日本企業の人事管理と組織の柔軟性

要約

島貫 智行(一橋大学大学院商学研究科教授)

本稿は、日本企業における正規社員と非正規社員の人事管理について、組織の柔軟性という観点から検討する。組織の柔軟性とは、企業が外部環境の変化に対応する能力を意味し、一般に従業員の技能や能力にかかわる機能的柔軟性と、雇用量の調整にかかわる数量的柔軟性の二つから捉えられる。本稿では、機能的柔軟性と数量的柔軟性が代替関係と補完関係のいずれにあるのかを検討することを通じて、日本企業の正規社員と非正規社員の人事管理がどのような相互関係にあるのかを検討した。機能的柔軟性として人材育成施策を、数量的柔軟性として非正規社員比率と雇用調整施策の二つを取り上げて、2012年に実施された企業調査データを再分析した結果、正規社員による機能的柔軟性と非正規社員による数量的柔軟性の間に代替関係があり、当時の日本企業が正規社員を通じた機能的柔軟性の確保を重視する企業群と、非正規社員を通じた数量的柔軟性の確保を重視する企業群に分化している可能性が示唆された。これとあわせて、正規社員による機能的柔軟性と数量的柔軟性の間に補完関係が、さらに非正規社員の機能的柔軟性と数量的柔軟性の間に補完関係が見られたことから、上記の二つの企業群は、正規社員を通じて機能的柔軟性だけでなく数量的柔軟性をも確保しようとする企業群と、非正規社員を通じて数量的柔軟性だけでなく機能的柔軟性をも確保しようとする企業群であることが推察された。

2017年6月号(No.683) 特集●マクロ的な視点から読み解く労働問題

2017年5月25日 掲載