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「雇用なき回復」がいわれるアメリカの景気は、企業のダウンサイジングによって達成されているといっても過言ではない。すなわち、企業ではコスト削減のための合理化が行われ、パートタイマー、派遣労働者 などの非典型労働者が、正規の労働者にとって代わるようになっている。今年9月4日に、米国労働統計局が発表した雇用状況調査結果によると、製造業の雇用者数は依然減少が続いている。職を失っている労働者の多くは、工場で働くブルーカラーの人々である。
アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL−CIO)のジョン・スウィニー会長は、デトロイトで開かれたエコノミック・クラブでの講演で、米国では,現在1,500万人の労働者が、失業中、もしくはフルタイムで働くことを希望しながらパートタイムで働くことを余儀なくされている、と述べた。非典型労働者は、雇用の面でも、経済的な面においても保障が乏しい。医療保険がカバーされていない労働者も多い。そういった労働者の多くは、ヒスパニック、アフリカ、アジア系アメリカ人などマイノリティの人々である。
AFL−CIOは、移民労働者の権利と公平性を確保するための団体を、支部組合に加えるという組織拡大のための新しい方針を推進中である。その担い手のひとりが、アメリカ労働運動の新勢力である「ニューボイス」の旗手ケント・D・ウォンUCLA労働研究教育センター所長である。厳しい雇用情勢のしわ寄せを一番受けやすい移民系労働者たちが、連帯して幸福な労働者生活を送れるように、日々支援活動を続けている。
50年前のアメリカの労働組合組織率は、35%であった。それが、今日では、13%にまで落ち込んでいる。従来、アメリカの労働運動には、スト破りの手段として低賃金で雇われるアジア、アフリカ系移民労働者を排除してきた歴史がある。しかし、ケント・ウォン氏によると、アメリカの組合運動は、90年以降大きく流れを変えているという。
2002年2月に、AFL−CIOは、その移民労働者に対する姿勢を劇的に転換させ、資格外移民労働者の人権擁護と正当な雇い上げのためのアムネスティ計画を打ち出している。
AFL−CIOの傘下で、サービス産業の労働組合として非典型で働く移民労働者を多くかかえる国際サービス労組(SEIU)は、低コストの労働力として採用される移民労働者が増え ている近年の状況から、次の運動方針を定めている。それは(1)移民労働者が、不当に扱われることなく、公正に合法的な地位を得ることができるよう支援 する(2)移民たちの市民参加を促すとともに、働きにあった賃金と生活のために必要な保障が得られるよう労働条件の改善を図る(3)労働者が家族と共に暮らせるよう支援を行う――というものである。
こうした方針の下、SEIUは、「ジャニターに正義を!」キャンペーンを展開。ジャニターと呼ばれるビル清掃従事者(多くはラテン系移民労働者)の組織化に成功している。このキャンペーンは、近年の労働組合運動の組織拡大化の象徴的なモデルとなっている。
さらに、SEIUが1999年に組織化したロサンゼルスの7万4,000人の在宅介護労働者の大多数は非典型労働者であった。この結果、アメリカの公的ヘルスケアシステムを 現場で支えつつも自らは医療保険に加入できず、低賃金で働く女性や移民労働者などマイノリティの人々が、労働運動に加わることになった。
産業構造の変化を背景として雇用が製造業からサービス業へとシフトし、パートタイマーや派遣など非典型労働者が増え続けている現状をみて、SEIUの顧問弁護士でもあったケント・ウォン所長は、「グローバル化が進展して労働力の移動と移民が世界的な傾向となっている今日、労働組合は国境にとらわれることなく、そして移民労働者を排除することなく、運動を展開していくことがますます重要になってくる」とこうした取り組みの意義を指摘している。
(国際研究部主任調査員・野村かすみ)
2003年11月14日