職場の実態や働く者の思いを伝える取り組みを/電力総連定時大会

(2012年09月07日 調査・解析部)

[労使]

電力関連産業の労働組合で構成する電力総連(種岡成一会長、22万1,000人)は4,5の両日、名古屋市で定時大会を開き、「2012年度運動方針」を確認した。種岡会長はあいさつのなかで、近く方向性が示される国のエネルギー政策の見直しについて、「わが国の将来のありようをしっかりと見据えた政治の責任としての判断がなされなければならない」と強調。検討が進む電力システム改革は、「労働現場の実情を踏まえた検討が欠かせない」と訴えた。方針は、エネルギー政策の見直しに関する対応や政治への参画、安全衛生の取り組み、2013春闘の考え方などを提示している。

喫緊課題と中長期的課題を峻別した対応を

方針は、停止中の原子力発電所の再稼働など、電力の安全・安定供給の確保に向けた国の責任ある対応を強く求めていく考えを示している。

冒頭、あいさつに立った種岡会長は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を省みて、「この事故で原子力に対する国民の信頼が失墜した事実、社会の不信・不安を大きくしたことを真摯に受け止めねばならない」と述べ、「このような事故は二度と起こさないとの強い決意のもとで、常に最高水準の原子力安全の実現を求めることが必要であり、事故の完全な収束には中長期にわたる対応が求められる。そのためのさまざまな環境整備や携わるもの一体となった産業安全・放射線健康管理の徹底、人材の育成・確保に向けた取り組みも労組の役割だ」と強調した。

そのうえで、今後のエネルギー政策に関する対応にあたっては、「今、総力をあげて取り組むべき待ったなしの課題」として、 (1)被災した地域の復興とあわせたインフラの整備 (2)福島第一原子力発電所の完全なる収束と、被害を受けた皆様への賠償・支援等に万全を期すこと (3)産業の空洞化や国内雇用喪失の不安要因となっている電力需給逼迫の根本的な解消――の3点をあげるとともに、中長期的には、「経済・産業活動のグローバル化の進展や、国際的な資源獲得競争の激化なども踏まえ、経済合理性や環境適合性に配慮しながら、資源に恵まれないわが国の将来にわたるエネルギー安全保障を確保することが国家戦略の根幹となる」などと指摘。「大震災からの復興と日本経済再生に向けて優先すべき喫緊の課題と、中長期的課題とは峻別し、対応すべきだ」との考えを示した。

現在、政府与党で最終段階の詰めが行われており、近く方向性が示される見通しのエネルギー政策にも触れ、「見直しは、国民生活や働く者の雇用、産業・企業活動に極めて大きな影響を及ぼす。一時の世論の風や声の大小で左右されるものではなく、わが国の将来のありようをしっかりと見据えた政治の責任としての判断がなされなければならない」と政府の動向を牽制したうえで、「『国家百年の計』たるエネルギー政策は、『国益と国民生活を守る』との視点が欠落したまま、安易で情緒的な政治スローガンを掲げるようなことは決して許されない」と訴えた。

労働現場の実情を踏まえた検討を

また、電気事業制度改革についても言及。「経済産業省の専門委員会が7月にとりまとめた(小売全面自由化の実施と送配電部門の中立性確保の方策に関する基本方針が示された)『電力システム改革の基本方針』には、職場で働く者の姿が浮かんでこない。電力の安全・安定供給は、無機質な『システム』が成し遂げているものではなく、現場第一線の「人の営み」によって支えられている。電気事業体制のあり方議論は、労働現場の実情を踏まえた検討が欠かせないが、基本方針の策定にあたっては、そのような進め方がされてこなかった」などと国の対応を批判。「そこに従事する者の理解と納得のもとで政策を推進していくことが何より必要だ」と主張し、労組からの意見を聞いたうえでの政策決定の検討を強く求めた。

労働条件交渉は当該労使が対等な立場で

一方、春闘については、「エネルギー政策や電力システム改革のあり方が議論され、社会からの電気事業に対する関心も高く、先行きも見通せない状況のもと、従来にない厳しい環境での交渉を余儀なくされ、厳しい判断をせざるを得ない組合もあった」などと語った。

電力総連によると、2012春闘で賃金カーブ維持分の確保ができなかった組合は、200強の交渉組合のうち17組合あった。一時金が年間4カ月分(半期2カ月も含む)を確保できなかった組合は111組合に達したという。

こうした状況を踏まえ、「今後も将来にわたる人材の確保や技術・技能の継承の観点から、賃金カーブ維持分の確保に徹底的にこわだって取り組んでいく。賞与・一時金は、組合員の生活の安定を図り、やりがい・働きがいにつなげる観点から、『年間の最低水準を守り、夏冬型による年間要求・妥結を基本とする』ことについて、粘り強く経営側の理解を求めていく」と説明。「取り巻く情勢は一層難しくなることが想定されるが、『労働条件は当該労使が対等な立場で交渉し決めるもの』ということを労使ともにしっかり意識することが必要」と強調した。

職場の点検活動等を通じて課題の把握を

方針は、働く者の安全衛生確保の取り組みも優先課題に掲げた。方針によると、電力関連職場の労働災害は、発生件数、被災者数ともに減少せず、特に「墜落・転落」の重大災害の発生にも歯止めがかからない状態。「今後も逼迫した需給のなかで、限られた作業工程での工事が予想され、燃料費の増大に対応するための一層の経営効率化が求められることが想定され、さらには雇用に対する不安、やり甲斐・働き甲斐への影響、差別や中傷を受けた組合員や家族の精神的負担も懸念される」(種岡会長)実態にあるという。

そこで、安全衛生対策活動の一層の強化を通じた職場づくりを推進する。具体的には、労組役員が、職場の点検活動等を通じた現場の課題の把握や、率先して「一声かけ、安全・あいさつ運動」の実践に努めるなどの取り組みを展開。併せて、安全衛生委員会や労使協議の場の充実もはかる構えだ。

働く者の立場から政治への積極的な参画を

このほか、方針は政治活動について、「東日本大震災以降、取り巻く情勢が一変した1年数カ月を振り返り、電力関連産業が政治と切っても切り離せないことを改めて強く痛感させられた」として、「今こそ、私たちの声を政治の場にしっかり届けていかねばならない」と明記している。

この取り組みに関連して種岡会長は、「大飯3・4号機の再稼働は、現実的な対応がとられ一定の評価ができるが、前政権の一連の対応で噴出した、組合員の政権に対する信頼感の低下は、依然として収まっていない」と説明。「電力総連の意見、思いを聴き、理解、賛同いただける民主党国会議員との信頼関係は今後も維持強化していくことが重要だが、私たちと考え方を異にする議員、候補者を支援することは組合員の理解が得られないのは当然だ」などと述べた。そして、「エネルギー政策などは今後も政治の場で議論される。組織内議員を通して、職場の実態を伝え、私たちの意見を反映していくことが必要だ」として、働く者の立場からの積極的な政治への参画を呼びかけた。

なお、電力総連は、組織内議員である藤原正司議員の後継として、来夏の参議院の比例代表選挙に浜野喜史会長代理を組織内候補として擁立することを決めており、大会では必勝決議を行った。