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        持株会社解禁に伴う労使関係懇談会中間とりまとめ





T はじめに



  第140回国会において、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以

 下「独占禁止法」という。)が改正され、純粋持株会社が解禁された。独占禁止法

 をめぐる国会審議においては、持株会社解禁に伴う労使関係上の問題について種々

 議論がなされ、平成9年5月14日に衆議院商工委員会、6月10日に参議院商工

 委員会で、持株会社の解禁に伴う労使関係の対応については、労使協議の実が高ま

 るよう、労使関係者を含めた協議の場を設け、労働組合法の改正問題を含め今後2

 年を目途に検討し、必要な措置をとる旨の附帯決議が付されたところである。

  このため、附帯決議にある労使関係者を含む協議の場として、平成9年8月に労

 使関係者に学識経験者を加えた三者構成の「持株会社解禁に伴う労使関係懇談会」

 (以下「懇談会」という。)を開催した。懇談会においては、独占禁止法の改正に

 より、いわゆる純粋持株会社すなわち「株式を所有することにより、国内の会社の

 事業活動を支配することを主たる事業とする会社」(改正前の独占禁止法第9条第

 3項)が解禁されたことに伴う労使関係の対応について検討したところである。

  懇談会では、2年余の間全13回にわたり純粋持株会社に係る諸制度の把握、企

 業ヒアリング、海外調査等を重ね検討を進めてきたが、現状では、我が国において、

 純粋持株会社の設立がほとんど進んでいないこと等も踏まえ、今回は中間報告とし

 て現段階における検討結果を報告することとする。

  なお、本問題については、今後、純粋持株会社をめぐる状況を踏まえつつ、引き

 続き議論を深めていくことが適当であると考える。





U 懇談会における検討の経緯



 1 純粋持株会社に係る諸制度の把握



   懇談会においては、まず、純粋持株会社に係る諸制度等を把握するため、公正

  取引委員会事務局から「独占禁止法の改正によって解禁される持株会社の範囲」

  について、またシンクタンクの研究員から「純粋持株会社解禁と日本的経営」、

  「海外の持株会社の状況」について説明を受けた。さらに、懇談会の事務局から

  海外の労使協議制のほか株式交換制度の導入等を内容とする商法改正、連結納税

  制度の導入に向けた動き等について説明を受けた。



 2 国内の現状について



   続いて、懇談会においては、純粋持株会社をめぐる国内の動きを把握するため

  に、平成10年の3月及び5月に、実際に持株会社を導入した企業グループ、社

  内分社制を導入している企業から労働者側も交えてのヒアリングを実施した。

   国内においては、企業形態として純粋持株会社を選択している企業が極めて少

  なく、十分なヒアリングであったとは言い難いが、ヒアリングの範囲内では、純

  粋持株会社は、グループ・マネジメント体制の確立、グループ企業の財務体質の

  強化のために設立されたこと、経営戦略の構築や経営上の重要決定を行う役割を

  担うものと位置づけられており、いわゆる日常のオペレーション、たとえば、子

  会社の労働者の賃金や労働条件の決定については、基本的には各子会社が判断し

  て行うこととしていることが把握できた。また、社内分社制の導入は持株会社移

  行への布石とする見方もあるが、社内分社制を導入している企業でも、必ずしも

  純粋持株会社への移行を目指しているわけではないこと、企業グループにおいて

  は個々の企業の労働条件は個々の企業で決められているが、個々の企業における

  労使協議制とは別に企業グループ全体としても労使協議制を設け、経営事項等に

  ついて情報提供等を行っているところもあること等も知ることができた。

   また、このヒアリング結果からは、現段階においては、純粋持株会社と子会社

  の労働者との間で特段の問題は生じていないものと推測される。しかしながら、

  一部の企業においては、使用者側からは、純粋持株会社という形態の下において

  もできるだけ子会社の労働者の雇用を守りたい旨の発言もあったが、労働者側は、

  将来的に子会社の経営の悪化が子会社の清算等に結びつくのではないかという不

