資料シリーズ No.201
諸外国における副業・兼業の実態調査
―イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ―

平成30年4月20日

概要

研究の目的

欧米諸国(イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ)における副業・兼業の状況や、複数就業者に対する労働政策・社会保障の適用・給付に係る状況について、情報収集を行う。

研究の方法

文献サーベイ

主な事実発見

  • 副業を行っている層は、就業者のおよそ4~7%。国ごとに度合いは異なるものの、女性が相対的に多く、また低賃金・低技能の仕事の従事者が多くを占めるとみられる。例えば、ドイツでは副業・兼業の従事者の9割がいわゆる「ミニジョブ」の従事者。フランスでは、兼業している雇用労働者の8割が女性で、多くはパートタイム労働者で、家事労働者や清掃業務の従事者が大部分を占めるとみられる。イギリスでは、経営管理職や専門職が一定の割合を占めるが、サービス業、小売業などの未熟練職種の従事者も女性を中心に多い。一方、アメリカでは専門職層が比較的多く、イギリスと同様、教育あるいは医療分野の専門職種が代表的。
  • 欧州各国では法律上、雇用主による副業に関する制限は、競業の禁止等の理由で限定的に妥当性を認める傾向にあるとみられる。例えばフランスでは、最高裁判例において、フルタイム従業員が就業時間外に勤務先企業と利害関係の全くない業務に携わることを禁止することは、企業の正当な利益保護に必要不可欠とは見なさない、との判断が示されている。ドイツでは、使用者は原則として、「正当な利益」に影響を及ぼさなければ、従業員の副業に同意する義務があるとされる。またイギリスでも、「明示の特約がない限り、原則として、使用者は、勤務時間外の自由時間において被用者が就労することを制限できない」 とされ、被用者は雇用契約上の黙示の義務として、競業避止義務を負う。アメリカでは法的規定はなく、基本的には雇用契約の内容による。
  • 欧州各国では、労働時間に関するEU指令に基づく法整備が行われ、週当たりの労働時間の上限や、休憩・休息などに関する規制が設けられている。労働時間の上限規制は雇用されて行う労働に適用され(自営業者として行う労働は対象外)、各雇用主には、労働者の健康と安全に配慮し、通算の労働時間が法定の上限を超えないよう配慮する義務があるとされる。

    ドイツでは、主業と副業の通算で1日8時間、週48時間の上限を原則として、6カ月または24週、あるいは協約等により合意された期間における平均での調整が可能。連続休息時間(インターバル規制)の適用や、副業によって労働時間の上限を超過した場合にどちらの雇用主が責任を負うかについては、諸説がある。

    フランスでは、雇用主の数に関わらず、原則として1日10時間、週48時間(または12週間の平均で44時間)が上限とされる。雇用主だけでなく、労働者の側の順守責任を併せて規定しており、違反した場合には罰金の対象となる場合があるほか、解雇される可能性もある。

    イギリスでも、17週間の平均で週48時間の上限が原則であるが、労働者がオプトアウト(適用除外)に合意すれば、法定の上限を超えた就労が可能である。また、法律上の配慮義務は雇用主に課されているものの、副業に伴う労働時間の上限規制への配慮や調整に関する実行上の責任が、労働者に課されている状況もうかがえる。

    一方、アメリカでは、労働時間の上限に関する法的規定はなく、週40時間を超える労働に対する割増賃金の支払いが定められるに留まる。例外的に、複数の使用者による「共同雇用」においては、労働時間の通算が義務付けられている。

  • 労働保険、社会保険制度は、欧州各国では原則として雇用ごとに適用され、加入の可否の判定、保険料の拠出等が行われるが、状況は各国で異なる。

    例えばドイツでは、主業・副業を問わず、労働者(従業員)は一般的に社会保険負担の対象となり、労使折半で社会保険料(年金、雇用、介護、健康保険)が拠出され、給付の受給権も雇用毎に獲得される。ただし、複数就業者の多くを占めるミニジョブ従事者については、制度上、賃金額が月額450ユーロ以下であれば、社会保険料の本人負担分が免除される一方、医療、介護、失業に関する社会保険が適用除外となり、雇用主のみが保険料を負担する労災保険は適用される。複数のミニジョブに従事している場合は、合算された賃金額により社会保険加入義務の有無が判定され、また、社会保険加入義務がある本業をしながら複数のミニジョブを行う場合は、1つを除いて本業の収入と合算することとされる。

    フランスでは、民間部門で就労する雇用労働者は、労働時間の長短に関わらず、失業保険をはじめとする社会保険の被保険者となる。複数の雇用主の下で就労している雇用労働者が一部の職を失った場合、保険料の拠出期間を要件として、従前賃金の57~75%(賃金額が高いほど低い率を適用)の失業手当が最長2年間、支給される。さらにもう一方の職も失った場合には、同様の計算により受給可能な額が算出され、合算のうえ調整がはかられる 。

    一方、イギリスでも社会保険の加入は雇用毎、賃金額が所定の水準を超えるかで加入の可否が判断され、各雇用主が、被用者分と併せて保険料を納付するが、支給に際しては、失業給付を含む給付の大半で、受給者または世帯について予め定められた額を基準に支給額が決定され、従前賃金は参照されない。このため、複数就労は基本的に支給額に影響しない 。労災給付についても、被用者であることを要件として、基準額をベースに受給者単位で支給額が決定される。

    またアメリカでは、健康保険及び年金の適用の可否は雇用ごとの労働時間(フルタイム、パートタイムの別等)による。また失業保険については、拠出は雇用主のみ、受給には賃金収入もしくは労働時間が要件となるが、複数就労者の場合は賃金および労働時間を合算して報告することが出来る。

政策的インプリケーション

副業の制度的な障壁が必ずしも高くないとみられる欧米諸国でも、実際に副業を行っている層は限定的。欧州各国では、複数就業における労働時間は通算が原則だが、雇用主の責任や社会保険制度の適用などは、実質的に雇用ごと。またアメリカでは、労働時間規制はなく、また社会保険等の適用においては拠出と給付受給の関連性が希薄で、拠出は雇用ごと、受給は労働時間・賃金を合算。

政策への貢献

「働き方改革実現会議」が推進する副業・兼業といった柔軟な働き方に関し、普及策と適正化策を検討する際の参考資料となることが想定される。

本文

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研究の区分

情報収集「諸外国における副業・兼業の実態調査」

研究期間

平成29年度

執筆担当者

樋口 英夫
労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐
飯田 恵子
労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐
北澤 謙
労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐
山崎 憲
労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員

関連の研究成果

  • 日本労働研究機構・資料シリーズNo.55『マルチジョブホルダーの就業実態と労働法制上の課題』(1995年)
  • 日本労働研究機構・資料シリーズNo.67『マルチジョブホルダーの就業実態と労働法制上の課題(II)』(1996年)

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