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報告書の概要
今後の労働市場法制の在り方について
1 労働市場法制に関する基本的考え方
(1) 労働力需給調整機能の強化
イ 今後においては、@少子・高齢化の進展に伴う労働力供給制約の強まり、A産
業構造の変化、勤労者意識の変化等に伴う労働力需給のミスマッチの拡大、B自
主的な選択により転職等を図る労働者の増加、職業や働き方の多様化及び専門的
な知識技術を有する人材を労働市場を通じて確保しようとする動きの強まりなど
といった労働力需給両面からのニーズの変化、多様化等に対応し、各人が職業に
関する意欲と能力を十分発揮できること、及び失業の増大を回避、抑制すること
の両面から、労働力需給調整がより円滑、的確に行われるための仕組みを構築す
ることが重要な課題となる。
ロ 産業構造の変化、国際競争の激化等の下で、従来、労働力の効率的な配分や失
業の抑制に大きな役割を果たしてきた企業の機能に限界が生じている。また、今
後は、広範な分野において企業内では充足し得ない高度な人材へのニーズが高ま
るとともに、企業の枠にとらわれない労働者の就業ニーズ、就業意識の多様化も
進展する。このため、労働力需給調整機関の機能の強化が特に重要な課題となる。
(2) 労働市場整備に当たっての考え方
労働市場の整備に当たっては、市場原理に基づいた労働力の需給調整が行われる
ようにするとともに、労働力の持つ特性に十分に配慮していく必要がある。
イ 市場原理に基づく労働力需給調整のための条件整備
@ 労働市場における賃金、雇用条件の決定状況等についての信頼性の高い情報
の十分な供給及び情報への容易かつ安全なアクセス
A 労働力需給の円滑、的確な仲介機能の充実。特に今後は民間の機能の活用が
必要。
B 当事者の自由な活動の確保及び求職者保護のための仲介機関等が遵守すべき
ルールの整備
C ルールの履行確保の仕組みの整備及びルール違反についての迅速な苦情・紛
争の処理の仕組みの設定
ロ 労働力の持つ特性への配慮
労働力供給側である労働者は労働力が貯蔵できないこと等により耐久力や情報
収集力に関し需要側と格差があり、こうした主体間の交渉力格差を埋めるための
対応が必要となる。
@ 公共職業安定機関の提供するサービスは、労働市場におけるセーフティネッ
トであり、労働者の耐久力を補い適職選択を促進する機能として重要。
A 労働者の情報力を高めるため多数の労働力需給調整機関が存在し、信頼性の
高い情報が提供されることが重要。
B 最低賃金制度や団結権等の保障も労働者の交渉力を確保する機能として位置
づけできること。
C 職業能力開発機会の確保及び実務経験を含めた職業能力評価の仕組みづくり
が重要。
(3) 関係法制の現状
イ 国内法制
職業安定法は公共職業安定機関による職業紹介を中心とした規定になっており、
民間の労働力需給調整機関の役割を正面から視野に入れた労働市場の法的枠組み
の整備をする必要がある。また、労働市場の実情に合わなくなった規制もみられ
る。
ロ 国際基準
労働力需給調整に関する新たな国際基準であるILO第181号条約の内容を
踏まえつつ、職業安定法や労働者派遣法など関係法令の整備を速やかに行う必要
がある。
2 労働市場法制の見直しの方向性
(1) 基本的視点
労働市場法制については、労働市場における労働力需給調整機能の向上を図るた
め、民間の労働力需給調整機関が果たし得る機能を正面から視野に入れた新たな体
系への移行が必要であり、次の基本的視点に立って見直しを進める必要があると考
える。
イ 国民の勤労権及び職業選択の自由が保障されるよう、効率的で信頼性が高く、
かつ、セーフティネットを備えた労働市場を実現すること。このために、求職者
の利益の保護を図りつつ、求人者、求職者のニーズに応え得る多様な労働力需給
調整機関が市場原理に基づいて運営されるためのルールを設定すること。また、
国による職業紹介事業等の実施をはじめとして、労働市場のセーフティネットを
整備すること。
ロ 労働市場法制の見直しに当たっては、職業紹介、労働者の募集、労働者供給及
び労働者派遣の各類型を念頭に置くほか、今後における労働力需給調整機関のサ
ービスの形態、内容等の多様化にも適切に対応していくこと。
(2) 労働市場に関するルールの今後の在り方
イ 労働力需給調整に係る行為の類型に共通して適用されるルール
既に定められている差別的取扱の禁止、個人情報の保護、労働条件等の明示等
のルールは引き続き重要である。更に、ILO第181号条約の規定に留意しつ
つ、労働力需給調整機関による個人情報の処理のあり方に関するルールを設定す
ることが必要である。
ロ 労働力需給調整に係る行為の類型に応じて適用されるルール
