資料シリーズ No.135
職業の現状と動向―職業動向調査(就業者Web調査)結果―

平成26年 3月28日

概要

研究の目的

当機構ではこれまでも職業に関する情報をWeb調査から収集してきている(労働政策研究報告書No.146「職務構造に関する研究―職業の数値解析と職業移動からの検討―」労働政策研究報告書No.121「我が国における職業に関する資格の分析― Web 免許資格調査から―」)。このようなWebでの情報収集と並行して、関連する団体等のヒアリングを行い、業界や職業の構造的な変化やダイナミックな動向に関する情報収集も行ってきた。

そこでここでは、これまで情報収集してこなかった、仕事の進め方、能力発揮、人間関係、キャリアアップ、また、いわゆるコンピテンシー的な要素を含めた必要な能力、生活への影響等とともに、リアルタイムの各職業の現状や変化を捉えることとした。職業の現場の現状や変化をこのような形で捉えようとすることは、これまでにない試みであり、Web調査の特徴を生かした新たな職業情報の収集方法といえる。これによって、よりタイムリーな職業や職場の状況や変化が把握でき、それを提供できることになる。

研究の方法

厚生労働省編職業分類の細分類(566職業)より、調査対象を選定し、これを類似していると考えられる職業毎に集約し、200職業とした。この集約200職業において、それぞれが120名になることを目標にデータ収集した。

調査内容としては、職業の変化(増加減少等の変化と内容面の変化)、職業の現状、職業面の満足度、生活の状況、休日や余暇の過ごし方、現在の職業に必要な行動や能力とその変化、就業条件(就業時間、残業、定時帰宅の状況、現在の職業からの収入)、勤務先(組織の種類、従業員数、業種・業界、雇用形態、職位、勤務先の場所、就業期間)、回答者属性(性別、年齢、既婚未婚、子供有無、家計担い手、通勤時間、学歴)等である。調査実施は2013年10月であり、集約200職業に対して、26,586名のデータを回収した。

主な事実発見

  1. 調査結果からみた職業の現状

    職業の現状や状況に関しては、「ミスがないよう気を使うことが多い」が多く、職業全般にこのような傾向が強いことが示された。職業の現状や状況に関する設問を主成分分析すると、「良い人間関係・人や社会に役立」、「自律性・能力発揮・成長」、「キャリアアップ・賃金上昇」、「顧客やミスに気を使う」という仕事の4つの要素が抽出された。この4要素と職業継続希望(「職業をずっと続けたい」)との関係をみると、「良い人間関係・人や社会に役立」、「自律性・能力発揮・成長」、「キャリアアップ・賃金上昇」の順にプラスの関係がみられた。職業満足(職業の満足度に関して100を満点として評定してもらった)との関係では「良い人間関係・人や社会に役立」、「自律性・能力発揮・成長」、「キャリアアップ・賃金上昇」の順にプラスの関係、「顧客やミスに気を使う」とはマイナスの関係がみられた。生活面、属性、年収等を加え回帰分析を行うと、職業継続希望に関して生活面の「疲れ・心配」がマイナスの影響、職業満足に関しては、仕事の要素に加えて、「疲れ・心配」がマイナス、年収がプラスに影響していた(図表1)。

  2. 職業の人数等量的変化と内容面の変化

    職業の人数等量的な面について、全体的傾向としては、女性の採用が従来と変わらないかやや増えている傾向にある一方、正社員数は変わらないかやや減っており、収入も減少していた。職種別の傾向としては、「専門的職業」が増加傾向にある一方で、「建設・採掘の職業」、「農林漁業の職業」が減少傾向であった。職業の内容面の変化について、全体的傾向としては、従来よりも様々なことを仕事で求められるようになり、対応するために新しいことを学んだり、より高度な技能を身につける必要に迫られていた。この職業の変化に関して主成分分析を行うと、「高度化」、「語学力」、「成果主義」、「顧客や同業者との関係」、「チームワーク」、「機械化・自動化」の要素が得られた(主成分分析の成分)。

  3. 必要な能力等とその変化

    職業に特に必要な行動や能力として、全体としては、「意欲・やる気」、「責任感」、「ミスがないこと」、「前向きな姿勢」、「積極性・主体性」、「集中力」、「注意深さ」、「コミュニケーション能力」、「粘り強さ」、「信頼できること」が必要とされていた。また、最近(ここ5年程度)重要になっている行動や能力では、「ミスがないこと」が一番多く、「意欲・やる気」、「コミュニケーション能力」、「学習力・成長力」、「コンピュータスキル」なども挙げられていた。現在の職業に必要な行動や能力等を主成分分析すると、「マナー・コミュニケーション」、「情報スキル・交渉力・説明力」、「人間的魅力」、「意欲・主体性・熱心さ」、「ミスがないこと・集中力」、「体力・スタミナ・健康」の要素が得られた(主成分分析の成分)。

  4. 職業の生活面への影響

    職業の生活面への影響に関しては、全体としてはあまり無理は生じていない状況を示す結果であった。これを業種別にみると、「土日祭日等、一般的な休日は、自分も休める」(国/地方自治体等)、「起床、就寝等は比較的規則正しいといえる」(国/地方自治体等)、「三交代制等、勤務時間が通常と異なる」(宿泊業等)などの項目で違いがみられた。また、職種別では「土日祭日等、一般的な休日は、自分も休める」(事務の職業等)、「休日も仕事のことが頭を離れない」(専門的職業等)、「夜間や深夜の勤務となることがある」(建設・採掘の職業等)などに違いがみられた。

