資料シリーズ No.145
多様な正社員に関する解雇判例の分析

平成26年10月24日

概要

研究の目的

職務(職種)や勤務地等につき限定が付されている「多様な正社員」制度の導入が重要な政策課題となるなかで、その雇用終了、とりわけ解雇をめぐるルールの在り方に注目が集まっている。かかる多様な正社員の解雇ルールは、職務(職種)・勤務地等に限定が付されていない正社員における解雇ルールと異なるのか否か、異なるとすればそれはいかなる点において、どの程度異なるのかが議論の焦点であるといえよう。

 このような問題を考察するに当たっては、従来、職務(職種)や勤務地に限定が付されている期間の定めのない労働者に対する解雇事案において、裁判所がどのような法的判断を行ってきたのかを検討してみることが有益であると思われる。しかしながら、現在のところ、この点を網羅的に分析・検討した研究は存在しない。そこで、判例において解雇権濫用法理(現在の労働契約法16条)が確立して以降の時期における、上記のような限定が付されている期間の定めのない労働者に対する整理解雇および能力不足解雇に係る裁判例を網羅的に収集するとともに、そこでの裁判所による法的判断の傾向につき、分析を行うこととした。

研究の方法

本研究で、分析対象としたのは、原則として、以下のⅠ、ⅡおよびⅢに該当する裁判例であって、『労働判例』、『労働経済判例速報』および『労働関係民事裁判例集』のいずれかに掲載されているものである(なお、直近の裁判例については『労働判例ジャーナル』に要旨が掲載されているものを含む)。

  1. 最高裁レベルで解雇権濫用法理が確立したとされる高知放送事件最高裁判決(最判 昭和52・1・31労判268号17頁)以降から、平成25年9月1日までに判決・決定が言い渡された解雇にかかる裁判例であること。
  2. 整理解雇(変更解約告知を含む)および能力不足解雇の事案であること(なお、請求の形式については、地位確認請求、損害賠償請求、地位保全の仮処分等、当該解雇の法的有効性が問題となるものに限る)。
  3. 当該労働者の職務(職種)ないし勤務地が限定されている事案であること(なお、職務〔職種〕および勤務地につき、契約書面等において明示的に限定が付されている例のみならず、かかる明示が無くとも、採用の経緯や、就労の実態等からみて何らかの形で限定が付されていることを前提に、裁判所が判断を行っているものと解しうる例を含む)。

以上の方針のもと、本研究ではまず、分析対象となる裁判例を収集すべく、判例データベースである『LEX/DB』を用いて、上記・Ⅰに該当する裁判例の検索を行った。かかる作業により、計3,355件の裁判例が得られたため、続いてこれらを1件ずつ精査することにより、上記・ⅡおよびⅢに該当する裁判例を抽出した。

その結果、61件(内訳:整理解雇事案34件、能力不足解雇事案26件、整理解雇および能力不足解雇事案1件)が、上記・Ⅰ~Ⅲ全てに該当する裁判例として得られたため、各裁判例の要点を取り纏めた個票および整理表を作成するとともに、裁判所による法的判断の傾向につき分析を行った。

主な事実発見

1 整理解雇

  1. 限定性の有無について、裁判例は、職種(職務)の限定が問題とされる事案および勤務地の限定が問題とされる事案の双方について、契約書または就業規則といった書面上の記載よりも、採用の経緯(とりわけ、使用者側の当該労働者にかかる採用の動機・目的)または就労の実態(現に特定の業務に従事し続けてきているのか否か、他の業務に従事したことがあるのか否か、また他の業務にも従事していたとすればその頻度はどの程度であったか等)に着目して、当該雇用関係における限定性の有無・程度について判断する傾向がみられた。
  2. 限定性が法律判断に与える影響について、まず、限定があることのゆえに、整理解雇法理の適用を否定する旨を一般論として述べる裁判例は存在せず、むしろ、限定性がある場合についても、整理解雇法理またはこれに準拠した枠組みを用いて判断を行う裁判例が多いという傾向が見られた。これに関連して、「限定性が存在することのゆえに、いわゆる解雇回避努力義務が限定されるわけではない」旨を述べる裁判例もみられる。
  3. 個別の事例における具体的な判断において、限定性の影響が看取できる事例のうち、最も多く見られるのは、解雇回避努力の履行についての判断への影響であり、当該労働者にかかる限定性の帰結として、使用者の解雇回避努力としての配転等を検討すべき範囲を限定するというものである。ただし、こうした事例については、職務(職種)の限定から配転等を検討すべき範囲の限定を直截に導いているケースはむしろ少なく、多くのケースにおいては、客観的に配転が困難な事情の存在等と合わせて、解雇回避努力の範囲を限定する判断を導いている点に留意する必要がある。
  4. c.で述べたように、職務(職種)を限定して就労していた労働者については、結果としてその職務能力等に限界が生じ、解雇回避のための配置転換等が客観的に困難となる状況が生じうるところであり、このような場合については、使用者がとりうる解雇回避措置としての配置転換等の余地が限定されることとなる。しかし、このような場合であっても、当該事案における人員削減の必要性の程度、あるいは当該企業全体としての経営状況等を考慮した上で、解雇回避のための配置転換を可能とするために必要な教育訓練等を行う努力を使用者に対して求める裁判例も見られる。
  5. 上述のとおり、限定性が整理解雇の有効性判断に与える影響としては、整理解雇法理の枠組を用いるまたはこれに準じた判断を行うことを前提とした上で、解雇回避措置に係る具体的な判断について影響が看取される事例が最も多い。他方で、人員削減の必要性、あるいは人選の合理性を裏付ける要素として限定性を考慮する事例も散見される。

