「雇用の安定に努力を」「一律ベア考えにくい」/経団連、経労委報告

(調査・解析部)

[労使]

日本経団連は16日、09年春季労使交渉の経営側指針となる「経営労働政策委員会報告」を発表した。経済の現状をオイルショックとバブル崩壊後の長期不況に続く第3の危機的な状況としたうえで、「労使一丸で難局を乗り越え、さらなる飛躍に挑戦を」と呼び掛けた。物価上昇を踏まえ、8年ぶりに統一的なベースアップを求める労働側をけん制し、「市場横断的ベースアップ、個別企業における一律ベースアップとも考えにくい」と反論。「今次労使交渉・協議は雇用の安定に努力することが求められる」と強調している。

報告は現下の経済情勢について、「米国発の金融危機は世界各国の実体経済に多大な影響を及ぼし、世界経済は同時不況の様相を呈している」との認識を示している。わが国の現状は、オイルショックや平成不況に続く第3の危機的な状況にあるとしたうえで、過去2回の危機を乗り越えられたのは、「わが国の労使関係が経済状況や企業実態を重視する成熟したものへと進化したため」だと分析する。厳しい経営環境は逆に他社が追随できない競争力を築くチャンスともなることから、「労使が自社の経営課題を共有し、絶えざる挑戦を続けていくことが求められる」と訴えている。

そのうえで、09年の交渉・協議に向けた経営側の基本姿勢として、賃金をはじめ労働条件の決定に当たっては、 (1) 国際競争力の維持・強化  (2) 付加価値増大のための環境整備 (3) 総額人件費管理の徹底――の3つの視点をあげる。この視点を前提にすれば、「市場横断的ベースアップ、個別企業における一律的ベースアップとも考えにくい」「需給の短期的変動による一時的な業績変動は賞与・一時金への反映が基本」などの考え方を示している。

また、労働側が主張する労働分配率の低下による分配のゆがみについて、労働分配率はマクロでは景気と逆相関関係にあり、産業構造、就業者数、年齢構成などで変動し、ミクロでも事業の特殊性や、従業員構成などで大きく変化するため、「賃金決定の基準とはならない」と反論。さらに、消費者物価の上昇を根拠とする労働側の賃上げ要求については「賃金決定は自社の支払い能力に即して行われることが大原則であり、外生的な要因による物価変動が賃金決定の要素となることはない」と反駁している。

こうした前提を踏まえ、09年春の交渉・協議では賃金以外の幅広いテーマが議論されるべきであるとし、とくに人的資源の蓄積や現場力を高めるテーマとし「ワーク・ライフ・バランスの推進」と「人材育成・キャリア開発支援」をあげている。

政府に対しては、冒頭序文で御手洗会長が雇用動向に触れ、「官民が協力しながら雇用問題に果敢に取り組む必要性が高まっており、雇用のセーフティーネットの拡充など、政府が積極的な役割を発揮していくことが期待される」と要請。また、09年は「景気後退の深刻度が増すとみられる」ことから、最低賃金の審議では小規模企業における雇用維持を最優先課題とし、極めて慎重に対応することが求められる」と主張している。