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今後の社会保障改革の方向性に関する意見
―21世紀型の社会保障の実現に向けて―

IV 社会保障改革の方向性

(1)給付の在り方

 ○ 社会保障の給付水準は、これを支える負担との相互連関の中で考えていく必要
  があり、その意味で、特に、今日のような急速な少子高齢化や経済基調の変化等
  の中にあっては負担の維持可能性や公平性という観点から、その在り方を考えて
  いかなければならない。その際、システム全体の効率化を図るとともに社会保障
  の給付の範囲を見直すことを通じて、経済とのバランスを図りつつ、給付を負担
  可能な水準としていくことが重要である。

 ○ 他方、社会保障の給付は、現在のみならず将来の国民の生活に直接関わってく
  るものであり、負担の観点からその削減のみを論じることは、かえって国民の安
  心と生活の安定を損なうことにつながりかねない。

 ○ 給付の在り方を考えるに当たっては、すでにIで述べたような社会保障が本来
  果たすべきセーフティネットとしての機能を維持していくということを基本とし
  つつ、負担の維持可能性等をあわせ考え、給付全体の見直しと効率化を図ってい
  くことが必要である。なお、その際、我が国の歳出構造を見直すことにより、給
  付の充実を図るべきとの意見があった。

 ○ こうした検討に当たっては、次のようなことにも留意しなければならない。

 ○ まず、世代間、あるいはライフコースからみた給付構造の在り方である。すで
  にIIの(1)でも述べたように、我が国の社会保障の給付構造をマクロベースで
  みると、年金の成熟化などが既に進行した欧州諸国と比べて「高齢」関係の給付
  の割合が高く、「児童・家族」関係給付の割合については欧州諸国より低い。ま
  た、ライフコースの視点からみても高齢期に給付が手厚い。

 ○ 今後、我が国の少子化はさらに進み、2006年に人口のピークを迎えた後、
  急激な人口減少社会に移行するが、これは社会保障の維持可能性の根幹に関わる
  問題であり、こうした点からみると、今後、高齢者世代の理解を得ながら、「高
  齢」関係給付の伸びをある程度抑制し、これを支える若い世代の負担の急増を抑
  えるとともに、社会保障の枠にとらわれることなく次世代育成支援の推進を図っ
  ていくことが必要である。

 ○ このような給付の在り方の見直しは、世代間の公平の確保につながるほか、年
  金制度を始めとする世代間扶養を基本とする制度についての若い世代の理解を得
  ることにつながる。

 ○ こうした見直しと併せて、社会保障の総合化という観点に立って給付の効率化
  を図っていくことも重要である。例えば、年金制度では、住居も含め生活に要す
  るコストを保障している一方、長期に入所している者のいわゆる居住費用は、介
  護保険においても賄われている。このように制度間で給付の重複があるものにつ
  いてはこれを調整していく必要がある。なお、こうした調整を行う場合、高齢者
  世帯においては、公的年金を主な収入源として生計を立てていることが多いこと
  から、公的年金の給付水準に配慮しつつ対応する必要がある。

 ○ また、年金、医療、介護等は、主として高齢者世帯に係る生活リスクに対する
  ものであるが、若年世帯にも疾病や失業等の生活リスクがある。こうした生活リ
  スクに対し、有効な対応を総合的に図る観点から、年金、医療、介護等の社会保
  険のほか、生活保護、手当、雇用施策、住宅施策等をどのように組み合わせて対
  応していくかということも重要な視点である。この場合、例えば高齢者介護に関
  し、すべての高齢者を介護保険の被保険者としつつ、保険料負担や利用者負担が
  困難な生活保護受給者については、生活保護制度で対応しているように、異なっ
  た制度を相互補完的に組み合わせて設計することが望ましいとの意見があった。
  また、保険方式の下で、サービスの保障という性格を持つ医療や介護と年金との
  間では、公的関与の必要性の度合いに違いがあるのではないかとの意見もあった。

 ○ なお、生活保護については、他の社会保障制度との関係や雇用施策との連携な
  どにも留意しつつ、今後、その在り方についてより専門的に検討していく必要が
  ある。

