回答は「人への投資」につながり得るもの/基幹労連

(2010年3月19日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼や造船重機、非鉄金属の組合で構成する基幹労連(内藤純朗委員長、25万1,000人)は17日、総合組合の「AP10春季取り組み」の回答結果を集約した。年間一時金は産別が生活安定ラインとする4カ月をクリアするも、業績で明暗が分かれる格好。60歳以降の雇用確保については、要求通り、労使検討の場の設置が図られた。基幹労連は、「回答は組合が主張してきた、好循環のための『人への投資』につながり得るもの」との見解を示した。

基幹労連の春闘は、2年サイクルで統一要求を掲げている。前回の08年交渉は、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方を基本に据え、「2年間で月額3,000円を基準とする」賃金改善を要求。その結果、総合大手は2年単位で概ね1,500~2,000円の賃金改善を図った。今春闘は、物価動向や経済情勢の見通しなどの取り巻く環境から「産別が一体となって賃金改善を求めることは困難だ」として、賃金については定期昇給の実施を求めることとし、 (1)年間一時金の「4カ月分程度」の確保 (2)60歳以降の雇用確保のための協議の場の設置――などを柱に要求を組み立てた。

年間一時金は落ち込む見通しに/鉄鋼

鉄鋼総合の年間一時金をめぐっては、要求段階から業績悪化を踏まえて、抑制傾向にあった。総合5社で唯一、要求方式を採っている住友金属が昨年の獲得実績を23万円下回る175万円を要求。神戸製鋼所は従来は業績連動方式だが、今回は厳しい経営実態のなかで、計算値の基となる経営計画そのものを会社として示す状況になかったことなどから要求方式を採り、基幹労連が「生活を考慮した要素」としてギリギリのラインとしている年間120万円を要求した。

基幹労連の集約によると、新日本製鉄、JFEスチール、住友金属工業、神戸製鋼所、日新製鋼の鉄鋼総合5社の年間一時金は、業績連動決定方式を採用していない住友金属が171万円(同198万円)を回答。神戸製鋼所は105万円(同120万円)で妥結した。他3社は、業績連動方式のため要求していないが、09年度の業績確定後に決定するところと、業績が同方式で設定している下限を下回ることによる別途協議を申し入れているところがあるという。

鉄鋼大手の2010年度の一時金は、前年に比べ全体的に大きくダウンする見通しだ。

三井造船と住友金属鉱山は満額回答/造船と非鉄

総合重工の年間一時金(業績連動方式の川崎重工を除く6社)の妥結内容は、三菱重工が約163万2,000円だったほか、IHIが約143万円、住友重機械が151万1,000円、三井造船は約154万8,000円、キャタピラージャパンは133万5,000円、日立造船が145万7,000円となっている(全て組合試算による)。三菱重工がわずかに減額した以外、概ね増額で決着。このうち、三井造船は満額回答を得ている。

一方、非鉄総合4社の年間一時金は、住友金属鉱山が175万円の満額回答(前年度152万円)。三井金属は前年度比4万円増の147万円で決着した。三菱マテリアルとDOWAは業績連動方式のため、要求していない。

安定雇用の労使検討の場を設置

一方、厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に引き上げられ、最終的には65歳まで無年金状態になる、いわゆる「2013年問題」への対応として、今春闘要求の柱に盛りこんだ「60歳以降の雇用確保」については、企業によって表現の違いはあるものの全ての総合大手で「2013年度以降の年金支給開始年齢にリンクした安定雇用の必要性を認識し、その実現に向けた制度の労使検討の場を設置する」ことで決着した。このテーマの取り組みが進んでいる三菱重工は、「定年延長を視野に入れた検討委員会の設置」の回答が示されている。

組合主張を踏まえた回答を引き出した/本部見解

こうした総合大手の回答内容について、基幹労連は「組合が主張してきた、好循環のための『人への投資』につながり得るもの」とする見解を示した。

一時金については、「業績が改善した組合では業績に見合った水準の引き上げが示された一方、業績の厳しい組合においても、組合員の協力・努力に報いたといえる回答が示された」と判断。60歳以降の雇用確保に関しても「将来の安心・安定の確保に向け、要求趣旨や組合主張を踏まえた回答を引き出した。今後の安定した雇用のあるべき姿の検討に向けての一歩を踏み出した」などと評価している。

造船部会など全体の4分の1が賃金改善を要求

なお、鉄鋼総合、総合重工のメーカー各社の定期昇給は、制度に基づき実施。非鉄総合も年収管理方式の三井金属などを除いて、制度に基づき定昇を実施する。

ちなみに、造船専業で構成する造船部会や一部組合などでは、基幹労連が全体としては見送った賃金改善要求を行っているところも少なくないという。内藤委員長は会見で、「後に続く組合の4分の1ぐらいが賃金改善にも取り組む。しっかりとした成果が出せるように支援・協力をしていきたい」などと述べ、今後の中堅・中小労組の交渉に意欲を見せている。