内部留保が需要不足とデフレの原因/労働総研が提言

(2010年12月22日 調査・解析部)

[労使]

全労連系のシンクタンクである労働総研(牧野富夫代表理事)はこのほど、賃上げなどによる内需拡大がデフレ脱却のカギだとする提言「働くものの待遇改善こそデフレ打開の鍵――企業の社会的責任を問う」を発表した。提言は、日本経済について、「企業が内部留保をため込んだために深刻な需要不足に陥り、構造的なデフレ体質になった」と分析。 (1)非正規労働者の正規転換 (2)最低賃金1,000円の実現 (3)月額1万円の賃上げ (4)サービス残業根絶 (5)年次有給休暇の完全取得 (6)週休2日制の完全実施――などの労働条件改善により内需が拡大することで、5.26%ポイントの経済成長率引き上げに相当する経済効果があると試算している。

最賃1,000円の実現などで5%の成長率引き上げ効果に

提言は、ここ10年余りの世界経済に触れて、先進国(米英独仏)の名目成長率がそれぞれ伸びているのに対し、唯一日本だけがほぼゼロ成長を示していることや、雇用者所得をみても、日本だけが、マイナスとなっていることから、「雇用者所得と経済成長率には強い関係が見られる」と指摘。「GDPの5割余りを占める雇用者所得が増大しない限り、まともな経済成長はできない。不況下でも企業が頑張って賃金を支払ってきた国が経済を維持・拡大できている」と分析している。

日本では、雇用者所得がダウンする一方、「本来なら国内設備投資に使われるべき企業の『純利益』が内部留保としてため込まれ、196.2 兆円も増加(1999~2009年)して、国内需要不足、デフレの大きな原因となった」と主張し、企業の社会的責任として、内部留保を財源とする労働条件改善を求めている。

提言の試算によると、掲げられた労働条件改善を実現するためには、38.2兆円の原資が必要になるものの、27.1兆円の消費需要が生まれることで、国内生産が51.14兆円、付加価値が26.26兆円誘発されることから、新たに355.5万人の雇用が創出され、地方・国の税収入も4.66兆円増えるという。名目成長率でみると、5.25%ポイント押し上げる効果が期待できる計算だ。38.2兆円の原資については、「1999~2009年の内部留保増加分の19.51%に過ぎず、企業がその気になれば十分に可能だ」と指摘している。

提言実現のための具体的な運動としては、来春の賃上げ交渉における春闘再構築が重要だとしており、「日本経済の回復を真面目に考えるなら、春闘を終焉させることなく賃上げ・雇用の確保の課題と同時に、社会保障の拡充・増税阻止など国民諸階層とも一致する課題で、文字通り国民春闘を本格的に追及することが重要だ」などとしている。