IT人材の長期戦力化に向けたキャリア開発─中高年IT人材10名のプロジェクト経験分析

要約

吉田 康太(法政大学大学院)

本稿は、わが国が成長産業として位置づけるIT業界の人材不足に対応し、同業界で働くIT人材を「長期戦力化」させるために必要な育成施策の知見を得ることを目的としている。調査では協力企業から選ばれた45歳以上の中高年人材10名を対象に、先行研究の限界点を踏まえて長期かつIT業界の仕事単位である「プロジェクト」ごとに212件の仕事経験データを収集し、分析した。その結果明らかになったキャリア形成上の特徴は大きく3つである。1つ目は「柔軟な職域移動」であり、今回の対象者はIT業界で付加価値の高い上流工程での仕事経験をもちつつも、一つの職域にとどまることなく、組織の要請に応じて柔軟に活躍のフィールドを移しながら生き残っていた。この「柔軟な職域移動」を実現する要因として考えられるのが、2つ目の「キャリア早期からの担当工程と役割の拡大」、および3つ目の「キャリア中期における未知度の高い業務経験」という特徴である。前者は、上流工程への職域拡大につながっており、後者はそういった職域の拡大や移動の際に、自身が経験したことのない仕事を行うことへの自己効力感を高めている効果が見られた。以上のことから、技術革新が頻繁に起こるIT業界の中で長期戦力化する人材を育成するためには、「専門性を柔軟に移していけること自体がIT業界の専門性である」という認識も必要である。そして、特定の専門分野にこだわりすぎず、幅広い経験を行うことができるプロジェクト目線の「専門性にこだわらないキャリア開発」が必要となる。

2018年特別号(No.691) 自由論題セッション●第3分科会(キャリアに関する研究)

2018年1月25日 掲載