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アメリカでは、政府は原則として個人の生活に干渉しないという自己責任の精神と、連邦制のため州の権限が強いことが、社会保障制度のあり方にも大きく影響している。
■ 健康保険
アメリカには日本のような国民皆保険制度が存在せず、公的な健康保険制度は65歳以上を対象にしたメディケア(Medicare)と、低所得者を対象とした医療扶助制度であるメディケイド(Medicaid)に限られる。そのため、アメリカにおいて健康保険は従業員に対する重要な福利厚生施策の1つである。この場合の健康保険は、日本のように、健康保険に加入した従業員に対して企業が一定率の拠出を行うのではなく、会社の規模、福利厚生の充実度、従業員のポストなどにより補助率が異なっている。医療保険で企業が負担する保険料は平均して給与の1割を占めており、どの健康保険制度に加入するかで、企業の負担するコストが異なる。健康保険には主に次の3タイプがある。これら3タイプの保険制度のうち、現在はPPOとHMOを合わせて、全体の6?7割近くを占めている。
1補償型(fee-for-service)
患者は医療費をいったん立て替え払いした後、保険会社に請求する。後日、保険会社が一定額を控除し、残りを受益者に送金する。患者がどこの医療機関に行っても、基本的には保険の対象となるため、3タイプのなかで最も保険料が高い。
2PPO(Preferred Provider Organization: 優先供給者組織)
患者は決められたネットワークに加盟している医療機関で診療を受ける。ネットワーク以外の医師も利用可能だが、その場合は患者の自己負担額が増大する。保険料は、補償型とHMOの中間になる。
3HMO(Health Maintenance Organization: 健康維持組織)
患者は登録された医療機関でしか診療を受けられない。企業の負担する保険料は最も安い。
■ 失業保険
アメリカの失業保険は、社会保障法により、連邦の定めた基準下で各州がそれぞれ独自に制度を運営する。保険料は、連邦失業保険税と州失業保険とからなる。アラスカなどの3州を除き、保険料は事業主がすべて負担する。課税算定基礎は、各労働者に支払う賃金額(年間7000ドルまで)の6.2%を連邦税として課される。ただし、州失業保険税を支払った者については、そのうちの5.4%が控除されるため、現在の実質的な税率は0.8%である。
失業給付額は、一般に本人の週給額の50%程度に定められており、給付期間は最長26週とする州が多い。受給資格の要件は、過去1年間に一定期間以上にわたって雇用され、一定額以上の賃金が支払われたことである。
■ 労災補償
アメリカの労災補償(Workersユ Compensation)は、連邦職員、港湾関係者などの一部を除き、基本的には州法にゆだねられている。したがって、保険料、補償内容などは、州によって異なる。ほとんどの労働者が保険の適用対象になっているが、州により、農業労働者、家事使用人、臨時労働者、小企業の労働者などが適用除外となっている。保険料は、使用者が全額負担するものがほとんどであり、保険額は業種によって異なるが、賃金の2.3%である。保険給付には、労働災害による傷病の治療費、休業補償、障害補償、遺族補償などがある。
■ 年金
アメリカの年金制度は、公的年金と私的年金から構成されている。公的年金は国や地方自治体などが運営する年金を指し、私的年金はそれ以外の年金で、企業が運営する企業年金と個人が加入する個人年金を指す。
公的年金
公的年金制度は、公務員、鉄道職員などを対象とする個別制度と、老齢・遺族・障害者年金とよばれる一般的制度に大別される。一般的制度は、社会保障制度(Old-Age,
Survivors, Disabled, Health Insurance: OASDHI)と呼ばれ、財源は社会保障税(Social Security
Tax)である。社会保障税(12.4%)は、企業と労働者が折半し、賃金の6.2%をそれぞれ負担することが義務づけられており、自営業者の場合は全額本人が負担する。公的老齢年金は、原則65歳から満額支給されるが(2027年までに段階的に67歳に引き上げられる)、希望により62歳から減額受給することが可能である。また、被扶養者(配偶者・子・孫)には、原則として基本年金額の50%が支給される(ただし、家族給付上限規制あり)。
公的年金制度の改正
2000年4月に成立した高齢者の働く自由法(Senior Citizensユ
Freedom to Work Act)により、これまで所得限度額を超える年金以外の所得がある場合には減額されていた老齢年金について、支給開始年齢(現行65歳)を超える受給者については、年金以外の所得にかかわらず満額の年金が支給されることとなった。
企業年金
企業による従業員のための年金・財産形成制度は、確定給付型と確定拠出型に大きく分けられる。
1確定給付型年金(Defined benefit plan)
労働者が受ける給付があらかじめ定式化されており、基金の運用や物価の動向による変動のリスクは企業側が負う。
被用者退職所得保障法(Employee Retirement Income
Security Act: ERISA)
