雇用の維持・確保と働く者の生活を守ることに重点/自動車総連定期大会

[労使]

自動車総連(西原浩一郎会長、74万2,000人)は3,4の両日、兵庫県神戸市内で定期大会を開いた。西原会長は「『人への投資』を経営政策の最上位に置くことが何よりも求められている」として、雇用の維持・確保と働く者の生活を守ることに重点を置いた取り組みを進めていく姿勢を強調した。

自動車総連定期大会

冒頭、あいさつに立った西原会長は、自動車産業の生産・販売の直近の状況を、「全体として底入れ感は出つつあるが、大型・二輪も含め、その水準はなお低位にとどまっている。先行きも、雇用情勢の悪化やデフレ懸念の高まる日本経済をはじめ各国のマクロ経済動向、不安定な為替、そして日本も含めた各国の新車購入補助が需要の先食い的な要素もはらんでいる」などと説明。「産業全体が本格的な回復軌道に乗ったと判断するまでには到底、至っていない」との認識の下、「働く者に焦点をあて、『人への投資』を経営政策の最上位に置くことこそが何よりも求められている。当面、まずは足元の雇用を何としても維持・確保し、働く者の生活を最大限守るために全力を傾注しなければならない」と強調した。

非正規労働者についての雇用・働き方の考え方を整理

非正規労働者への対応については、まず「円滑な雇用移行に向けた支援措置とそのための猶予期間の確保を前提に製造業への登録型派遣を禁止する方向を打ちだした」労働者派遣に関する自動車総連の考え方を改めて説明。「今後、労働者派遣法の改正論議を注視しながら、産業自らの課題として、非正規労働者の雇い止め等がもたらした事態を産業労使がしっかり振り返るなかで、今後の産業・企業の対応のあり方を整理していかなければならない」と指摘した。そのうえで、「非正規労働者を含めた構成かつ追求すべき雇用・働き方と、生産変動への対応を含めた国内事業基盤の維持・強化との接点をいかに見いだすのかという観点から組織内の検討を深め、労使の論議につなげていく」と述べて、今後、非正規労働者も含めた雇用・働き方について、産別としての考え方を整理する考えを明らかにした。

労使で非正規労働者を含めた雇用のあり方を論議

非正規労働者の雇い止め問題をめぐっては、質疑で全ホンダ労連から「生産減少で多くの非正規労働者の雇用が失われ、我々の業界は社会的な非難を浴びる結果となった。セーフティネットの整備や雇用の仕組みの問題もあったが、労組も備えが十分だったとは言えない。長いスパンで捉えれば今後も大きな生産変動は起こりうるが、同じことの繰り返しは決して許されるものではない。今後は非正規労働者の雇用のあり方そのものがどうあるべきかを考える必要がある」との発言があった。

これに対し、濱口誠事務局次長は「今回の問題については、しっかり教訓として受け止めて、同じ事を二度と繰り返さないように今後の対応につなげていくことが必要」と答弁するとともに、「今年七月に経営者団体と生産変動への対応と非正規を含めた雇用のあり方」について意見交換行い、「非正規労働者を増やしすぎたことや、昨年秋以降の急激な減産に伴い生じてきた課題などについて問題意識を出し合い、共有化できた」ことを報告した。今後も「生産台数が上がって来た時の非正規を含めた雇用への対応や派遣法改正へのスタンス、急激な減産が生じた時にどうやって非正規も含めた雇用維持を図るのかなどについて労使で話し合う」としている。こうした経営者団体との議論や自動車総連内部の議論を踏まえ、年内を目途に指針をとりまとめる方針も明らかにした。

慎重な見極めが必要な来年の春闘

一方、来年の春闘について、西原会長は「職場を基点にマクロの視点とミクロの視点をしっかりつなぎ、そのバランスのなかでさまざまな検討要素と諸情勢を慎重の上にも慎重に見極めながら、具体的な取り組み方向を見定める」と説明。さらに、取り組み方でも「一律的な上げ幅の方針設定では、もはや交渉に迫力は持ち得ない。個別労組が、自らの賃金に係わる問題・課題を踏まえ、理論武装して交渉しなければ成果にはつながらない」と述べ、絶対額の水準に重きを置くことで、企業規模や業種間の格差を是正する考えを示した。

産業動向や経済情勢、組合員の生活環境などを慎重かつ総合的に観たうえで、各組合が業種・企業の実態に沿った形で要求を組み立てる一方、産別はその下支えとなる基準額の設定の必要性含め、各単組が最適な要求を組むためのサポート機能を強化するとの方向性を明らかにした格好。産別の問題意識としては、(1) 拡大傾向にある(メーカーと部品や販売などの)業種間格差への対応のための賃金体系・制度の整備・確立と賃金カーブ維持分の徹底、標準労働者の絶対賃金水準の把握・集約等の取り組みの強化 (2) 09春闘で大幅に低下した一時金の下支え・底上げの取り組みの強化 (3) 09春闘で大幅な遅れが生じた妥結・解決日程の早期化――などを挙げ、雇用維持を基本に検討していく方向を提起している。

 春闘に関しては、日産労連から業種間格差の是正について質問が出された。濱口事務局次長は「ここ数年、格差は拡大してきている。まず、この実態を経営者団体との労使会議で伝えていくが、格差是正につなげていくには個々の組合が自らの賃金実態や賃金カーブがどうなっているのか。自らの賃金状況を把握する取り組みが不可欠だ」などと説明。これに西原会長が、「格差の大きな問題は付加価値の公正配分が自動車産業内で確立していないこと。産業労使会議などでしっかり論議しながら具体論で解決していく」と付け加えた。

産別自決論に髙木会長がクギ

また、西原会長は春闘での連合と産別の役割分担についても触れ、「賃金を含めた労働条件改善は、あくまでも産別自決を基本に、連合は全体の統括性確保のための調整機能を担うことが引き続き要請される」と述べた。

この点について来賓の髙木剛・連合会長は、「連合と産別の役割分担をするにしても、自動車総連が労働運動の牽引役であることに違いはない。減収減益、デフレ傾向のなかで難しい道を探る闘いになるが、自動車総連なき春季生活闘争はないと思っている。いろいろな考え方があって結構だが、そのことをお忘れなきようにお願いしたい」などと話し、産別自決論が一人歩きしないようクギを刺した。

互いの立場を尊重した協力関係を

このほか、大会では民主党が大勝した先の衆院選の結果を「『政権交代可能な二大政党制の確立』を求めながら民主党を支援してきただけに、総選挙結果を歓迎したい」と強調。政権交代後の民主党との関わり方について、「(労働組合と政党とは)それぞれの存在理由や果たすべき役割・任務は異なっており、互いの立場を尊重し合い、干渉・介入を戒め、そのうえで政治理念や政策を通じた協力関係を作っていく」と説明し、「(今後も)一定の適切な距離感を保ちながら、引き続き、自動車産業に働く者の立場から、政策協議を通じて政策実現に努力していく」との考えを示した。

(調査・解析部)
2009年 9月9日