資料シリーズ No.116
職務の類似性と職業編成―新たな職業編成に向けた予備的検討―

平成25年3月29日

概要

研究の目的

職業にはそれぞれの独自性とともに他の職業との共通性や類似性がある。後者についてはまとまった形での職業情報は未だ十分に整備されているとは言い難い状況にある。この研究では、職業間の類似性や近接性を明確にした職業情報の作成を目指す。

研究は2年計画で実施し、平成24年度は職業の類似性に関する3つの指標を用いて職業を評価し、新たな職業編成の可能性を検討した。

研究の方法

527の職業を対象にしたインターネット調査を平成24年10月に実施した。

  1. 調査対象職業は、厚生労働省編職業分類の細分類職業を集約して選定した。
  2. 類似性の指標には、労働者機能、教育訓練、職業移動を取り上げた。
  3. 調査対象職業のうち509職業では回答者が1人以上あった(回答者11,945人)。
  4. 調査結果の分析対象は、回答者を20人以上確保できた223の職業に限定した(回答者9,458人)。
  5. 結果の分析は、主に厚生労働省編職業分類の大・中分類レベルで行った。

主な事実発見

1.労働者機能

労働者機能とは、労働者が職務遂行において何を、どの程度発揮するかを表す概念である。具体的には、労働者が仕事を遂行する際に、情報処理(D機能)、対人処理(P機能)、対物処理(T機能)の各側面においてどのようにしているかを表したものである。

調査ではD機能、P機能、T機能のそれぞれについて評価を求め、更に従事している仕事の特徴をもっともよく表す機能を尋ねた(これを「特徴的労働者機能」という)。DPTの3つの評価値が同じものをひとつのパターンとみなすと、93種類のDPTパターンが確認できた(可能なパターンは504種類)。パターンによっては複数の職業で構成された大きな塊になっているものもあるが、1職業1パターンのものも多くみられた。

特徴的労働者機能の点から職業をみると、D機能を特徴とする職業は全体の18.4%(41職業)、P機能は56.0%(125職業)、T機能は25.6%(57職業)を占めている。D機能を特徴とする主な職業は技術者や情報処理関係の仕事、P機能の主な職業は医療関係の仕事、営業職、教員、販売職、サービスの仕事、T機能の主な職業は製造工、組立工、検査工、作業員などである。

この特徴的労働者機能を大・中分類ごとにまとめると、ひとつの機能に収斂している大分類(販売の職業、保安の職業、生産工程の職業)もあれば、複数の機能によって構成されている大分類もある。事務の職業ではD機能とP機能が、サービスの職業、輸送・機械運転の職業、建設・電気工事の職業、運搬・清掃・包装等の職業ではP機能とT機能が、研究者・技術者と専門的職業ではDPTの3つの機能がそれぞれ並立している。しかし、複数の特徴的労働者機能によって構成されている大分類の下位の中分類をみると、ひとつの機能にまとまっているものも多く、職業は特徴的労働者機能によって大ざっぱに把握できることが示唆された。

2.職業自立準備区分

職業自立準備区分とは、労働者が入職後、当該職務の基本業務を一通りこなせるようになるために必要な、知識・技術・技能の習得、情報の獲得、能力の開発にかかる教育・訓練の種類と自立までに要した期間を5つに区分したものである。区分の設定にあたっては学歴を基本にした。

細分類職業の職業自立準備区分を大分類ごとにまとめると、研究者・技術者、専門的職業、事務的職業、販売の職業、サービスの職業、保安の職業には複数の区分が並立し、さまざまな学歴を持つ者が同一職業分野にいることが示唆された。これらの職業分野では学歴と職業との結びつきが緩やかであることを物語っている。

一方、特定の学歴が支配的である職業分野としては次のものが確認できた。生産工程の職業、輸送・機械運転の職業、建設・電気工事の職業、運搬・清掃・包装等の職業はいずれも高校卒者中心の区分Ⅴに該当する職業で構成されていることが判明した。大分類「専門的職業」の保健医療や社会福祉の分野、大分類「サービスの職業」の生活衛生サービスや飲食物調理の分野はいずれも専門学校卒者中心の区分Ⅳの職業が優勢であった。

