資料シリーズ No.132
欧州におけるキャリアガイダンス政策とその実践②

職場でのキャリア開発
―就業者を支援するキャリアガイダンスのレビュー

平成26年 3月26日

概要

研究の目的

欧州におけるキャリアガイダンス政策とその実践に関する主要文献の日本への紹介を行った。

特に、2000年代のヨーロッパでは、働く人々のキャリアを支援するキャリアガイダンスには一定の有効性があることが改めて重視され、キャリアガイダンス政策に関する数多くの報告書が発刊された。しかしながら、それら報告書の多くは、これまで十分に日本には紹介されてこなかった。そこで、今回、日本のキャリアガイダンス施策を考える上で特に重要と思われるものを選び、日本語訳し、解説・要約をつけて発刊することとした。

研究の方法

欧州職業訓練開発センター(CEDEFOP)が作成した文献の翻訳及び関連資料収集等。

主な事実発見

職場内のキャリアガイダンスに対する関心は欧州においても高く、特にキャリアガイダンスのアクセス拡大の方策の1つとして職場におけるキャリアガイダンスは常に期待されている。しかしながら、欧州においても職場内のキャリアガイダンスは必ずしも普及している訳ではなく、ここでは少ない先進的な事例を収集することによって職場におけるキャリアガイダンスには何がいかに可能なのかについて検討を行っている。おもに、1.雇用主による実践、2.中間組織の役割、3.公共政策の役割の3つの観点から論じている。

  1. 雇用主による実践

    職場でのキャリアガイダンスは、エリート層を対象に特別に提供されるもの、一般層を対象に人事管理の一環として提供されるもの、その他の対象層向けの自己啓発支援の3つに分けて論じられる。一般に、職場においては「不利な境遇にあるグループ」を対象としたキャリアガイダンスは提供されないことが多い。また、中小企業においても十分に提供されない。特に問題となるのは、雇用主がキャリアガイダンスの効果を疑問視するのみならず、従業員の側でも雇用主主導のプログラムに不信を抱く場合があることである。職場では専門的なキャリアガイダンスが導入しにくいことから、社内で行われるインフォーマルなコミュニケーションをキャリア支援として活用しようという動向も若干ながらある。企業内にキャリアカウンセリング等の有資格者を特別に雇っている例は少なく、企業内で提供されているキャリアガイダンスの質保証の議論も十分にはなされていない。

  2. 中間組織の役割

    職場内のキャリアガイダンスと同様かそれ以上の期待をもって議論されているのは中間組織の役割である。欧州で想定している中間組織とは、労働組合、雇用主団体、職能団体と業界団体など、幅が広い。労働組合が一定のキャリアガイダンスを提供している事例は、いずれも、キャリアガイダンスが単体としてあるのではなく、組合員のスキル開発ニーズおよび訓練ニーズを背景に、スキルアップ支援、教育訓練支援の一環として、ボランティアの相談者がカウンセリング等のキャリアガイダンスを提供している。特に、低熟練労働者へのキャリアガイダンスの提供ルートとして期待が高い。雇用主団体によるキャリアガイダンスについては、ウェブサイトでの情報提供の他、各地にある商工会議所等の情報センターでガイダンスサービスを提供した事例が紹介されている。職能団体および業界団体は、特定の職業のための資格試験、訓練、能力開発を手がけていることが多く、その一環としてキャリアガイダンスが提供される場合がある。

  3. 公共政策の役割

    就業者を対象とした公的機関によるキャリアガイダンスサービスの最も成功した事例とみなされているのは、フランスのCIBC(合同職業能力評価センター)とイギリスのラーンダイレクトの取り組みである。CIBCは公的な職業能力認証の仕組みであり、個別相談、グループワーク、個別ワーク等の手法を用いて長期間にわたって職業能力の評価を行う過程で、十分なキャリアガイダンスが提供される。この取り組みは、その後、ヨーロッパ各国の職業能力評価+キャリアガイダンスの仕組みに影響を与えたとされる。また、ラーンダイレクトは、コールセンターとWebベースのサービスの好事例とされている。ラーンダイレクトそのものは、生涯学習、成人教育訓練のためのウェブサイト上の公的な情報サイトであるが、そこに併設された電話ガイダンスの仕組みが好評を博し、イギリス全土で広範に利用された。現在、キャリアガイダンスの取り組みは、マッチング施策の一環としてよりは、むしろスキル施策の一環として考えられており、そのため、成人の学習促進のための取り組みと関連付けられている。なお、在職者向けのキャリアガイダンスとして公的な予算が直接投じられた取り組みとしては、ベルギーの公共職業安定組織(VDAB)が紹介されている。特に、中小企業向けにキャリアアドバイスサービスを行った事例が紹介されている。

政策的インプリケーション

本研究成果は海外文献の翻訳であり、今後の政策立案および政策検討にあたっての基礎資料を提供するものであるが、日本のキャリアガイダンス施策と関連づけた場合、以下の諸点において若干の政策的な示唆がなされる。

第一に、日本では、企業内・職場内におけるキャリアガイダンスに対する関心が高いが、欧州の検討においても好事例は少なく、上述したような課題が多く指摘されている。概して企業内における専門的なキャリアガイダンスは一定の条件下で成立するものと捉えられており、今後も継続して検討が必要な領域と考えられている。

第二に、むしろ注目されているのは中間組織の役割であり、この点については、労働組合、雇用主団体、職能団体、業界団体などを介したキャリアガイダンスの可能性については、日本でも、従来以上に検討を行うべきことが示唆される。

第三に、企業内・職場内のキャリアガイダンスにおいても公的機関の役割は重要であることが示唆されるが、特に、フランスの公的な職業能力認証+キャリアガイダンスの仕組み、イギリスのコールセンターとWebベースのキャリアガイダンスサービス、ベルギーの公共職業安定機関による企業に対するキャリアアドバイスサービスなどの事例は示唆的である。

政策への貢献

本資料シリーズで紹介した生涯キャリアガイダンスに関する議論は、日本におけるキャリアガイダンス施策を中心とした職業能力開発関連政策および職業安定行政全般に貢献するものと思われるが、生涯学習および成人教育施策等にも示唆を与えるものと思われる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成25年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 主任研究員(監訳及び解説執筆担当)
松本 安彦
労働政策研究・研修機構 統括研究員

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
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