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今後の社会保障改革の方向性に関する意見
―21世紀型の社会保障の実現に向けて―
I 社会保障の機能・役割
(1)セーフティネットとしての社会保障
○ 人は、日々の生活の中で、また、生涯の各段階において、出産・子育て、障害、
疾病、失業、老齢など様々な支援を必要とする場面に遭遇する。社会保障は、こ
のような個人による自助努力のみでは対応できない場合に人々の生活を社会全体
で支えるセーフティネットとしての機能を果たしており、リスク分散、所得の再
分配などを通じて、国民の安心と生活の安定に欠かせないものとなっている。
○ また、社会保障は、個々の国民が心身ともに健康で働くことを通じ、活力ある
社会経済システムづくりに貢献するとともに、年金給付等により消費を下支えし、
社会の安定を支える基盤ともなっており、人々の生涯の各段階を支えるための仕
組みである「社会的共通資本」とも言える。
○ 社会保障の持つセーフティネット機能の一つとして、国民の所得を再分配する
機能がある。近年、市場を通じた経済活動による所得の格差は増大する傾向にあ
る中で、年金の成熟化等により社会保障による再分配効果は上昇しており、再分
配後の格差は主要先進国の中で中程度の水準にとどまっている。
○ 社会保障のセーフティネット機能については、社会経済環境や国民の意識の変
化によりその範囲・水準が様々に変わりうる。今日のように厳しい経済情勢が続
き、少子高齢化の進行など社会構造が大きく変化する中では、社会保障制度の持
続可能性について懸念が示されており、こうしたセーフティネット機能について、
給付と負担の在り方を抜本的に見直すことを通じて、より限定的なものとすべき
であるとの意見がある。
○ 一方、長引く構造不況の下で、国民の将来に対する不安が増幅している今こそ、
社会保障に関する国の責任と役割について明確化しつつ、より高いレベルで社会
保障の充実を図っていくべきとの意見もある。
○ 今日の我が国の社会保障は、国民皆年金、皆保険により全ての国民を対象とし
た普遍的な制度となっている。制度改革を進めるに当たっては、こうした点を踏
まえつつ、単に所得再分配効果のみならず社会保障が本来果たすべき、生涯を通
じて生活保障を行っていく「セーフティネット機能」を維持できるようにしてい
くことを基本に考えていく必要がある。
(2)社会経済との関係
○ 社会保障と経済との関係については、社会保障部門の生産波及効果はサービス
業の中では比較的高く、また、社会保障分野の就業者数の伸びは全産業平均の伸
びを大きく上回っている。今後の我が国の経済を考えると、医療、福祉等は成長
産業として大きな雇用創出が期待でき、かつ、内需拡大に資する分野である。
○ 経済活力の維持を図る観点からは、社会保障制度が、就業や雇用を抑制するこ
とになったり、公的部門の拡大により民間部門を圧迫するといった事態が生じる
ことがないよう制度運営を図ることが必要である。なお、給付の削減や度重なる
制度の見直しなどは、社会保障制度に対する不信と将来の不安を招き、経済活力
を損なうおそれがあるとの意見があった。
○ また、公的な社会保障に、民間活力をどのように組み合わせていくのかという
点も、経済の活力を維持するために重要な視点である。
○ 社会保障改革の実施に当たっては、以上のような点を踏まえつつ、社会保障が、
生産や雇用の面で成長産業として経済の活性化に貢献し、経済環境が悪化した場
合にあっても、社会の安定、有効需要の創出、労働力の再生産など継続的な企業
活動を支える面があることに留意しつつ進めることが必要である。
○ なお、所得の再分配としての機能を持つ社会保障が十分にその役割を果たして
いくためには、生産性の高い経済が不可欠であり、こうした経済を実現していく
ための改革を進めていくことが必要との意見があった。
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