資料シリーズ No.189
ソーシャル・インパクト・ボンドの動向に係る海外事情調査
― イギリス、アメリカ―

平成29年3月31日

概要

研究の目的

社会的困窮者(刑余者、ホームレス等)は、経済活動への不参加、再犯のおそれや社会不安の原因であることから、その更正・社会的自立が望まれる。社会的自立のためには、経済活動の担い手として就業することが必要不可欠であるが、その前提となる職業スキルを獲得し、かつ安定的な職業生活に移行するための施策は、これまで、①NPO等民間セクターの活用ノウハウが蓄積されておらず、②将来的な社会的コストの低減の試算等も充分におこなわれてこなかった。このため、将来の社会的コスト削減を目指すとともに、事業リスクをヘッジする仕組みを併せ持つ「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」について、当該分野における活用の可能性を検討する際の資料として、SIBの諸外国における運用実態等を調査した。

研究の方法

文献サーベイ、現地調査。

主な事実発見

イギリスにおいては労働分野に対象に特化した事例はなく、刑余者の再犯防止、ホームレス支援、児童・若者支援など、予防的あるいは実験的な事業の実施に活用されている。典型的には、中央省庁が基金を設置しており、中間支援組織によるソーシャル・インパクト・ボンドの提案、発行、投資の呼びかけに非営利組織が応え、投資には民間基金が用いられるという仕組みになっている。イギリスにおけるソーシャル・インパクト・ボンドは、休眠口座の資金をはじめ、民間基金が投資資金としての役割を担っている。その多くが、従来から各分野で専門的な社会的サービスを提供する大小さまざまなサービス・プロバイダに資金を提供してきた。サービス・プロバイダにとって、ソーシャル・インパクト・ボンドからの資金を用いるメリットは、資金調達を中間支援組織が担うために、①サービス提供に必要な資金調達の負担から開放 、ないし負荷が軽減されること、②事業の開始に先立って資金が得られること、また場合によって③他の基金や寄付金に比べ長期間(継続性があり、ある程度予見可能性が高い)かつ自由度が高くなるといったことがあげられる。一方で、失敗のリスクを民間資金にシフトする代わりに成功時のリターンを保証するための評価における負荷に耐えうるサービス・プロバイダ以外は淘汰される可能性がある。

一方、アメリカでは、連邦労働省が教育訓練予算のなかにソーシャル・インパクト・ボンドを位置づけている事例がみられる。連邦労働省は、2014年労働力革新機会法(WIOA: Workforce Innovation and Opportunity Act)の創設にともない助成金を支給する事業の成果に関する客観的な評価指標を導入しつつある。助成金を支給する連邦労働省や事業を実施する州政府にとって、ソーシャル・インパクト・ボンドは、成功報酬型の助成金支給方法であるペイ・フォー・サクセスプログラムと変わらないものであり、外部委託契約の形式の違いという程度の認識に留まっている。これは、アメリカにおける公的教育訓練が助成金の支給を基本としていることに基づく。事業を担うサービス・プロバイダの運営予算は、歴史的にみて、連邦政府のみならず、民間寄付金財団からの助成金も運営予算のなかで大きな割合を占めており、連邦政府、民間寄付金財団の区別なく、事業成果に関する評価を受けてきたという背景がある。ソーシャル・インパクト・ボンドはスケールメリットと継続性に利点がある。この二点を可能にするため、十分なスタッフの規模やソーシャル・インパクト・ボンド以外の安定した予算確保手段をもつサービス・プロバイダが存在するか、もしくは育成できるかが重要と思われる。資金集め団体である中間支援組織に、機関投資家、もしくは小口投資家から潤沢な資金が集まるか、中間支援組織が複数のサービス・プロバイダとのネットワークをもっているかどうかが、事業立ち上げにおいて重要である。実施する事業がすべて計測可能であるわけではない。ソーシャル・インパクト・ボンドには被験者とそうでない者との比較から景気環境に左右されない客観的なデータ収集が欠かせない。職業訓練においては、就職率のみならず、訓練受講者の継続的な追跡調査が必要である。アメリカではそのようなデータは未整備だが、中間支援組織と大学研究機関等において、評価手法やデータ収集が検討されているが、途上である。

イギリス・アメリカのソーシャル・インパクト・ボンドの特徴

図表画像

政策的インプリケーション

イギリスでは従来、十分なサービスが実施されてこなかった領域における、予防的(=成果が判明するまで比較的長期間を要する)、実験的(=エビデンスの蓄積がなく、有効な手法が確立されていない)事業でソーシャル・インパクト・ボンドが活用されている。

アメリカの事例では、サービス・プロバイダの成長、サービス・プロバイダ間のネットワークの形成、被験者とそうでない者の継続的な客観的データ収集、評価可能な事業とそうでない事業との切り分け、現行で実施している事業における社会的インパクトを与えることができる評価方法の検討、社会的事業における民間寄付金財団の成長および社会的エートスの醸成等の前提条件があった。こうした条件がどの程度あてはまるかどうかについての検討が求められる。

政策への貢献

職業能力開発施策の企画立案に資する基礎資料となることが想定される。

本文

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研究の区分

研究期間

平成28年度

研究担当者

山縣 宏寿
諏訪東京理科大学専任講師
山崎 憲
調査部主任調査員

入手方法等

入手方法

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
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成果普及課 03-5903-6263

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