資料シリーズ No.104
労働時間規制に係る諸外国の制度についての調査

平成24年 3月30日

概要

研究の目的と方法

厚生労働省の要請により、諸外国(ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ)における労働時間規制に係る法制度を把握することを目的に、調査を実施した。EU諸国については、EU労働時間指令に関するEUレベルでの議論、各国の労働時間制度・慣行とEU指令の影響等を踏まえて、各国の現状について情報収集を行った。またアメリカについては、ホワイトカラー・エグゼンプションをめぐる近年の動向をまとめた。

主な事実発見

  • EUにおいては、加盟各国共通の法制度としてEU労働時間指令が適用されているが、その規制内容は各国の実態に適合するよう形成され、また労働協約を通じた逸脱や「オプトアウト」(労働者の合意に基づく労働時間の上限の適用除外)などの柔軟性を認めており、加盟各国が自国の状況に合わせた手法で法制度の整備を行なうことを可能にしている。ただし、1993年の指令施行以降、当初の除外職種などに順次規制の適用範囲を拡大する中で、例えば研修医の待機時間を労働時間とみなすかといった新たな問題も生じており、各国の状況を斟酌しつつ規制内容をどう適応させるかが課題となっている。
  • EUでは従来、労働時間は労働条件分野の問題として扱われていたが、規制導入に係る技術的な理由から(全会一致原則を回避するために)、安全衛生分野の問題に読み替えられたと推測される。週当たりの最長労働時間やインターバル規制の導入についても、必ずしも長時間労働の健康への影響等に関する明確な根拠を元に規制内容が策定された訳ではないとみられる。
  • 各国の法制度における時間外労働と賃金の対応関係は一様ではない。例えばフランスでは、週当たりの法定労働時間を超過した労働時間に対する割増賃金の支払いが法律上で規定されているが、ドイツでは1994年の労働時間改革でこうした時間外労働の割増賃金規制を法律上廃止、労働時間口座などの柔軟な労働時間制度が普及している。イギリスでも特段の法的規定はなく、企業等の慣行に委ねられている。
  • アメリカのホワイトカラー・エグゼンプション制度については、公正労働基準法(FLSA)における3要件(俸給基準要件、俸給水準要件、職務要件)の規定と、これに関する詳細な規則が定められていることが特徴といえる。俸給水準については一義的な金額で示されているほか、俸給基準についても実際に働いた時間にかかわらず、定額の賃金を支払うことが原則として要件となることが明示されている。職務内容については、不明確な面が残るものの内容の具体化がなされている。

政策的含意

  • 週当たり労働時間の上限や休息期間の法定化は、実際の適用に関する各種の柔軟性の確保との併用により可能となっている側面が強い。
  • アメリカにおけるホワイトカラー・エグゼンプション制度の現状から、わが国における導入を考える上での課題の一つは、労働者が多様化する現況において、適用範囲に関する一義的な要件の設定は困難と考えられる点である。加えて、長時間労働の放置やサービス残業の合法化につながることのないよう、留意が必要である。

政策への貢献

25年4月からの労働基準法の割賃引上げの中小企業に対する猶予措置の検討に関連して、労働時間規制全般についての基本的な議論の必要が想定され、諸外国の制度・実態の把握がこれに資することが期待される。

図表1 EU加盟国における労働時間の状況(2010年)

図表1 EU加盟国における労働時間の状況(2010年)/資料シリーズNo.104

注:1日当たりの最長労働時間は、直接の法規定がない場合に1日当たりの休息期間(11時間以上)のみを法制化している場合の最長労働時間(13時間)を含む。ドイツの週当たりの法定最長労働時間は1日当たりの時間から換算したもの。また各国の週平均実労働時間はフルタイム労働者の主業(main job)に関するデータ。

出典:Eurofound (2011)

図表2 アメリカにおけるホワイトカラー・エグゼンプション制度の運用実態

図表2 アメリカにおけるホワイトカラー・エグゼンプション制度の運用実態/資料シリーズNo.104

* 労働省賃金労働時間局の試算によれば、2004年改定で、 (1)俸給水準の引き上げにより130万人、 (2)職務要件の変更により260万人、そして (3)ブルーカラー労働者を一括してエグゼンプトの対象から除外したことにより280万人、計670万人の労働者が新たに時間外割増の対象となったとしている(Federal register/ Vol.69, No.79/ Friday, April 23, 2004/ Rules and Regulations, at 22123)。

本文

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研究期間

平成23年度

執筆担当者

樋口英夫
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
飯田恵子
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
藤本 玲
パリ・デカルト大学(パリ第5大学)博士課程
幡野利通
税理士・法学博士

入手方法等

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