    加えて、少数ながら、当該労働者に係る限定性から、端的に解雇の合理性を裏付ける結論に導いている(限定されていた職務の消滅から、解雇はやむをえないという結論を導く)裁判例も見られた。但し、これらの事例については、「職務」あるいは「職種」が限定されているというよりも、さらに限定的な業務(任務)への従事を目的とした雇用であったことが判断の前提となっていると解しうる点に留意する必要がある(具体的には、子会社・関連会社・海外現地法人の代表取締役に就任する目的で締結された雇用契約であったケースで、当該事業からの撤退を理由に解雇された事案等)。

2 能力不足解雇

  1. 能力不足解雇事案では、もっぱら職務(職種)の限定が問題となっているところ、限定の有無・程度の判断にあたっては、整理解雇事案と比較すると、採用の経緯に係る判断要素に着目する例が多数を占めている点が特徴的である。とりわけ、労働者本人の学歴・職歴・能力、募集広告への記載内容、使用者側が当該労働者を採用するに至った動機・目的、当該職務(職種)に期待される能力についての労働者側の認識、労働者自らによる当該職務(職種)に期待される能力等を有していることについての説明等に着目して、労働契約当事者らにおいて当該労働者が行う職務(職種)を限定する意思を有していたか否かを判断する傾向にある。
  2. 能力不足解雇事案においては、整理解雇法理のような一般的な判断枠組が確立しているというわけではないことから、限定性が問題となる事案についても、特段一般論を述べることなく、端的に(就業規則上の)解雇事由該当性あるいは解雇権濫用の有無について判断を行う裁判例が圧倒的多数を占めている。
  3. 解雇事由該当性あるいは解雇権濫用の有無に係る具体的判断をみると、限定性の影響が幾つかのパターンにおいて看取できるところ、裁判例のなかで最も多く見られたのは、当該限定されている職務(職種)に求められる能力あるいは期待の高さに即して、就業規則上の解雇事由該当性を労働者側にとって厳格に(=解雇事由該当性が認められやすい方向で)判断するというものである。
  4. 職務(職種)の限定は、使用者が解雇に先立って講ずべき解雇回避措置の範囲についても、一定の影響を及ぼしている。すなわち、労働者が職務(職種)を限定せずに雇用されている場合には、整理解雇事案におけるのと同様、能力不足解雇事案においても、使用者には、解雇に先立って解雇回避措置を講ずることが求められるところ、職務(職種)を限定して雇用された労働者に対する能力不足解雇事案においては、解雇回避措置としての配置転換(あるいは降格)を不要とするものが散見される。また、職務(職種)の限定ゆえに、解雇回避措置としての配転が事実上不可能であるとの判断を行うものもみられる。ただし、労働者の行う業務の専門性が高度ではない場合には、使用者の解雇回避努力義務は縮減されないことを明言する裁判例も存在する。また、能力の低下が労働災害に起因している事案においては、職務(職種)について明示の限定があったとしても、解雇回避努力義務の範囲は縮減されないことを説く裁判例もある。
  5. このほか、職務(職種)を限定して雇用された労働者に対する能力不足解雇事案においては、解雇回避措置としての教育訓練措置の実施を不要とするものがみられたほか、医師のように高度に専門的な職種に限定されて雇用された労働者について、使用者が事前の注意、指導や警告を行っていなくとも解雇の有効性を認める裁判例もみられた。

政策的インプリケーション

上記の事実発見からは、(1)限定性は、契約書の記載のみによって認められるわけではなく、 むしろ、裁判所は、採用の経緯、就労実態に着目して限定性を認めていること、(2)「職務・勤務地限定=解雇ルールの緩和」ではなく、限定性そのものというよりも、当該雇用関係において、限定性の基礎となっている事実、あるいは限定性から派生する事実が解雇の有効性判断に影響している(能力への期待、可動性の範囲etc.)ことが看取される。

職務(職種)限定、あるいは勤務地限定を付した上で労働者を雇用する場合については、以上のような裁判例の傾向を踏まえ、契約書等の書面においてその旨を明示することが必要であることを当然の前提としつつ、第一に、その管理・運用にあたっても明確な措置をとることが必要であること、第二に、こうした限定を付した労働者の解雇にあたっては、当該事例に即した解雇回避措置を採ることが必要されうる点に留意すべきである。

政策への貢献

厚生労働省労働基準局「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」の資料として活用された。

同懇談会第10回会合において、本研究内容について報告を行った。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「企業の雇用システム・人事戦略と雇用ルールの整備等を通じた雇用の質の向上、ディーセント・ワークの実現についての調査研究」

サブテーマ「企業経営と人事戦略に関する調査研究」

研究期間

平成25年度

執筆者

細川 良
労働政策研究・研修機構 研究員
山本 陽大
労働政策研究・研修機構 研究員

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