格差は主観的なウェルビーイングに影響を与えるのか

要約

浦川 邦夫(九州大学准教授)

ウェルビーイング(well-being)という用語は、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを基本的に意味する概念である。近年、ウェルビーイングに関する分析は、世界の様々な国、国際機関で積極的に進められており、個人の主観的な感じ方・捉え方に基づいてウェルビーイングを捉えようとする、いわゆる主観的ウェルビーイング(subjective well-being)の計測も多く見られるようになってきている。本稿では、主観的ウェルビーイングを決定する要因とそれがもたらす諸効果に関連する研究が様々な分野で蓄積され、主観的ウェルビーイングのデータが公共財や環境財などの非市場財の貨幣的価値の計測にも応用されていることを受け、わが国が抱える政策課題を人々の主観的ウェルビーイングの観点から考察する。特に、所得や居住環境、働き方などに起因する様々な格差・貧困への対応が重要な論点となっているわが国の実情を踏まえ、格差と人々の主観的なウェルビーイングとの関係を考察した国内外の研究に焦点をあてる。主観的なウェルビーイングの研究は、これまで見過ごされてきた人々の性質や行動原理の発見につながる。このことは、政府の公共政策の改善やより望ましい社会の構築に向けて重要な知見を提供するものと言える。

2018年1月号(No.690) 特集●格差と労働

2017年12月25日 掲載