日本の労働市場の変質と非正規雇用の増加─同一労働同一賃金をめぐって

要約

樋口 美雄(慶応義塾大学教授)

企業は正規労働者よりも、短時間労働者や有期労働者など、非正規労働者に対する需要を高めている。本稿ではその背景を労働需要・供給の両面から考察し、そこで発生している課題を明らかにするとともに、解決策について検討する。非正規労働者の需要が増加している背景には、産業構造の変化、繁閑の差のある仕事の増加など、多くの原因が存在するが、同時に企業ガバナンスの変化に伴う短期利益の拡大、人件費の抑制、固定費化の回避といった経営方針の変化がある。他方、労働供給についても、かつては有配偶女性のパート労働者が多くを占めていたが、その背景には正社員として長時間勤務するよりは、短時間就業を好む人が多かったことがあったが、近年、夫の所得が低下し、生活防衛のために非正規労働者として働く人が増えている。他方、男性の30代・60代の世帯主、単身者の非正規労働者も増えているが、この中には「不本意非正規労働者」も多く存在している。非正規労働者の勤続年数も長期化し、重責を担う労働者も増えている。景気が回復し、人手不足が進展する中、非正規労働者の賃金が多少なりとも上昇し、正規に転換する人が増え、不本意非正規労働者が減るなど、問題解決の動きも見られるが、そのスピードは遅く、法律改正による支援も必要となっている。すでにいくつかの関連法が改正されてきた。いま日本的同一労働同一賃金の法制化を求めて、パート労働法や労働契約法、労働者派遣法の改正が検討されているが、この成立により、混乱なく問題解決の実効性が高まることが期待される。

2018年特別号(No.691) パネルディスカッション●非正規社員の処遇をめぐる政策課題

2018年1月25日 掲載