  安を抱いていることも判明した。



 3 諸外国の現状について



   さらに、懇談会においては、平成10年10月に、海外における持株会社の業

  務・役割や子会社への関与等について実情を把握するために、欧州及びアメリカ

  にて海外調査を行った。この海外調査、シンクタンクの研究員による説明及び事

  務局の調査等から察すると、海外における持株会社は、その成立の背景等が我が

  国とはかなり異なる面があり、また、労使関係についてもその実情を異にするた

  め、そのまま我が国にあてはめることは困難であると考えるが、今後の我が国に

  おけるあり方を考えていく上での参考資料として調査対象企業等の概要を紹介し

  ておく。

 (1)持株会社の設立の背景及び趣旨

  ・ 諸外国の持株会社は、多岐にわたる事業を営む子会社を統括し、企業グルー

   プの経営戦略の構築や経営上の重要決定を担うために設立されている。

    調査した持株会社の役員会には、当該グループの一つ又は複数の中核となる

   子会社の特定の役員が参画していた。

  ・ アメリカでは、銀行、電力、保険のような規制産業に関して、州ごとに規制

   が異なるため、総括的に管理する会社として純粋持株会社を設立していた。ま

   た、ある日系企業では、連結納税制度を採用できること、企業グループとして

   の横の連携を強化することを考慮して純粋持株会社を設立していた。

 (2)持株会社の子会社への関与

  ・ 持株会社は子会社に対し、経営目標・経営方針の提示を行い、子会社はそれ

   に沿って事業活動を行っていた。例えば、持株会社が子会社に経営目標の提示

   をし、達成状況の報告を求めていたが、提示された経営目標をどのように実現

   するかは完全に子会社の裁量に任されていた。

  ・ 持株会社は、子会社の大規模な投資案件あるいは組織の再編についての決定

   も行っていた。一方、子会社の賃金等の労働条件決定については、親会社たる

   持株会社は全く関与していなかった。

 (3)持株会社と子会社とのグループ労使協議制

  ・ アメリカでは、調査対象企業においては、労使協議制は設けられていなかっ

   た。

  ・ ドイツにおいては、事業所(職場)レベルの従業員代表委員会、企業レベル

   の中央従業員代表委員会が設置されており、中央従業員代表委員会の決議によ

   り、コンツェルン(支配企業とその下にある一つ又は複数の従属企業が支配企

   業によって統一的に運営される場合は、これら企業全体をいう。)レベルでの

   コンツェルン従業員代表委員会が設置できることになっている。人事・労働事

   項については、事業所・企業レベルで話し合われ、コンツェルンレベルでは、

   コンツェルンに適用範囲が限定されている福祉施設の形態等について話し合わ

   れていた。

  ・ フランスの企業グループ委員会は、企業グループ全体の経営状態について情

   報伝達をするための機関として法律上設置義務があるが、内容や構成は各企業

   の実情に応じて決めてよいとされている。企業グループ委員会の法制化時には、

   使用者側は反対であったが、現時点においては、労働者側における企業経営に

   対する理解、企業組織再編時の労使の関係の円滑化等の観点から一定のメリッ

   トがあると評価されている。

  ・ イギリスでは、労使協議制が制度として義務づけられてはいないが、自主的

   に持株会社、子会社の使用者及び労働者代表からなる協議機関を設けているグ

   ループもあり、必要に応じて、経営情報の公開を行い、労働者側の理解を得る

   という点で有意義と考えていた。また、大陸型の労使協議制に労使共に関心を

   持っていた。



   このように、欧州の労使協議制の評価は労使とも概ね肯定的であり、持株会社

  グループにおいても、経営情報の公開が行われ、労働者側における経営方針に対

  する理解と協力、労使の信頼感の保持等に一定の役割を果たしていた。なお、欧

  州における調査は、主に使用者側から意見を聴取する形で行われたものであるが、

  少なくとも調査対象企業においては、持株会社と子会社との間の労働条件の決定

  をめぐる問題は、特段生じていなかった。





V 純粋持株会社解禁に伴う問題



 1 問題の所在

 

