論文要旨 成果主義的人事制度改革への労働組合の対応
─A労組の賃金制度改定の事例より

三吉 勉(同志社大学大学院社会学研究科博士後期課程)

賃金の成果主義化を中心とした日本企業の人事制度改革の中で、労働組合が果たしてきた役割はあまり語られていない。本稿では、A社・A労組の賃金制度改定の事例を取上げ、集団的労使関係の主体者そして労働者の声を代弁する組織としての取組みを確認し、成果主義的人事制度改革に対する労使関係論的な視座を展望した。

労組は労働力の価格決定にいかに関与できているのかという点について、A社の賃金体系には査定部分の拡大、目標管理制度との接続、昇降給テーブルは等級毎にゾーン別・査定別に設定されるという特徴があることが観察された。これは能力・役割(等級)と働きぶり(査定)により絶対額で定まる労働力の価格を集団的労使関係の中で決定していることを含意している。次にルールの納得性確保に向けて、A労組は賃金制度の改定の論議の中で、経営に対する要求機能・職場に対する説明機能・経営と職場の間の調整機能を発揮し、会社との合意を調達するとともに職場の制度に対する理解度、納得性も高めている。

以上のように、労働組合は労働者の納得性を高めるための要求・調整・説明などを行い、また制度の最も中核となる労働力の価格を定める役割を果たしていることがわかった。成果主義人事制度改革による賃金の個別化によって集団的労使関係は一概に衰退するのではなく、アトム化された個人が前向きになって働ける環境づくりに向けた集団的労使関係への新たな意味付与の動きが進行しつつあることが軽視されてはならない。

2014年特別号(No.643) 自由論題セッション●第2分科会(職場とキャリア形成)

2014年1月24日 掲載