(イ) 行為に関するルール
職業紹介事業者等が多様な求人者、求職者のニーズに的確に対応できるル
ールとしていくことが必要であり、このため求人・求職申込受理の原則、適
格紹介の原則は引き続き重要である。ただし、職業等についての専門的知識
を要したり、求職者に対する手厚いサービスを要する分野については、効果
的・効率的な労働力需給調整を図る観点から職業等を限定した求人・求職の
申込の受理ができることについて検討する必要がある。
(ロ) 労働市場への参入に関するルール
a 求職者の利益の保護を図りつつ、可能な限り市場原理に基づいて活動で
きるためのルールを整備するという基本的視点から、民間職業紹介事業者
等の参入の自由度を高め、より多数の者の参入を可能としていくことが重
要である。
b 事前規制システム及び事後規制システムには、求職者の利益の保護の観
点及び求人者、求職者のニーズに応え得る多様な労働力需給調整機関の市
場原理に基づいた運営の観点から、それぞれメリット、デメリットがあり、
各システムの機能を考慮しつつ、両システムを組み合わせた規制システム
が必要である。
c 今後においては、事後規制型システムを、労働市場を機能させるための
中心的な規制システムとして位置づけつつ、労働市場に関するルール違反
が求職者の人格的利益の侵害を含め大きな不利益をもたらす場合が多いこ
とに鑑み、求職者の保護等の観点から必要最小限度において事前規制型シ
ステムを併用していくことが適当である。この場合に、許可制等による参
入制限は、ネガティブリスト等の方式によって必要最小限の範囲にとどめ、
許可等の要件及び手続の明確性・透明性の確保、事業者の過度な負担の軽
減等の観点からより合理的な制度としていく必要がある。また、いわゆる
需給調整的な参入規制は行わないようにすることが適当である。
d 事後規制型システムをより的確に機能させていくためには、当事者が市
場原理に従って行動できる行為ルールの設定及びその厳格な履行の確保が
重要である。履行確保に関しては、司法の役割のほか、行政の役割も重要
である。
(3) 労働市場に関するルールの設定方法等
イ 労働市場において仲介機関等が遵守すべきルールについては、その内容の公正
さの確保の必要から、法令上明確に定められる必要がある。
ロ 設定されたルールが適切に機能するために、ルールの趣旨、内容の明確化が重
要であり、職業紹介事業者等の行動指針等を定めることが望ましい。
ハ 職業紹介事業者等が定める約款や倫理綱領は、求人者、求職者等に対して明示
されるようにすることが必要である。
(4) ルール違反への対応
イ ルールに反する行為を行った職業紹介事業者等が市場から排除されうることが
必要であり、許可取消、業務停止命令等の法的措置のほか、ルール違反に関する
情報を市場に提供することを通じ市場からルール違反者を淘汰する方法もありう
る。
ロ 労働市場に関するルール違反は、プライバシー等に関わり原状回復が困難な損
害が生じやすいため、事前防止のための措置が整備されること、また、損害が迅
速に回復されることも必要である。今後、事後規制を重視する下では、ルール違
反に対する救済やルールの履行確保の措置はより充実させていくべきである。
ハ ルール違反行為に対する苦情・紛争の処理については、当面は、関係者の利便
性や対応の専門性等の観点から、公共職業安定所において必要な対応が可能とな
るようにしておくことが適切である。さらに、窓口サービスの包括性の観点から
は、今後、ワンストップ・サービスの考え方の導入についても検討すべきである。
(5) 国の責務、役割等
イ 国は勤労権及び職業選択の自由の保障のための基盤整備を行う責務を有してお
り、具体的には、効率的で信頼性の高い労働市場の枠組みづくりと労働市場のセ
ーフティネットの整備である。
ロ 国の行う職業紹介事業は、すべての国民に対して勤労権及び職業選択の自由を
実質的に保障するための制度基盤であることから、求人者、求職者に対して無料
でサービスを提供すること、また、誰もが公平に利用できることが要請される。
ハ 民間の労働力需給調整機関については、その特徴や創造性を活かし、労働力需
給の円滑、的確な結合に十分な役割を果たすことができるようにすることが重要
であり、労働力需給調整の円滑化に向けた公共職業安定機関と民間の労働力需給
調整機関との適切な協力関係の構築が必要である。
ニ 雇用施策に関する国と地方公共団体の関係については、雇用施策についての役
割分担と位置づけの明確化、相互の連絡・協力等により、両者の施策が円滑かつ
効果的に実施されるようにすべきである。
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