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◆発明の対価
「200億円」と聞くだけで腰を抜かしてしまいそうな数字だが、考えてみればこれも、一種の個別労使紛争と言っていいかもしれない。青色発光ダイオード(青色LED)を発明した中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授に対する発明報奨金の、東京地裁での判決である。
原告の中村教授が自著で書いている。当時の日亜化学では鉛筆一本、ノート一冊買うのにも課長のサインが要り、「何度もこの実験をやったけど、いつもうまくいかない。私の忠告を聞いて止めたほうがいい」というような忠告屋に囲まれていた。そんな中で、雑音を一切無視して独自の研究に没頭、やっと青色LEDの開発にたどり着いた。それに対し、会社からもらった報奨金は2万円。アメリカの学会で研究者から「お前はスレイブ(奴隷)か」と嘲笑され、発明に対する正当な対価を支払うよう求めたのが、この訴訟である。
開発に成功した93年当時、日本のどの会社でもみんな、「社員の発明は会社のもの」と考えていた。「いくらいい仕事をしたからって、彼だけを特別扱いにしては不平等…」という、今から考えるとヘンな平等主義も元気だった。
この中村訴訟以降、各社で社員の発明に対する報奨規定の見直しが進んで、最高1億円とか、上限を決めずに青天井にしたところもある。もし仮に、あのときの報奨金がせめて現在の報奨制度の常識ぐらいの線で、1億円とか2億円を会社が払っていたら、ひょっとして訴訟はなかったかもしれない。
今度の判決に対して、大まかに2つの反応が出ている。1つは、「後で巨額の報酬が請求されるようになると、企業は怖くて日本での研究が出来なくなる」など、経営や研究開発に影響がでることを心配する声。もう1つは、「オリジナリティーのある仕事をした技術者を正当に評価しており、現場の技術者に夢を与える」というものだ。どちらにも当たっている面があると思う。
しかし、これからの日本の企業にとって何よりも大切なことは、“他に真似の出来ない”技術である。その独創的技術こそが日本の雇用を生みだし、経済を活性化する。日本の将来は、そうした「知的財産」の蓄積にかかっている。
日本の賃金制度は今、急速に実績主義へとカーブを切っている。研究者・技術者の世界では特に、“悪しき平等主義”は百害あって一理なしだ。優秀な研究者が納得する環境と制度を作り上げることは急務である。
発明の対価をめぐる紛争や訴訟は今後当然増えてこよう。対価を公正に算定するシステムや紛争解決の仕組みも作って、紛争がいたずらに長引かない工夫も必要だろう。今度の判決はこれらのことを考えるいい機会となった。
(久) |