(2)負担の在り方

 ○ IIでみたように、我が国の現在及び2025年時点での社会保障負担の水準は、
  マクロの国際比較でみても、家計においても、必ずしも負担不可能な水準という
  わけではないが、今後の社会保障の負担水準については、給付の在り方とともに、
  経済・財政とのバランス、世代間・世代内等の公平性の確保などの観点もあわせ
  考え、国民に選択を求めていく必要がある。

 ○ 我が国の場合、今後、団塊の世代の高齢化等により急速な負担増は避けられな
  い。このため、社会保障改革を進めるに当たっては、不断に給付の見直しと効率
  化を進め負担増の抑制を図りながら、将来の負担水準に関する見通しとそこに至
  る具体的な道筋を示し、広く国民的議論を展開し、国民に負担増に関する理解と
  納得を得ていくことが必要である。

 ○ また、各種の勧告等で確認されてきたように、社会保障制度を運営する方法は、
  社会保険方式を主体とし、財源については、保険料、公費負担、利用者負担の適
  切な組み合わせにより、確実かつ安定的なものとする必要がある。

 ○ このような観点からみた場合、厚生年金、国民年金は、現在、その保険料引上
  げが凍結されているが、将来に必要となる給付を賄うため、基礎年金の国庫負担
  割合の引上げを図るとともに先送りすることなく保険料を引き上げていく必要が
  あり、この凍結措置を早期に解除する必要がある。なお、この際、給付の抑制等
  の制度の抜本的改革を行うことが不可欠であるとの意見があった。

 ○ 今後、急激な人口変動に伴う負担の急激な上昇をできるだけ幅広い世代により
  支え合うとともに、生涯を通じた負担の平準化を図るという観点から、保険料や
  税について、高齢者世代も含めたあらゆる世代が能力に応じて広く公平に負担を
  分かち合う方向で努力する必要がある。

 ○ なお、保険料負担については、以下のような意見があった。
   (1)保険料増加による労働コストの上昇が雇用抑制や国際競争力低下を招きか
    ねないため、現役世代や企業の過重な負担は極力抑制すべき。
   (2)事業主負担は、労働力再生産のための雇用における「社会的必要コスト」
    であり、少なくとも現行負担水準は維持すべき。

 ○ 平成12年年金改正法附則で規定されている基礎年金の国庫負担割合の2分の
  1への引上げの問題についても、こうした世代間の公平や生涯を通じた平準化の
  観点を踏まえつつ、給付水準等についての幅広い検討とあわせて、安定した財源
  (平成16年度2.7兆円(平成11年度価格))の確保策と一体で検討し、そ
  の道筋をつけるべきである。その際、徹底した歳出改革を行うことを前提に高齢
  者を含め広く公正に負担する消費税を活用すべきとの意見があった。
   また、中期的には、税と保険料の組み合わせを含め年金の制度設計の在り方に
  ついて国民的議論をしていくことが必要であるという意見があった。

 ○ なお、諸外国では、ドイツやフランスにおいては、社会保険制度に対する税財
  源の補完的な投入が図られているが、既に社会保険料水準を我が国よりも相当程
  度高いもの(40%超)に引き上げた上でさらなる保険料の急激な上昇を抑制す
  る等の観点から行ったものである。

 ○ 社会保険における税財源の投入については、例えば、拠出の困難な者に重点的
  に投入する、各制度の特性を踏まえ、その財政的安定を図る観点から投入するな
  ど、その在り方を考えていくべきとの意見とともに、基礎年金・高齢者医療・介
  護の各制度の費用に充当するための税源として消費税を活用すべきとの意見があ
  った。

 ○ 国民の生活が多様であるように、国民一人一人の所得や資産には格差がある。
  とりわけ大企業労働者と中小企業労働者、また、現役時代の長年の蓄積が反映さ
  れる高齢者等の場合、その経済状況は各人で大きく異なっている。社会保障改革
  を考える上では、こうした格差を踏まえたきめ細かな対応が必要である。

