UV曲線と賃金版フィリップス曲線の変動要因─DSGEモデルからの視点

要約

江口 允崇(駒澤大学経済学部准教授)

寺本 和弘(ニューヨーク大学経済学研究科博士課程)

90年代以降、日本のUV曲線は右にシフトする一方で、賃金版フィリップス曲線はフラット化している。つまり、求人が増加しても失業率が改善しにくくなり、失業率が改善しても賃金が上昇しにくくなっているのである。本論文では、サーチ・マッチング型の労働市場の不完全性を導入したDSGEモデルを用いて、技術ショックや金融政策ショック、マッチングの効率性ショックといった様々なショックに対して賃金や失業率がどのように反応するのかシミュレーションを行い、マクロ経済学の観点から日本の労働市場の現状に対する視座を得ることを目的とする。本論文の分析の結果、以下のことが明らかになった。まず、求人と失業率を同じ方向に動かしてUV曲線をシフトさせるのはマッチングの効率性ショックのみである。また、賃金版フィリップス曲線についても、他のショックは右下がりの賃金版フィリップス曲線を描く一方、マッチングの効率性ショックのみがフラットな賃金版フィリップス曲線を描くことになった。以上を踏まえると、求人率と失業率が同時に増え、かつ失業率が下がったとしても名目賃金が上昇しないような状況を作るのはマッチングの効率性ショックのみとなる。しかしながら、他のショックもある程度の幅をもったUV曲線と賃金版フィリップス曲線を生成するために、UV曲線と賃金版フィリップス曲線の変動がその幅の範囲内におさまっている限りはマッチングの効率性が変化したかは分からない。日本の失業構造のより精密な分析のためには、モデルをデータから推定して本源的な経済ショックを識別する必要があるだろう。

2017年6月号(No.683) 特集●マクロ的な視点から読み解く労働問題

2017年5月25日 掲載