職業自立準備区分による職業の弁別力は、4つの大分類(生産工程の職業、輸送・機械運転の職業、建設・電気工事の職業、運搬・清掃・包装等の職業)と4つの中分類(保健医療、社会福祉、生活衛生サービス、飲食物調理)で強く、6つの大分類(研究者・技術者、専門的職業、事務的職業、販売の職業、サービスの職業、保安の職業)で弱いことが明らかになった。

3.職業移動

職業移動の決定要素には、仕事の内容、必要な資格・免許、他の仕事の経験、収入や勤務地等の労働条件などさまざまなものがある。本研究では、これらの要素をすべてひっくるめて、ふたつの職業間で頻繁に移動が起こっている場合には両者の類似性が高く、移動が低調な場合には両者の類似性が低いと仮定した。

分析は、継続(同じ職業を続けている人)、流入(現在の職業に視点を置いて、ひとつ前の、現在の職業とは異なる職業から現在の職業に移動した人をみる見方)、流出(ひとつ前の職業に視点を置いて、ひとつ前の職業から、それとは異なる現在の職業に移動した人をみる見方)の3方向で行った。

回答者の4割強はこれまでずっと同じ職業に従事し、6割弱が複数の職業を経験している。同じ職業に従事している者の比率が50%を超えている職業は、研究者・技術者、専門的職業、建設・電気工事の職業である。

複数の職業を経験している者のうち正社員から正社員への移動であって、かつ他企業の異なる職業に就いている者の移動の方向を大分類レベルでみると、同一大分類間移動が支配的であった。10個の大分類のうち5つの大分類では流入・流出とも同一大分類間移動が優勢な移動パターンになっていた。それらの大分類は、研究者・技術者、事務的職業、販売の職業、サービスの職業、生産工程の職業である。これらの大分類はその下位の職業間の距離が近く、それぞれ職業の塊としてまとまっていると解釈できる。専門的職業、輸送・機械運転の職業、建設・電気工事の職業では、流入又は流出のどちらか一方で同一大分類間移動が優勢な移動パターンになっていた。したがって、保安の職業と運搬・清掃・包装等の職業を除いて、それ以外の8個の大分類では概ね同一大分類内で移動が行われ、それぞれまとまりを持った職業で構成されていることが確認できた。

4. 類似性指標の総合的評価

労働者機能と職業自立準備区分は、職業の特定の側面に光を当てたものであり、これらの指標による評価は必ずしもひとつの職業の全般的な類似性を表すとは限らない。そうであれば、労働者機能と職業自立準備区分は類似性の基準としてではなく、類似性の一面を表す指標として用いるのが適当だと考えられる。

一方、職業移動は類似性の総合的評価であるとする視点に立つと、10個の大分類のうち5つの大分類で同一職業間移動が最も優勢であり、それに加えて他の3つの大分類でも流入・流出のどちらか一方において同一大分類間移動が最も優勢であったという結果は、現行の職業分類の大分類がそもそも類似性の高い職業で構成されていることの傍証だと考えられる。

このため類似性を重視した職業情報の作成にあたっては、新たな職業編成を目指すのではなく、現行の厚生労働省編職業分類の体系をそのまま用いることとし、細分類レベルの職業に労働者機能と職業自立準備区分に関する情報を追加して職業分類が持つ元々の類似性の要素を補足、補強することが適当であると考えられる。また、職業分類の補助資料として、利用しやすい形で労働者機能、職業自立準備区分、職業移動に関する情報を整理・提供することも必要であろう。

図表 職務の類似性指標による厚生労働省編職業分類の評価

図表画像

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(注)

  1. 中分類のDPT及び職業自立準備区分は、細分類職業の評価にもとづいている。
  2. 回答者10人以上かつ移動数3以上の基準を満たす職業移動のうち流入率・流出率のもっとも高いものだけを掲載した。なお、移動の対象は、正規雇用の職業から正規雇用の職業への移動であって、かつ他企業への転職であるものに限定した。

政策的インプリケーション

職業の類似性に関する情報や職業移動の俯瞰的構図に関する情報は、学生・求職者など一般に広く提供することを通じて職業情報の充実に寄与できる。

政策への貢献

職業の類似性に関する情報や職業移動の俯瞰的構図に関する情報は、職業能力の形成・開発施策の検討に対する貢献が見込まれる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成24年度及び平成25年度

執筆担当者

西澤 弘
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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