資料シリーズ No.151
地域における雇用機会と就業行動

平成27年5月27日

概要

研究の目的

わが国全体でみると景気回復傾向が鮮明になりつつある今日でも、その水準には地域差が残る。こうした中、2014年12月に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定されるなど、地方創生が政府全体の重点課題となっている。そこでは、地域からの若年者流出とそれに伴う地域の衰退が問題視され、若年者の地元定着や大都市圏からのUIJターン促進が重要な論点になっている。そして、若年者の定着・還流のためにも、地方に質の高い雇用機会を創ることが求められており、地域雇用政策の重要性はいっそう高まっているといえる。

そこで、本研究は、地域の雇用機会や若年者定着に関する実態を把握するとともに、雇用創出や就労支援の取組みについて、地域人口の構成や変動の視点も交えて考察を行った。

研究の方法

ヒアリング調査、統計解析

主な事実発見

(1)地域の雇用創出力を高める要因

計量分析の結果、製造業雇用増加が他産業の雇用増加をもたらす波及効果は、産業集積度の高い地域ほど、労働力流入率の高い地域ほど高くなる。また、雇用創出効果は地域の人口構成によって異なり、地域の高齢化率が高い場合、生産年齢人口比率が低い場合には雇用創出力が弱まることが検証された。

(2)地方都市における状況・課題と取組みの方向

地方圏におけるヒアリング調査の結果、地域雇用の状況や抱えている課題、取組みの方向性が、地域の地理的な位置づけや産業構造によって大きく異なるという事実発見を得た(ヒアリング調査地域は、図表1を参照)。まず、地方都市においては、業種によっては人手不足が鮮明になる中、賃金・労働時間などの労働条件面の問題を背景とする雇用ミスマッチ(=希望条件のミスマッチ)が問題化するなど、雇用機会の質に課題の中心がある。そして「希望する仕事がない」「大都市圏と比べて労働条件面(賃金等)で見劣りする」などの理由から、大学進学等で県外に流出した若者のUターンが期待ほど進まないことに課題を認識している。なお、製造業の集積地域では、高卒就職の状況が良好であるものの、大卒者の地元就職・Uターンは十分ではなく、地域の製造業が必ずしも大卒者の雇用の受け皿となっていない。こうした課題に対処する取組みとしては、求人側・求職者側双方への働きかけによるマッチングの工夫と充実、雇用の質の改善であり、同時に、地元出身者のUターン促進のために、相談体制の充実や情報発信・意識付けにも熱心に取り組んでいる。

図表1 ヒアリング調査地域一覧

図表1画像

注1:人口は2010年国勢調査の数値に基づく

注2:[+○○市]とは、調査対象の自治体を管轄するハローワークでの聞き取りにおいて雇用情勢等を把握した、その管轄区域内にある中心都市を指す

(3)都市部から離れた農村地域

都市部から離れた農村地域の場合、課題の中心は雇用機会の量の不足であり、公的機関や一次産業などの他に若い人の雇用の受け皿が乏しいことから、地元出身者は「帰りたくても帰れない」状況にある。雇用機会の創出が喫緊の課題であるが、企業誘致は望みにくく、大規模農業による効率化も難しい地域では、地元農産物のブランド化や6次産業化など、地域資源の再認識と活用によって局面を打開しようと取り組んでいる。また、地元の雇用機会の乏しさから出身者のUターンを望みにくく、Iターンへの期待も大きい。その地域に「選んで入ってくる」Iターン者の起業等によって地域の魅力が再発見されることは、地元の意識変革にもつながり、場合によってはUターンまで促せるなど、地域への貢献は小さくない。

(4)郊外的位置づけをあわせ持つ農村地域

農村地域にあっても、近隣に通勤可能な都市部がある地域は、状況がやや異なる。まず、近隣の都市部に一定の雇用機会が存在することから、市町村内での雇用機会創出にそれほど固執しなくてよい状況にある。人口面では近隣から子育て世代などの一定の流入が見られ、人口減少が目の前の課題となっていない場合もあるが、地元出身者のUターンが多くない点は他の地域と同様の課題認識をもつ。こうした地域は、子育て支援など生活環境を充実させることで近隣からの人口の呼び込みを図っているが、魅力的なまちづくりを行い、広くアピールすることで遠方から移住者をひきつける事例もみられる。新しい住民も少なくない中、コミュニティ意識の醸成にも取り組まれている。

 以上、ヒアリング結果に基づけば、「地域雇用の状況・課題」と「取組みの方向」に関して、地理的位置づけによる相違は、図表2のように暫定的に整理できよう。

図表2 事例地域における地域雇用の状況・課題と取組み―地理的位置づけによる相違―

図表2画像

政策的インプリケーション

これからの地域雇用政策は、地域の人口構成・人口変動の視点もふまえて、地域特性に合った政策的支援がいっそう求められる。また、Uターン促進には行政的支援が強く必要とされる。地元の就業機会における選択肢の乏しさからUターン就職を諦めているケースや、情報不足によるミスマッチ、地元企業の採用行動に関わる問題など、Uターンを阻害する要素が多いからである。Uターンの状況には地域の雇用機会の量と質の問題がより直接に反映されており、地域雇用政策として取り組むべき課題を多く提示している。

本文

  1. 資料シリーズNo.151全文(PDF:3.3MB)

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研究の区分

プロジェクト研究 「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」

サブテーマ「労働力需給構造の変化と雇用・労働プロジェクト」

研究期間

平成26年4月~平成27年3月

執筆者

高見 具広
労働政策研究・研修機構 研究員
風神 佐知子
中京大学経済学部准教授

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