 ○ 高齢者であっても所得や資産を有する者については応分の負担を求めていくこ
  とが必要であり、これは若い世代の理解を得るとともに、負担の裾野を広げるこ
  とにもつながる。このような観点から、社会保障における給付と負担や、公的年
  金に対する課税の在り方については見直す必要がある。なお、公的年金課税の見
  直しにより生じた税収は、基礎年金の財源に充当すべきとの意見があった。

 ○ 一方、低所得者対策については、これまで、医療や介護といった各制度がそれ
  ぞれの基準で対応してきたため、必ずしも整合性のとれたものとはなっていない
  面がある。また、低所得者であるかどうかの基準として住民税の所得基準などを
  援用しているため、公的年金等控除など税制上の控除の在り方が低所得者の範囲
  に影響を与えるという面もある。このような点をも踏まえつつ、社会保障制度と
  して、低所得者対策についての制度横断的な姿を示していく必要がある。

 ○ なお、負担能力に応じた適切な負担を求めることにより、社会保障制度に対す
  る信頼を高めるためにも、的確な所得捕捉を確保するための措置を講じることが
  必要との意見があった。

(3)国民負担率をめぐる議論

 ○ 公的な負担の水準をマクロベースで示す指標として、従来からいわゆる「国民
  負担率」が用いられてきた。この国民負担率については、経済成長との関係など
  種々議論はあるものの、昭和57年の臨時行政調査会の答申等において、当時の
  欧州諸国の水準を参考に財政規律の一つの考え方として「高齢化のピーク時にお
  いても50%以下」とすることが目標とされてきた。これまでの社会保障改革に
  おいても、結果的には概ねこの目標は達成されている。

 ○ また、財政規律の指標としては、国民負担率の他に、これに財政赤字を加えた
  「潜在的国民負担率」が用いられてきた。潜在的国民負担率は、2002年度現
  在で約47%となっており、今後、現行制度を前提とすると、2025年度段階
  では60%の水準となるとの試算もある。これは、現在のドイツ、イギリス、ア
  メリカより高く、フランス、スウェーデンより低い。

 ○ 潜在的国民負担率については、経済社会の活力を維持・増強するために、その
  将来の水準を50%程度とすべきとの意見があった一方、50%という議論は今
  日の欧州諸国の例をみても説得力のあるものとは言えず、負担を抑制することで
  結果的に給付を抑制するのでは国民の安心感を損なうとの意見があった。

 ○ そもそも、社会保障に関わる負担はこれと表裏一体の関係にある給付の在り方
  と併せて論ずべきであり、負担の水準のみに着目するのではなく、セーフティネ
  ットとしての社会保障給付の具体的役割やその持続可能性についても国民的な議
  論を行う必要がある。以上のような観点から、財政規律の考え方である「潜在的
  国民負担率」を社会保障のみと過度に関連づけて論じることは適当でない。

(4)国と地方をめぐる議論

 ○ 社会保障施策のうち、住民の暮らしに密接に関連するサービス等については、
  原則として、より身近な行政主体である地方公共団体において提供するという観
  点から、今後とも、地方分権の視点に立って見直しを進めることが必要である。
  なお、その際、国の役割と責任が明確化されるべきとの意見があった。

 ○ こうした見直しに当たっては、市町村合併の進展など、今後、市町村及び都道
  府県の在り方が大きく変化することを踏まえつつ、対応することが必要である。
  例えば、スウェーデンにおいては、基礎的自治体の規模を拡大した上で、「年
  金」は国、「医療」は県(ランスティング)、「福祉」は市町村(コミューン)
  のように機能分化が明確に行われている。我が国においても国と地方公共団体の
  機能を明確にしつつ、これらが重層的に連携するという観点から、国と地方の役
  割分担を整理することが適当である。

 ○ 国と地方の負担の在り方については、サービスや給付の内容に応じて適切に整
  理することが適当である。その場合、例えば、高齢者介護などの各種地域福祉
  サービスのように事業の実施については地方の自主性を尊重しつつも、財源につ
  いては、国と地方が役割に応じて持ち合うといった整理も一つの考え方である。

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