資料シリーズ No.143
失業保険制度の国際比較
―デンマーク、フランス、ドイツ、スウェーデン

平成26年 7月15日

概要

研究の目的

日本の雇用保険制度の完全失業者に占める受給者実人員の割合が20%程度で推移していることがILO等から指摘されている。日本の雇用保険制度は、原則として直近2年間に1年以上の被保険者期間を有する者であって、公共職業安定所で失業の認定を受けた者であることを受給資格決定に当たっての要件としているほか、離職時の事情に応じた給付制限期間が設けられている。このような資格決定の仕組みが受給者実人員に影響を及ぼしているのか、欧州諸外国の失業保険等の制度を調査対象として、特に受給資格決定の仕組みについて国際比較を行う。

研究の方法

文献調査及び専門家へのインタビュー

主な事実発見

調査対象である4カ国の失業保険等の制度は、各国それぞれの社会的背景や労使関係上の歴史的経緯を反映しているため、運営主体や財源、適用対象や支給条件等は各国ごとに多様である。失業保険の適用対象について、ドイツ、フランスは民間部門の全被用者を対象とする強制適用である一方で、デンマーク、スウェーデンは任意加入の制度となっている。ただ、デンマークでは自営業者や公務員、職業訓練を修了した新規学卒者も対象としており広範にわたる特徴がある。制度の運営についてデンマーク、スウェーデンの失業保険制度の運営には労働組合が強く関与しているほか、フランスでは制度設定について、労働組合と使用者団体が定期的に協議して決定し、組織運営は共管するかたちをとっている。給付期間は保険制度を補完する扶助制度等がある国では長期化する特徴がある。ドイツやフランスには保険制度を補完する扶助制度がある。また、スウェーデンでは任意加入の保険制度を補完する基礎給付制度があり、デンマークでは公的扶助が保険受給権のない失業者の所得保障として機能している。また、通常の労働時間がゼロになる完全失業者のみでなく、労働時間の削減を被った労働者を部分的失業者として扱い、失業給付を適用する制度が4カ国ともある。各国の制度の特徴をまとめると、以下のとおりになる。

デンマークの失業保険は労働組合との関係が強く、労働組合加入と同時に組合が運営する失業保険金庫にも加入する場合が多いとされる。財源は保険加入者本人のみの保険料に基づいており、保険料は定額で各失業保険金庫が独自に設定する。受給資格は失業金庫に1年以上加入していることのほか、過去3年間の加入期間(保険料納付期間)中に52週以上就労していることである。失業保険給付の支給期間は、1994年当時までは7年間と非常に長い期間を設定していたが、失業率の高まりとともに財政難に陥り短縮化傾向にある。現在では2年間とされている。社会保障への依存を弱め、再就職へのインセンティブを高める政策をとっている。失業保険給付の適用がない失業者に対する制度として、失業扶助は制度化されていないが、公的扶助による最低生活保障の適用対象となる。

フランスでは、受給資格取得までの拠出期間は比較的短く、失業以前の28カ月間に4カ月(122日)間以上の被保険者期間があり、非自発的失業であること等が要件となる。支給期間は、50歳未満の者は最長24カ月の間、50歳以上は最長36カ月まで支給される。財源は労使が折半して負担する保険料に基づく。失業保険給付期間を満了した失業者に対しては、財源が全額国庫負担の失業扶助が適用対象となる。支給期間は6カ月を単位としているが、条件を満たせば更新し受給は継続できる。

ドイツでは、一般的に受給資格取得には保険拠出期間が24カ月の就労期間中に12カ月間以上必要である。支給期間は拠出期間と年齢によって異なり、6カ月から24カ月の間で段階的に決まる。拠出期間が最低の12カ月以上では支給期間が6カ月間、16カ月以上では8カ月、20カ月以上では10カ月、最長の24カ月の拠出では12カ月となり拠出期間の半分の期間の支給が認められる。また、50歳以上の失業者で30カ月以上拠出の場合に15カ月間、55歳以上で36カ月以上の場合は18カ月、58歳以上で48カ月以上の場合は24カ月の支給期間となる。さらに、特例的時限措置(2014年12月31日まで)として、拠出期間が12カ月に満たない者への対応として、 6カ月間で給付期間3カ月、8カ月間で4カ月、10カ月間で5カ月となっていた。財源は労使が折半して負担する保険料に基づく。失業保険給付を満了した失業者は、財源が全額国庫負担の失業扶助(失業給付Ⅱ)の適用対象となる。失業給付Ⅱの支給期間は6カ月を単位としているが期限はなく、要件を満たせば更新されて受給できる。

スウェーデンには任意加入の所得比例保険とともに、国庫負担に基づく基礎保険がある。所得比例保険の受給資格を得るためには、就労要件として12カ月の間に6カ月以上かつ月80時間以上の就労、または連続した6カ月の間に計480時間以上、月50時間以上の就労が必要となる。就労要件に加えて失業保険金庫への加入期間が12カ月以上あることが受給には必要である。所得比例保険の支給期間は一律最長300日となっているが、18歳未満の子どもがいる場合は450日まで延長される。財源は加入者からの保険料と国からの補助金による。保険料は各失業保険基金によって異なる。補助金が給付総額の約3分の2を占める。国の補助金の財源は事業主による労働市場税である。失業保険金庫に加入していない者、または失業保険金庫に加入しているが所得比例保険からの給付の受給資格を有しない失業者に対しては、20歳以上という年齢下限制限があるが、基礎保険の給付を受給することができる。給付期間は所得比例保険と同様である。

図表1 4カ国の失業保険制度の概要

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図表2 4カ国の失業扶助制度等の概要

図表2画像

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政策的インプリケーション

調査対象の4カ国の失業に関する保障制度は、給付期間が長いという特徴がある。ドイツとフランスは、労使拠出に基づく失業保険とともに、保険制度の適用とならない失業者を救済する失業扶助からなりたつ。デンマークやスウェーデンは、失業保険の給付期間が長く設定されている。

フランスでの失業保険の給付期間は最長36カ月、デンマークは2年間と長く設定されているほか、ドイツの保険制度は12カ月で期間が短いが、更新可能な扶助制度がある。また、スウェーデンでは300日(18歳未満の子供がいる場合は更に150日)であるが、支給期間を満了した後にも失業状態の場合、受給者が就労要件を新規に充足していれば、新たに300日間の支給日数が起算される(これは失業保険給付を受けながらパート就労をする場合である)。

政策への貢献

雇用保険制度に関係する労働政策の方針や計画に反映する予定

本文

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研究の区分

課題研究(要請)

研究期間

平成25年度

執筆担当者

岡 伸一
明治学院大学社会学部教授
菅沼 隆
立教大学経済学部 教授
北澤 謙
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
榊原 嘉明
労働政策研究・研修機構 国際研究部
中野 妙子
名古屋大学法学部 准教授

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