資料シリーズ No.110
労働力需給の推計
―労働力需給モデル(2012年版)による政策シミュレーション―

平成25年1月10日

 

概要

研究の目的

経済構造、労働力需要・供給構造の変化に関する分析の基礎資料として、労働力需給に関するシミュレーション結果を提供する。

研究の方法

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2012年1月推計)と政府の「新成長戦略」(2010年6月18日閣議決定)、「日本再生戦略」(2012年7月31日閣議決定)の目標値を踏まえ、将来の性・年齢階級別労働力人口及び就業者数、並びに産業別就業者数について、次の3つのシナリオにわけて計量経済モデルによるシミュレーションを実施した。

  1. ゼロ成長Aシナリオ(以下、ゼロ成長A):ゼロ成長に近い経済成長で、性、年齢階級別の労働力率が現在(2010年)と同じ水準で推移すると仮定したシナリオ
  2. 慎重Bシナリオ(以下、慎重B):各種の経済・雇用政策をある程度講ずることにより、年率1%程度の経済成長注1)で、若者、女性、高齢者などの労働市場への参加が一定程度進むシナリオ
  3. 成長戦略Cシナリオ(以下、成長戦略C):各種の経済・雇用政策を適切に講ずることにより、年率2%程度の経済成長注2)で、若者、女性、高齢者などの労働市場への参加が進むシナリオ

注1) 「日本再生戦略」における成長率目標の半分程度の成長率。

注2) 「日本再生戦略」では2020年度までの平均で、実質2%程度の成長を目標としている。

主な推計結果

  1. 2030年の労働力人口は、ゼロ成長Aで、2010年の労働力人口6,632万人と比較して954万人減少すると見込まれる(図表1)。一方、経済・雇用政策を講じ、経済成長とともに労働市場への参加が進む場合、慎重Bで732万人減、成長戦略Cで377万人減にそれぞれ減少幅が低下すると推計される。2030年の労働力率は、ゼロ成長Aで54.3%、慎重Bで56.4%と2010年の59.7%から低下するが、成長戦略Cでは59.8%と2010年の水準を維持する結果となる(図表1)。
  2. 2030年の就業者数は、2010年の就業者数6,298万人と比較して、ゼロ成長Aで845万人減、慎重Bで620万人減、及び成長戦略Cで213万人減と、それぞれ減少することが見込まれるが、ゼロ成長Aに比べ慎重B及び成長戦略Cでは減少幅が低下する(図表2)。2030年の就業者数の性別構成については、ゼロ成長A及び慎重Bでは2010年(男57.8%、女42.2%)とほぼ同様であるが、成長戦略Cでは女性の構成比が1.5ポイント上昇するとの結果を得る。2030年での年齢別構成については、人口の高齢化を反映して、60歳以上の者の割合が2010年の18.1%から、ゼロ成長Aで19.5%、慎重B及び成長戦略Cで22.2%といずれも高まると見込まれる。2030年の就業率は、ゼロ成長Aで52.1%、慎重Bで54.3%と2010年の56.7%から低下するが、成長戦略Cでは58.2%に上昇する結果となる(図表2)。
  3. 2020年の産業別就業者数は、2010年と比較すると、成長戦略Cで「新成長戦略」及び「日本再生戦略」の成長分野に関連する一般・精密機械器具、 電気機械器具、 輸送用機械器具、情報通信業、医療・福祉、生活関連サービス、その他の事業サービス、及びその他のサービスにおいて増加すると見込まれる。2030年の産業別就業者数について、2010年と比較すると、増加数が大きい産業は医療・福祉(ゼロ成長A:199万人増の855万人、慎重B:272万人増の928万人、成長戦略C:316万人増の972万人)の他、その他のサービスなどである。2030年の製造業全体の就業者数は、2010年の1,060万人から、ゼロ成長Aで226万人減の834万人に減少すると見込まれる。一方、慎重Bでは、188万人減の872万人、成長戦略Cでは、73万人減の987万人と、減少幅が低下する結果となる。2030年の就業者数が2010年と比較して大きく減少する産業は、卸売・小売業などである。
  4. 政府の成長戦略において具体的な政策目標が掲げられている指標については、「日本再生戦略」における2020年の就業率目標は、男女計・15歳以上計で57%、男女計・20~34歳で77%、男女計20~64歳で80%、60~64歳で63%、及び女性・25~44歳で73%となっているが、経済・雇用政策が適切に実施される成長戦略Cシナリオではこれらの目標値がすべて達成される結果となっている。また、「新成長戦略」では、できるだけ早期に失業率を3%台まで低下させることを目標としているが、成長戦略Cシナリオでは、2020年には3.2%まで低下し、その後も同水準より上昇することのない結果となっている。ゼロ成長A及び慎重Bシナリオにおいては、これらの政策目標のいずれも達成されない見込みである。

図表1 労働力人口及び労働力率(右軸)の推移

図表1

注)2010年実績値は総務省統計局「労働力調査」(平成22年(新)基準人口による補間補正値)、2020年及び2030年は推計値。

図表2 就業者数及び就業率(右軸)の推移

図表2

注)2010年実績値は総務省統計局「労働力調査」(平成22年(新)基準人口による補間補正値)、2020年及び2030年は推計値。

政策への貢献

  1. 今後の我が国が重点的に取り組むべき雇用・労働政策の方向性を検討した厚生労働省雇用政策研究会において基礎データとして活用され、同研究会報告書(平成24年8月)にも多数引用された。
  2. 厚生労働省社会保障審議会年金部会における専門委員会資料(平成24年10月)として活用された。

本文

研究の区分

プロジェクト研究

研究期間

平成24年度

執筆担当者

中野 諭
労働政策研究・研修機構 研究員

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