    生活面の項目を主成分分析したところ、「疲れ・心配」、「不規則・夜間勤務」、「休日に呼び出し等」の3つの要素が得られた(主成分分析の成分)。

    余暇の過ごし方についても聞いており、実際に「していること」のうち、「家族と過ごす」、「旅行・行楽」、「学習・自己啓発」で業種による違いが大きかった。また、「家族と過ごす」、「旅行・行楽」、「友人と過ごす」では職業による違いがみられた。余暇の過ごし方は個人の生活意識や価値観などによっても異なると考えられるが、どのような業種に所属し、どのような職業に就くかによっても、違いがあることが示された。

  5. 変化の軸からの検討、個別職業情報の作成

    今回の調査全体をみたとき、主要な変化の軸として、「仕事の高度化」、「対人処理の重要化」、「成果主義化」があると考えられた。そこでこの3つの軸について、どのような要素があり、必要な能力との関係はどうか、生活面への影響はないか、等を検討した。3つの変化の軸についてまず構造を検討すると、仕事の高度化は主成分分析から「テンポ・範囲」(仕事のテンポが速まり、また、仕事の範囲が広くなっている)と「専門化」(仕事に高い専門性やスキルが必要になっている)に分かれた。対人処理の重要化では、主成分分析から「対顧客」(顧客に色々と気をつかう)と「チーム」(チームでの仕事が重要になっている)に分かれた。成果主義化は主成分分析では1つの要素としてまとまった。必要な能力の変化との関係では、「テンポ・範囲」では「コンピュータスキル」、「ストレスに強いこと」他が重要になっていた。「専門化」では「学習能力・成長力」、「観察力」他が重要になっていた。「対顧客」では「コミュニケーション能力」、「顧客目線・相手の立場から考えられること」他、「チーム」では「協調性・チームワーク」、「コミュニケーション能力」他が重要になっていた。「成果主義化」では「管理能力・マネジメント能力」、「交渉力」他が重要になっていた。変化の生活面への影響に関しては、「テンポ・範囲」、「対顧客」、「成果主義化」が生活面に影響していたが、特に、「成果主義化」は心配が多い、疲れている、休日も仕事のことが頭を離れない等に関係していた(図表2)。

    今回の調査では、職業細分類レベルで学歴、男女比、平均年齢、職業継続年数、年収、雇用形態、転職率、前職、必要な能力やその変化等を整理することもできる。今回収集した中から、代表的な職業に関してこのような個別の職業情報も作成している(「職業プロフィール」の作成)。

図表1 職業満足への回帰分析の結果(26,586名)

図表1画像

注)標準化回帰係数の絶対値が大きい順としている。仕事、生活、属性他、能力他の分野ごとに違う色で着色している。

図表2 職業の変化の軸と生活面への影響他(相関係数、26,586名)

図表2画像

注)目安として、相関係数が比較的大きいといえる0.200以上のものに網掛けをしている。

政策的インプリケーション

業界や職業に関しては世の中には様々な情報があるが、主観的であったり、断片的であったり、事例的な情報であるものが多い。今回の調査では、職業細分類レベルの細かな職業について、実際のその職業の就業者から直接、仕事の現状や変化に関して多様なデータを収集している。自分の職業に関して、自分の周りではどうかを聞いているが、例えば、この中で、職種別にみた場合、仕事量や人数が減少する職種がある一方で、「専門的職業」は仕事量も人数も増えており、「専門的職業」の女性や30歳以下も増えていた。職業の内容面の変化では、従来よりも様々なことが求められるようになり、新しいことを学んだり、より高度な技能を身につける必要に迫られていた。最近、重要になっている行動や能力では、「ミスがないこと」が一番多くなっていた。仕事が専門的になると各人の判断結果の影響が大きく、ミスがないことが重要になるといえる。

職業の現状や量的変化、質的変化、必要な能力の変化や生活面への影響、等々、職業の現状や変化は学生や転職者にとっても、職業相談や職業紹介等においても重要な情報であり、また、政策判断においても必要な情報であるといえる。データに基づく、公平中立、客観的な職業に関する情報は社会に必要とされている。そして、今後、同様の調査を定期的に実施すれば、職業の世界の現状や変化を大量観察によっていち早くとらえることができ、様々な意思決定や判断の基礎となる情報を提供できることにもなる。

また、本研究では、職業の現状や変化に関して、2万6千名を超えるデータより、どのような要素があるか検討し(主成分分析の部分)、職業を継続する希望や職業の満足に対して、様々な要素がどのように関係しているかもみている(回帰分析での検討)。職業の生活面への影響についても検討しており、「仕事の高度化」、「対人処理の重要化」、「成果主義化」のような職業の世界における変化の軸を設定し、それがどのようなもので、必要な能力や生活等にどのように影響しているかもみている。

さらに、今回の調査結果に基づいて、職業相談、職業紹介での利用を想定し、今回収集した中から代表的な職業に関して、各職業の具体的な情報を職業プロフィールとして作成している。全体としての傾向や変化だけではなく、調査結果から、職業相談や職業紹介においても利用できる個別職業の情報も作成できることになる。

政策への貢献

職場や職業の動向や変化を、より詳細に、よりタイムリーに把握できることは、様々な政策判断の基礎となりうる。今回、職業細分類の細かな職業に関して、どのような状況であり、どのように変化しているかみることができた。本研究で収集し、整理した情報は、雇用政策や能力開発に広く貢献できるものと考えている。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成25年度

執筆担当者

松本 真作
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
佐藤 舞
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
安永 正夫
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
川崎 友嗣
関西大学 教授
礒 みず穂
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
リン・シュナイパー
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
元米国労働省 エコノミスト

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