2年間1,500~2,000円の賃金改善で妥結/鉄鋼、造船

(調査・解析部)

[労使]

鉄鋼や造船重機、非鉄金属の組合で構成する基幹労連は12日、総合組合の回答結果を集約した。2年間で概ね1,500~2,000円の賃金改善で妥結している。基幹労連は、「全体としては、組合が主張してきた『人への投資』につながるもの」との見解を示した。

基幹労連の春闘は、2年間で統一要求を掲げる形に移行している。前回の06年交渉では、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方を基本に据え、従来型のベースアップ要求ではなく、手当を含めた基準内賃金の改善を求めることを打ち出した。その結果、大手労組の多くが実施時期を1年先送りしたものの、1,000円強もしくは1,000円程度の賃金改善の回答を引き出した。08年春闘でも、基本的な考え方は踏襲し、「2年間で月額3,000円を基準とする」賃金改善を求めてきた。

交代手当の改善等で1,500円を/鉄鋼

基幹労連の集約によると、新日本製鉄、JFEスチール、住友金属工業、神戸製鋼所、日新製鋼の鉄鋼総合5社の労組は、交代労働に係わる深夜手当の割増率を現行から3%引き上げるとともに、日曜・祝日に勤務する際の手当(サンデープレミアム)の150円の増額などを獲得した。鉄鋼部門は、各社の労組がそれぞれの職場実態に根ざした課題を積み上げて要求・交渉を行うため、経営側の回答も具体的な金額は明示されていないが、基幹労連の試算では2年間で1人あたり1,500円程度の賃金改善になるという。組合の要求に半額程度の回答で応えた格好で、各社とも今年4月から実施する。

なお、年間一時金は、住友金属が昨年と同額の226万円(39歳21年勤続基準方式)で決着した。その他4社は、業績連動方式のため、要求していない。

2,000円の賃金改善も実施時期にみだれ/造船と非鉄

一方、造船重機の総合6社は、2年間で1人あたり2,000円の賃金改善で決着した。配分の仕方はさまざまで、例えば、三菱重工は2,000円分の原資を基本給の成果反映部分(基本給の6割を占める職能給の約2割)に投入するため、「評価が良い人は2,000円を超える賃金アップになるし、悪ければ2,000円以下になる人もいる」(内藤純朗委員長)ことになる。

また、今回は賃金改善の実施時期や年間一時金で各社の回答に違いがでた。実施時期は、営業赤字に陥るIHI(旧石川島播磨重工業)が初年度は賃金改善を見送り、住友重機械も今年4月の賃金改善は1,000円分に留める。

年間一時金(業績連動方式の川崎重工を除く5社)の妥結内容も、三菱重工が約174万6,000円(前年比約7万6,000円増)、IHIが約151万6,000円(同約4万6,000円減)、住友重機械が194万2,000円(同約5万4,000円増)、新キャタピラー三菱は176万8,000円(同約2,000円増)、三井造船は12日時点で交渉中となっている。

非鉄総合5社は、三菱マテリアル、住友金属鉱山、DOWAの3社が2,000円の賃金改善を回答した(三菱マテリアルは産別試算)。日鉱金属は単年度の賃金改善要求について、単年度431円に加え、制度見直しに伴う移行措置財源として1,465円の回答。労組が年収管理としての賃金改善を要求していた三井金属は、会社側が「年収管理型賃金決定方式」(業績連動で一時金の増減により年収を決定する方式)で答えるとした。

時期については、DOWAが今年4月に1,000円分を実施して、残り1,000円を来春に先送りするほかは、今春に実施する予定。年間一時金は、住友金属鉱山は前年実績を5万円下回る225万円、三井金属は「年収管理型賃金決定方式」に基づき、同4万円減の183万7,000円をそれぞれ回答した。三菱マテリアル、DOWA、日鉱金属の3社は業績連動方式のため、要求していない。

なお、今春闘の目玉の一つだった時間外割増率の改善交渉に関しては、鉄鋼大手で休日の割増率を40%に引き上げた以外は、時間外割増率の引き上げも含む長時間労働是正に向けた協議を継続することで決着した。

固定費増につながる原資投入を評価

こうした結果について内藤委員長は、今季取り組みにおける鉄鋼など総合組合の回答について「今回の取り組みの最大の成果は、(賃金改善などで)労働条件を引き上げるとコストがあがって競争力が落ちるという経営側に対して、労働条件を上げれば活力がでて競争力も増す好循環の関係にあり、それには『人への投資』が必要だと主張し、嫌がっていた固定費増につながる原資を投入させたことだ」と評価。そのうえで「3,000円の要求からすれば(今回の回答は)控えめな投資だが、われわれは次の投資のために、それに見合った成果をあげていきたい」などと総括した。