   本懇談会において、上記Uに述べた企業ヒアリングや海外調査等を踏まえ、純

  粋持株会社解禁に伴う問題について議論を進めた。

   労働者側は、

  ・ 持株会社の運営において、親会社の事業主について、子会社の労働者に対す

   る使用者性が認められる場合に関する基準を明らかにすること、

  ・ 特に、持株会社が子会社の労働条件の決定や人事管理上の方針決定に関与し、

   これに子会社が従っている場合など、子会社の経営を全面的に支配したり、子

   会社が持株会社の一部にすぎないなどの実態がある場合には、持株会社として

   の地位の濫用であり、持株会社は子会社の労働組合に対して団体交渉応諾義務

   を負うことを明示すること、

  ・ 純粋持株会社を解禁したからといって、直ちに現在の事業持株会社や親子会

   社における問題と異なる新たな問題が純粋持株会社について生じることはない

   にせよ、従来から生じていた親企業の影響に係わる問題が顕在化し質的変化を

   生じさせる可能性があること、

  ・ 事業部門の分社化等によって、ユニオンショップ協定が存在することにより、

   労働組合が各子会社ごとに細分化され交渉力が弱まることや会社合併によって

   著しく差異のある労働条件が労使の十分な話し合いによらずに一本化されるな

   どの問題が生じることが懸念されるため、企業グループを単位とする労使協議

   制や統一的労働協約の締結の必要性を明示すること、

  を主張した。

   これに対し、使用者側は、

  ・ 持株会社解禁に伴う労使関係専門家会議の報告書(平成8年12月)が出し

   た使用者性についての結論(持株会社の解禁に伴い労組法第7条の「使用者」

   の規定を整備することについては、(中略)使用者性の判断に関して一般的に

   適用しうる基準を定式化することは現時点では困難であり、また、現在の親子

   会社間の関係もそれぞれ大きく異なっているから、現行規定における「使用者

   」の解釈で柔軟な対応を図ることが妥当であると考える。)を変える必要はな

   いこと、

  ・ 純粋持株会社の動きも見えず、問題も生じていない段階で、抽象的な仮定の

   議論を重ねるべきではないこと、

  ・ 純粋持株会社においては、グループ内において、戦略的に経営資源の配分を

   行うのが本来の役割であり、子会社の役員人事と財務(グループ全体の投資案

   件の決定等)しか扱わないのではないか。したがって、純粋持株会社において

   は、子会社の日常的な経営判断に関わることはなく、また、子会社の労働者の

   労働条件の決定にまで関わることもないこと、

  を主張した。

   このような状況の中で、主として議論となったのは、純粋持株会社の子会社に

  対する使用者性及び企業グループにおける労使協議制であり、以下この二点につ

  いて検討結果を報告することとする。

   なお、この問題を検討するに当たって、まず、純粋持株会社とその子会社との

  間のあるべき関係について、その考え方を整理した。



 2 純粋持株会社のあるべき姿について



   解禁された純粋持株会社設立の本来の趣旨は、企業グループの経営戦略と子会

  社の日常的経営判断・事業活動とを分離し、各子会社の日常的経営判断から離れ

  た、より大胆で、中長期的視点に立ったグループの経営戦略を純粋持株会社が決

  定することができるようにするためである。

   したがって、純粋持株会社が子会社の経営に関与するとしても、それは経営目

  標の提示や役員人事等にとどまるのであって、日常的な経営判断・事業活動につ

  いては、子会社が決定権限を有し、子会社の裁量により事業活動が行われるもの

  である。これは、労働関係についても同様であり、純粋持株会社がグループ全体

  の経営戦略の一環として個々の子会社の人事労務に係る目標を示すことはあると

  しても、子会社の労働条件の決定にまで介入することは本来の姿でない。

   このことは、労使スタディーチームの取りまとめ(平成8年4月23日 連合

  /日経連/経団連スタディーチーム)においても、「持株会社の解禁にあたっては、

  従来にも増して所有と経営の分離を明確にし、労使関係を含め、子会社経営の自

  主性が尊重されなければならない。」と明記されているところである。



 3 団体交渉当事者としての純粋持株会社の「使用者性」について



   純粋持株会社においては、上記2で述べたような本来のあるべき姿からみて、

  子会社の労働組合との関係において問題を生ずることは、一般の親子会社等の関

  係に比べより少ないと考えられるが、本来の趣旨とは違った企業行動をとる純粋

  持株会社が出現する可能性も否定できない。純粋持株会社が、子会社の具体的な

  労働条件の決定にまで関与する場合には、子会社の労働組合に対して、団体交渉

