳しさを増す国内事業活動と現状打開への道、第2章競争に打ち勝ち、成長を続けるための人材戦略、第3章今次労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢からなる。

報告ではまず、悪化を続ける経営環境のなか、日本経済は縮小と立地競争カのさらなる低下に直面しており、競争力を強化するために、(1)円高の是正、(2)経済連携の推進、(3)法人の税負担の軽減、(4)一層の社会保障制度改革、(5)エネルギー・環境政策の転換、(6)労働規制の見直し――といった、いわゆる「6重苦」と呼ばれる課題の解消に向け一刻も早い政策転換が必要だとする。このなかでは、労働法制をめぐる課題ヘの対応として、総額人件費の適正管理を一層徹底する必要があり、定期昇給制度や年功処遇の見直しが喫緊の課題となっていることから労働条件の不利益変更ルールを透明化すること、企画業務型裁量労働制の適用業務・対象労働者の拡大などの労働時間制度改革が求められるとしている。

また、地域別最低賃金について「目安額を大幅に上回る額で結審する地域が多くなっており、目安制度が大きく揺らいでいる」と指摘。7割以上の地域で使用者が全員反対している事態となっていることから、最低賃金の決定プロセスは大きな岐路に立っていると主張しつつ、特定最低賃金(旧産業別最賃)についても、地域別最賃が「大幅に引き上げられていることにより」、水準が地域別最賃を下回るケースも出できているため、「その役割・使命を終えたものとして速やかに廃止すべきである」としている。

求められる「労使パートナーシップ対話」の充実

今次交渉・協議では、労使が日頃から情報や意見の交換に努め、危機感を共有し、経営の厳しい現状や苦しさを分かち合ったうえで行う課題解決型の話し合いと位置づけている「労使パートナーシップ対話」の充実が必要だと強調。付加価値が大幅に減少している現状を踏まえると、総額人件費の適切な管理の重要性は一層増しているとする。一方、企業の付加価値の源泉が海外市場中心になりつつあることに留意が必要としながらも、海外で生み出された付加価値は、現地法人の設備投資や研究開発に活用するとともに、配当金として国内に還流させた場合でも、「国内での研究開発や設備投資の原資として活用し、グループ全体としての競争力強化に結び付けていく必要がある」とし、「海外従業員の努力に報いていく視点も必要であり、海外における利益の増加を、国内従業員に還元することには限界があると言えよう」とクギをさしている。

ベアの余地なし、定昇の実施が主な論点に

連合の闘争方針などで労働側が、格差改善などを理由に所定内給与(月例賃金)の引き上げを重視していることに対しても、総額人件費の増加額は退職金・福利厚生費などに自動的に跳ね返り、約1.7倍に拡大することから、慎重な判断が求められるとけん制。また高齢者雇用安定法の改正で、仮に、継続雇用比率が現在の約74%から90%まで上昇することを前提として機械的に試算すると、高齢従業員の増加によって、企業が支払う賃金総額は今後5年間で2.0%押し上げられることになるとの見通しも示している。定年前の賃金制度に年功的な要素が色濃く残っている場合は、「労使が十分に議論を深め、必要な見直しを行うことが求められる」としている。

そのため、今次労使交渉・協議では、企業の存続と従業員の雇用の維持・安定を最優先する議論が中心となると主張する。

そのうえで、厳しい経営状況が続くなか、「賃金交渉においては、ベースアップを実施する余地はなく、賃金カーブの維持、あるいは定期昇給の実施の取り扱いが主要な論点になると考えられる」との見通しを示す。さらに、「円高の影響などにより深刻かつ危機的な経営状況にある企業においては、定期昇給の実施時期の延期や凍結について協議せざるを得ない場合もあり得ると想定される」と述べ、今次労使交渉・協議では、あくまで定期昇給の実施方法についで議論することになるものの、今後の課題として「経営環境が大きく変化している以上、制度自体のあり方についでも議論が必要となろう」との見解を示した。

また、連合の闘争方針では中小企業に対して「賃金カーブ維持分プラス賃上げ分1%相当」と、明確なベア要求を盛り込んでいることに関して、中小企業は大手企業より、苦しい業況にあることから、格差是正を主な理由に「1%のベア要求を掲げることは理解が得られない」と批判している。