論文要旨 社員の定着率を高める採用と研修
─地方の自動車ディーラーの事例

山崎 正枝(法政大学大学院キャリアデザイン学研究科研究生)

中小企業において採用でミスマッチを起こさず従業員定着率を高めるのは、仕事内容の実態や、人間関係といった目に見えないものの説明が鍵である。本報告では高い定着率実績のある自動車ディーラー、高知市にあるネッツトヨタ南国の事例を採り上げ、採用と新人研修を切り口としてその理由を考察する。調査は、参与観察、インタビュー、文献研究により行った。

この事例では、定着率を高めることにつながる採用を行うためには、価値観という目に見えないものを重視する採用基準とRJP(Realistic Job Preview)を上手くマッチさせ、学生に主体的に選んでもらう方法が有効であった。併せて採用過程において、学生の仕事に対する価値観の自覚を促すことが効果を大きくしていた。研修では職場に入るまでの組織人としての思考訓練と社会化を図るが、同時に同期との仲間意識を醸成することで組織人への自己変革を乗り越えるエネルギーを満たしていた。採用と研修の方法は、ともにその効果創出を意識して丁寧に場がデザインされていた。さらに重要なのは、新人を受け入れる組織マネジメントの全ての施策を、経営理念の価値観で裏打ちして一貫性を持たせ、職場の環境を整えていることである。採用と研修は、他の施策と一貫性のある緻密なデザインによりミスマッチを防ぐことができると考えられる。

この報告は1つの地方中小企業の事例であり、これが汎用性を持つかを明らかにすることが今後の課題である。

2015年特別号(No.655) 自由論題セッション●第3分科会(職場とキャリア形成)

2015年1月26日 掲載