障害者雇用に関する法制度の経済分析─企業の意思決定と社会的余剰による検討

要約

両角 良子(富山大学准教授)

本稿は、障害者権利条約への署名と批准にともなう一連の法整備に着目し、合理的配慮の提供義務、雇用差別の禁止、障害者雇用納付金制度に焦点を当て、これらの政策介入が労働市場に与える影響を、静学モデルと動学モデルから分析した。具体的には非障害者と障害者の賃金率と雇用量の変化、労働市場での生産者余剰・労働者余剰・社会的余剰の変化を検証した。合理的配慮の費用として、固定費用と一人当たり費用(準固定費用)を考慮した。分析の結果、以下の3点が明らかとなった。第一に、静学モデルでは、非障害者については、納付金制度の再分配機能により賃金率と雇用量が減少する。障害者については、差別の禁止によって消滅する雇用主の差別的嗜好からの費用と納付金制度からの再分配が大きく、合理的配慮の準固定費用が小さい場合には、賃金率と雇用量が増加する。第二に、合理的配慮の費用が初期時点でのみ発生する動学モデルでは、初期時点の障害者と全期間の非障害者の状況は、静学モデルと同様であるが、初期時点以外の期間の障害者については、納付金制度の再分配により、賃金率と雇用量が介入前より増加する。第三に、余剰分析では、静学・動学モデルの双方で、介入前と比べて社会的余剰が減少することがわかった。以上の結果から、合理的配慮の初期費用に見合うだけの納付金制度からの再分配が必要であるとともに、合理的配慮の提供に関わる知識や技術、成功事例を社会で共有し、失敗や無駄からの費用を軽減していくことが求められる。

2017年8月号(No.685) 特集●障害者雇用の変化と法政策・職場の課題

2017年7月25日 掲載