特集趣旨「「先生」の働き方」

「先生」と呼ばれる専門家達は、労働市場のなかでは、いわばあこがれの存在だった。自分のもつプロフェッショナルなスキルを武器にマーケットを渡り歩き、自由に仕事と報酬、そして理想の生き方を選べる典型として思い浮かぶのは(プロスポーツ選手でなければ)決まってこういう「先生」達の仕事だった。労使の交渉力格差はもはや消滅したと人が謳うときも、手近に引用されるのはこういう「先生」達の働き方だろう。極言すれば、もしもすべてのサラリーマンが「先生」達のようになれれば、世に問われている労働問題はすべて消滅してしまうかのような魅力が、「先生」にはある。ところが、「先生」達の仕事は、普通の労働者にとってそれほど理想的なのだろうか。あるいは、普通の労働者の到達点として想定できる働き方なのだろうか。本特集では、普通の労働者と「先生」達の何がどう違うのかを読者に追ってもらうことで、逆に労働者が労働者たる所以を再考してもらうきっかけをつくることを狙いとしている。そのために、本特集では、総論的な解説とともに、主に医師・弁護士・教師という3つの職種のキャリアや働き方を簡単にまとめた。その中間的な職種として、やはり「先生」と呼ばれることもある政治家や芸術家についてもとりあげた。

ところが、少なくともこの趣旨文を執筆している筆者が本特集を通じて個人的に垣間見たのは、「先生」達の職業がむしろ普通のサラリーマンに近づいてきていることだった。旧来、「先生」が雇われるという状況は例外的で、その分「先生」達の仕事は神聖視され、普通の雇われ人の仕事とは隔絶しているように見えた。近年、雇われる医師や雇われる弁護士の存在感が増し、非正規とも目される教師も増加している。どうやら「先生」達と普通のサラリーマンとの関係は、そう単純なものではないらしい。本特集が、読者諸氏の労働市場や労働者のあり方を再考する一助となれば編集者冥利につきる。

編集委員・神林龍

印刷用(PDF:259KB)

2014年3月25日 掲載

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