雇用と生活の安心・安定を最重要課題に/基幹労連のAP10基本構想

(2009年12月11日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄金属の労働組合でつくる基幹労連(内藤純朗委員長、25万1,000人)は8,9の両日、宮城県松島町で「AP10春季取り組み討論集会」を開き、来春闘の基本構想について討議した。構想のポイントは、賃金改善の統一要求見送りや60歳以降の定年延長など。内藤委員長は、「今の状況で、どこに人への投資を求めればよいかしっかり考えなければならない。いま定年延長に取り組まないと私たちの雇用が未来に渡って安定しているとは言えない」などと訴えた。

基幹労連の春闘は、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方を基本に、2年サイクルで統一要求を掲げる形をとっている。2年前の08春闘では、「2年間で月額3,000円を基準とする」賃金改善を要求。総合大手は2年単位で概ね1,500~2,000円の賃金改善で妥結した。

賃金改善の統一要求は困難

今回の基本構想では、「人への投資のあり方において、我々が最もこだわりを持ち、効果のあるものは賃金であり、このことは不変だ」と明記。基本的な考え方は堅持する姿勢を強調している。そのうえで、物価動向や雇用・経済情勢を踏まえ、「金額を一律に提示して財源投入を求める賃金改善を全体で掲げる状況にはない」として、賃金改善の統一要求は困難と判断。「極めて厳しい雇用情勢や経済動向等の取り巻く諸情勢を踏まえて、向こう2年間はもとより将来にわたる雇用と生活の『安心・安定』の確保を最重要課題とする」との姿勢を打ち出している。

2013年問題への対応も

具体的な要求の柱は、 (1)60歳以降の雇用確保 (2)あらゆる視点からの労働時間の縮減による雇用確保・創出 (3)年間一時金の確保と回復 (4)働く者全ての雇用確保と待遇改善――の4本。60歳以降の雇用確保については、厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられる2013年問題への対応として、支給開始年齢にリンクした雇用確保と、それを支える新しい制度の必要性を労使確認するとともに、その実現に向けた検討の場の設置を求める。

基幹労連のAP10基本構想

労働時間縮減による雇用確保・創出に関しては、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、所定労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進などについて中・長期の視点も含めた長時間労働是正の取り組みを検討する。

年間一時金は、「生活を考慮した要素」である「4カ月分程度」もしくは「120万円ないし130万円」を基本に、成果反映分をめざせる組合は、その増額に取り組む。

連合が来期の闘争に盛り込んだ働く者全ての雇用確保と待遇改善では、直接雇用の非正規労働者の雇用確保や、派遣請負労働者の契約期間の順守をはじめ、労組の立場からのフォローに努める。

定昇分を確保したうえで、条件次第で賃金改善も

このほか、賃金については、定期昇給の実施もしくは定昇分を確保する方針だ。賃金改善の産別一体での要求は行わないが、「条件が整い賃金改善を要求する業種別部会・組合については、産別全体で支援し実効ある取り組みとする」考えだ。

人への投資の考え方は不変

内藤委員長はあいさつで、「人への投資として最も効果的なのは、賃金改善であり賃金という項目であり月例賃金であるということを強く主張してきたし、今でもこの考え方に全く変わりはない。そこに投資ができるなら最もいい投資効果を生むと信じている」と述べたうえで、「しかし、賃金でなければならないかというと、それも違う。今の状況においてどこに人への投資を求めれば組合員が意気に感じて企業の発展により貢献できるようになるのかをしっかり考えなければならない」と指摘して、来年の春闘で雇用と生活の安心・安定を重視していく姿勢を鮮明にした。

2年後では遅い定年延長要求

さらに、60歳以降の雇用問題についても触れ、「2013年から年金が61歳にならないと支給されない現実がある。2013年に61歳になる人はいま57歳で、もうすぐ目の前だが、(現状は)労働条件のほぼ半分に切り下げられる再雇用制度。しかも有期で1年間の雇用契約を繰り返す制度しか持っていない。定年延長に取り組まないと私たちの雇用が未来に渡って安定しているとは言えない」などと説明。「経営側は相当抵抗するだろうし、今の状況のなかで、社員と同じ資格で61歳まで、最終的には65歳まで定年を延長することは難しい。しかし、そこに投資してもらわなければ、わたしたちは働く意欲がわいてこない。今年やらなければ(次の要求するのは2年後の)2012年になってしまう。それでは遅い。今こそ取り組むべきだ」と訴えた。

造船部門からは、情勢認識のギャップを訴える声も

分散会の議論では賃金改善について、鉄鋼部門を中心に産別統一要求を見送る方向に理解を示す意見が出される一方で、造船部門の組合からは「仕事量は高操業が続いている。造船は他の産業に比べて周期がずれる」などと、世間動向との情勢認識のギャップを訴える発言もあった。また、総合大手が要求しないなかで、単組が要求しようとしても限界があるとの声や、「雇用も賃金も求められる要素が少しあったとしても、今の雇用状況ではその余力を雇用に回すぐらいの危機感を持たねばならないのではないか」との意見も聞かれた。

賃金改善をやるからには結果が必要

全体のまとめとして答弁した神津里季生事務局長は、「今回は、物価をみれば一律的なベア要求をすることは考えられない。我々は06、08と賃金改善という手法を追求して結果を出してきたが、(今回は)それも全体として取り組める状況にない。その一方で(賃金改善要求を)やれるところについてやることも考えている。これは極めて重たい判断。やるからには取っていく取り組みにしていかねばならず、当該の部会なり組合との連携を相当持っていく必要がある。コアになるのは『好循環』。企業・業種の発展にとって、ここで(賃金改善を)やらなければならないという迫力を持って要求していかねばならない」などと述べた。