資料シリーズ No.131
欧州におけるキャリアガイダンス政策とその実践①

政策から実践へ
―欧州における生涯ガイダンスに向けたシステム全体の変化―

平成26年 3月26日

概要

研究の目的

欧州におけるキャリアガイダンス政策とその実践に関する主要文献の日本への紹介を行った。特に2000年代のヨーロッパでは、働く人々のキャリアを支援するキャリアガイダンスに一定の有効性があることが改めて重視され、キャリアガイダンス政策に関する数多くの報告書が発刊された。しかしながらそれら報告書の多くは、これまで十分に日本には紹介されてこなかった。そこで、今回、日本のキャリアガイダンス施策を考える上で特に重要と思われるものを選び、日本語訳し、解説・要約をつけて発刊することとした。

研究の方法

欧州職業訓練開発センター(CEDEFOP)が作成した文献の翻訳及び関連資料収集等。

主な事実発見

欧州では、従来、おもにマッチング施策の一環として捉えられてきたキャリアガイダンスから、生涯にわたって個人主導のキャリア発達を支援する生涯キャリアガイダンスへとパラダイムシフトしようとしている。特に、EUでは「欧州における生涯にわたるガイダンス」決議がなされ、「伝統的モデルから生涯ガイダンスアプローチへの移行」が求められるようになった。具体的には、以下に示す5つの重点領域が定められた。

  1. 生涯ガイダンスシステムの実現

    一般に、生涯学習とキャリアガイダンスという構想は「公共悪を個人の責任にする新自由主義イデオロギーと倫理に基づいている」と批判されがちである。しかしながら、生涯キャリアガイダンスは、変化の激しい不安定な社会にあって、学習とキャリアを自らコントロールできる力を与えることが目的であり、ともすれば個人に負担がかかりやすい状況を防ぎ、適切に対応できるようにするためにこそ、キャリアガイダンスを提供すべきであるとする。したがって、欧州市民は必要な時に必要な場所でガイダンスサービスを受ける法的権利があることが強調される。こうした議論を受けて、ヨーロッパ各国で生涯ガイダンスシステムへの移行を行っている途上にあり、政府内における教育セクターと労働市場セクターの連携、全国―地域間の連携など、共通の目標のもとで可能な連携をとり、シームレスなガイダンス体制を整備しようとしている。

  2. ガイダンスへのアクセスの拡大

    生涯ガイダンスシステムの整備にあたって、どうすればより多くの人々にガイダンスを提供できるかが重要な論点となっている。そのためにまず議論されているのはICTを利用したセルフヘルプ型サービス(自己啓発支援)の拡大であり(一方で、デジタルリテラシー格差も指摘されている)、その他、各国で行われた好事例としてフリーダイヤル、コールセンター方式等も挙げられている。また、自己啓発支援をベースに、キャリアガイダンスの提供拠点を拡大し、多様な地域でサービスが受けられるようにすること、スキルチェック、先行学習経験の認証(APL)等を行ってスキルバランスを把握した上で継続的職業教育訓練(CVET)に結びつけることも模索されている。アクセス拡大のための媒体として、企業(職場)も念頭に置かれているが実際には難しく、むしろ労働組合や職能団体、経済団体などの中間組織に対する期待が高い。その他、公的なキャリアガイダンスサービスを1つのブランドのもとで展開し、広報を行うマーケティングの議論にも触れられている。

  3. 質保証のメカニズムの強化

    おもにファンディングおよびアカウンタビリティの観点からキャリアガイダンスの質保証の議論が多くなされるようになっている。現在、質保証を十分に行っている国はなく、現在検討途上にある議論であるが、特に問題視されているのは、従来の質保証の視点がトップダウンで導入される傾向が強かった点である。そのため、利用者中心の視点をいかに取り入れられるかをめぐる議論がある。また、特に質保証の視点が不十分なのは労働市場セクターのキャリアガイダンスであり、質保証に向けた何らかの基準策定についても触れている。

  4. 学習とキャリアを自ら管理する能力の強化

    学習とキャリアを自ら管理できる能力を習得させることが重要な目標の1つとされるが、その際、特に重視されているのがメタスキルである。特に、キャリア意識の持ち方、キャリア形成の方法といったスキルが注目されている。ただし、一般にこれらの取り組みは教育セクターでは重視されるものの、PESなどの労働市場セクターのガイダンスでは十分ではなく、今後の課題とされている。また、教育セクターにおいてもVET(職業教育)を受けている若者では、かえってメタスキルが重視されない面があり、課題として挙げられている。

  5. 全国・地域レベルでのキャリア政策策定と体制の整備

    全国レベルのフォーラム、協議会などの設立による関係者の連携の他、そうした連携の中心として職能団体や研究機関にも一定の期待が寄せられている。その他、日本では従前より力を入れてきたガイダンス実践者の初期・継続教育の論点が指摘されている。欧州ならではの議論として、国を超えたガイダンスサービスの連携も議論されている。

政策的インプリケーション

本研究成果は海外文献の翻訳であり、今後の政策立案および政策検討にあたっての基礎資料を提供するものであるが、日本のキャリアガイダンス施策と関連づけた場合、以下の諸点において若干の政策的な示唆がなされる。

第一に、生涯にわたって個人主導のキャリア発達を支援する生涯キャリアガイダンスというパラダイムの重要性が示唆される。

第二に、生涯ガイダンスシステムの実現にあたって、欧州では、人々には必要な時に必要な場所でガイダンスサービスを受ける法的権利があることが強調されることが多く、こうした認識のもと政府内の各セクターの連携、全国―地域間の連携など可能な連携をとるべきことが示唆されており、日本においても参照したい。

第三に、より多くの人々にガイダンスを提供するために、日本においても、従来以上にICTを利用したセルフヘルプ型サービス(自己啓発支援)の拡大を企図すべきであることが示唆される。あわせて、労働組合や職能団体、経済団体などの中間組織を介したキャリアガイダンスの可能性も検討することが望まれる。

第四に、欧州では、職業能力開発の一環として、自らのキャリアを管理できる能力等のメタスキルの習得にも一定の注意を払っている。日本においても従来以上の関心をもって改めて検討すべきである。

政策への貢献

本資料シリーズで紹介した生涯キャリアガイダンスに関する議論は、日本におけるキャリアガイダンス施策を中心とした職業能力開発関連政策および職業安定行政全般に貢献するものと思われるが、生涯学習および成人教育施策等にも示唆を与えるものと思われる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成25年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 主任研究員(監訳及び解説執筆担当)
松本 安彦
労働政策研究・研修機構 統括研究員

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