  当事者としての純粋持株会社の使用者性が問題となるケースがあるが、その場合

  にはこれまでの判例の積み重ね等を踏まえ現行法の解釈で対応を図ることが適当

  であると考えられる。

   使用者性の有無の判断については、現在最高裁判例による「基本的な労働条件

  について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することが

  できる地位にある」(朝日放送事件 最高裁第三小法廷 平成7年2月28日判

  決)という考え方が示されている。使用者性が認められるか否かは個々具体的に

  判断されることになるが、この判例及びこれまでの命令例から整理すると、使用

  者性が推定される可能性が高い典型的な例としては以下のようなものが考えられ

  よう。

  @ 純粋持株会社が実際に子会社との団体交渉に反復して参加してきた実績があ

   る場合

   例えば、純粋持株会社の取締役が交渉担当者として団体交渉に反復して出席し

  てきたような場合、労働組合の団体交渉申し入れが純粋持株会社に対してなされ

  ており、純粋持株会社側がそれを否定してこなかったような場合等が考えられる。

  A 労働条件の決定につき、反復して純粋持株会社の同意を要することとされて

   いる場合

   例えば、賃上げ等について、子会社が反復して純粋持株会社と相談し同意を得

  た上で決めているような場合やその都度純粋持株会社に報告して同意を得ないと

  実施できないような場合等が考えられる。



 4 企業グループにおける労使協議制について



   現在、日本においては、経済のグローバル化、企業の組織形態の多様化等を背

  景とした株式交換制度の導入等を内容とする商法改正、連結決算制度の導入等も

  相まって、従来、基本的に、企業単位で考えられてきた経営戦略、業績等が企業

  グループ単位で考えられる状況になってきている。このことは、特に、他社株式

  の所有を主たる事業とする純粋持株会社において顕著であると考えられる。

   従来、我が国においては、大企業・中堅企業を中心に企業内に労使協議制が設

  けられてきており、企業の経営方針、経営状況等を説明することを通じて、企業

  経営に対して労働者側の理解と協力を得る上で大きな役割を果たしてきたところ

  である。持株会社解禁に伴う労使関係専門家会議の報告書でも指摘しているよう

  に、企業グループの場合には、企業グループの経営方針について意見交換の場が

  設けられることは、グループ全体の運営方針の円滑化、グループ各企業内におけ

  る労使協議の活性化などの観点から望ましいと考えられるので、持株会社を頂点

  とする企業グループにおいても労使自治の下で労使協議が行われることが望まし

  いと考えられる。特に、純粋持株会社は経営戦略を通じて子会社の経営に影響を

  及ぼすと考えられるが、純粋持株会社と子会社の労働者との間で何らかの意思疎

  通の手段を有することは有用であろう。また、子会社の労働者にとっては、純粋

  持株会社を頂点とする企業グループにおいては、純粋持株会社が子会社を所有し

  ていることから、事業全体の再編の一環として、一般の親子会社等の関係に比べ、

  純粋持株会社の意向に沿って子会社の事業再構築や売却が起こりうるとの懸念が

  あり、このこと自体は経営専管事項であるが、実質的に子会社の従業員の立場に

  影響が及ぶのではないかとの不安がある。純粋持株会社及び子会社の使用者の側

  にとっても、安定的な経営を進めていく上で、あるいは、円滑な組織変更を進め

  ていく上で、労使協議の場で直接的に意見交換できることの意義は大きいと思わ

  れる。また、このことは子会社における紛争の未然防止、紛争発生の際の早期解

  決にも寄与すると考えられる。

   また、労使協議制の形態や内容については、労使自治に立脚しつつ、労使協議

  の実をあげ、意思疎通を図りやすくするという観点から、企業グループ内の労使

  で十分に話し合って決定すべきものである。





W フォローアップについて



  純粋持株会社が解禁されても、純粋持株会社が本来の設立の趣旨に沿って企業行

 動をしている限り、子会社の労働条件の決定に関与する等の労使関係上の問題は生

 じないものと考えられる。しかしながら、経済のグローバル化や国際競争の激化を

 背景に、関連する法制、税制の整備等と相まって企業の組織変更などが進み、純粋

 持株会社が今後増加することも見込まれる。現状では、我が国において、純粋持株

 会社の設立がほとんど進んでいないところであるが、純粋持株会社の今後の動向を

 見つつ、引き続き本問題について検討をしていくことが必要である。




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