【事件名】地位確認等請求事件
【いわゆる事件名】朝日火災海上保険事件
【裁判所名】最高裁判所第三小法廷
【裁判年月日】平成 8年 3月26日
【事件番号】平成5年(オ)第650号
【審級関係】
第一審 福岡地方裁判所小倉支部 昭和58年(ワ)第465号 平成 1年 5月30日判決
控訴審 福岡高等裁判所 平成1年(ネ)第417号 平成 4年12月21日判決
【判例要旨】
1.一 労働組合法17条の趣旨は、一の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図るところにあるから、労働協約の一部の基準が未組織の同種労働者の労働条件より不利であっても、そのことだけで労働協約の規範的効力を未組織の同種労働者に及ぼしえないとすることはできないが、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約締結の経緯、労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を未組織労働者に適用することが著しく不合理と認められる特段の事情があるときは、その規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできない。
二 定年年齢を63歳から57歳に引き下げ、30年勤続の退職金支給率を引き下げる旨の労働協約の未組織労働者(上告人)への拡張適用につき、労働協約の締結にはそれなりの合理的理由があるものの、その効力を未組織労働者である上告人に及ぼした場合、上告人は労働協約の発効日に定年に達していたものとして退職したことになると同時に、退職金額が従来の退職手当規程による算出額よりも減額されるという大きな不利益だけを受ける立場となり、しかも同人は労働組合の組合員資格を認められていなかったという事情の下では、退職金額を右金額を下回る額にまで減額するという不利益を同人に甘受させることは著しく不合理であり、その限りにおいて労働協約の規範的効力は同人には及ばないとされた事例。
2.定年年齢を63歳から57歳に引き下げ、30年勤続の退職金支給率を引き下げる旨の就業規則(退職手当規程)の改訂の効力が、退職金支給率の引下げには高度の必要性があるものの、それを従来の退職手当規程によって算出される額を下回る額にまで減額する点では、その内容において法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものとは認め難いとして否定された事例。
3.具体的に発生した賃金請求権を、事後に変更された労働協約や就業規則の遡及適用により処分又は変更することは許されない。
【裁判結果】上告棄却
【出典名】労働経済判例速報1591号3頁/裁判所時報1168号6頁/労働判例691号16頁/判例時報1572号133頁/判例タイムズ914号82頁/最高裁判所民事判例集50巻4号1008頁