加入者および受給者を保護する観点から、企業年金がその設立、運営および終了に当たって充足すべき基準を規定している。これにより、確定給付型制度を提供する企業年金が支払不能となった場合、政府機関である年金給付保証公社(Pension
Benefit Guarantee Corporation: PBGC)により、一定限度の給付が保証されている。
2確定拠出型年金(Defined contribution plan)
企業の負担があらかじめ定められており、労働者が実際に受け取る利益は、その期間中の収益率によって異なる。確定拠出型年金には、貯蓄奨励制度、利益分配制度、ストック・オプション、従業員持株制度(ESOP)などがあり、このうち税法401条k項の要件を満たしたものは、一般に401kプランと呼ばれ、税制上の優遇措置が設けられている。
確定給付型および拠出型の内訳を資産残高の推移で見ると、1979年の税法401kの導入以前は給付型が大半を占めていたが、税法導入以降、拠出型が給付型を追い抜く勢いで近づいている。
■ 公的扶助(生活保護)制度
アメリカでは、日本の生活保護制度のような連邦政府による包括的な公的扶助制度は存在せず、高齢者、障害者、児童など対象者の特性に応じて補足的所得保障、医療保険、貧困家庭一時扶助、フードスタンプなどの各制度が分立している。また、州独自の制度も存在する。
■ 福祉から就労へ(Welfare to Work)
1996年8月の福祉改革の一環として導入された制度で、貧困家庭一時扶助を継続して5年間受給した世帯はその受給資格を失い、就労支援プログラムにより就労などによる自立を求められる。また、就労支援プログラムの労働者を雇用する企業には、一定の税制優遇措置が与えられている。
■ 高齢者福祉
アメリカでは、日本のような公的な介護保障制度は存在しない。そのため、医療介護が老人医療を対象にしたメディケアにより一部カバーされるにすぎず、介護費用を負担するために資産を使い尽くして自己負担ができなくなった場合に初めて、低所得者対象のメディケイドがカバーするという仕組みになっている。アメリカの高齢者介護サービスにおいては、民間部門(特に営利企業)の果たしている役割が大きいのが特徴である。
民間部門における人件費の内訳(2000年3月)
| |
全 体
|
1〜99人 |
100〜499人 |
500人以上 |
|
費用
|
% |
費用 |
%
|
費用 |
% |
費用 |
% |
| 合計 |
$19.85
|
100.0 |
$17.16
|
100.0 |
$19.30
|
100.0 |
$26.93
|
100.0 |
| 賃金 |
14.49
|
73.0 |
12.95
|
75.5 |
14.05
|
72.8 |
18.70
|
69.4 |
| 福利厚生 |
5.36
|
27.0 |
4.21
|
24.5 |
5.25
|
27.2 |
8.23
|
30.6 |
有給休暇
休暇
休日
病気
その他 |
1.28
.63
.44
.15
.06
|
6.4
3.2
2.2
.8
.3 |
.92
.46
.32
.11
.03 |
5.4
2.7
1.9
.6
.2 |
1.23
.60
.43
.15
.06 |
6.4
3.1
2.2
.8
.3 |
2.18
1.08
.73
.26
.11 |
8.1
4.0
.44
.15
.06 |
特別手当
割増賃金
シフト手当
非製造ボーナス |
.60
.24
.05
.31
|
3.0
1.2
.3
1.6 |
.47
.17
(2)
.29 |
2.7
1.0
(3)
1.7 |
.59
.26
.06
.28 |
3.1
1.3
.3
1.5 |
.93
.38
.13
.42 |
3.5
1.4
.5
1.6 |
保険
生命保険
健康保険
短期傷病
長期傷病 |
1.19
.04
1.09
.04
.03
|
6.0
.2
5.5
.2
.2 |
.89
.03
.82
.02
.02 |
5.2
.2
4.8
.1
.1 |
1.20
.05
1.09
.04
.03 |
6.2
.3
5.6
.2
.2 |
1.93
.07
1.73
.07
.06 |
7.2
.3
6.4
.3
.2 |
年金
確定給付型
確定拠出型 |
.59
.23
.36
|
3.0
1.2
1.8 |
.40
.14
.26 |
2.3
.8
1.5 |
.56
.21
.35 |
2.9
1.1
1.8 |
1.08
.49
.59 |
4.0
1.8
2.2 |
法定内福利厚生
社会保険
連邦失業保険
州失業保険
労災補償 |
1.67
1.20
.03
.10
.33
|
8.4
6.0
.2
.5
1.7 |
1.53
1.07
.03
.10
.33 |
8.9
6.2
.2
.6
1.9 |
1.65
1.17
.03
.10
.34 |
8.5
6.1
.2
.5
1.8 |
2.02
1.57
.03
.10
.32 |
7.5
5.8
.1
.4
1.2 |
| その他 |
.03
|
.2 |
(2) |
(3) |
.02 |
.1 |
.09 |
.3 |
出所:BNA.2001 Source Book
on Collective Bargaining. p. 187
|