資料シリーズ No.91
雇用創出と人材育成
―アメリカ・ジョージア州のヒアリング調査から―

平成23年5月23日

概要

研究の目的と方法

アメリカ・ジョージア州では、雇用創出と直接連携させた人材育成プログラムを導入している。その概要を把握するために現地ヒアリング調査を行い、本資料シリーズではその結果を紹介している。以下では、2つの事例を紹介する。

主な事実発見

  1. ICAPプログラム

    Intellectual Capital Partnership Program(ICAPプログラム)は、ジョージア大学機構の経済開発プログラムの1つである。

    ICAPプログラムは、州内の"その企業が""そのときに"求めている人材を育成し供給できるように、ジョージア大学機構に属しているカレッジや大学が迅速にテイラーメイドの職業訓練プログラムを作り、かつ実施するというものである。つまり、企業の人材ニーズと、カレッジや大学という高等教育機関に存在する知的資本を融合させて、州の経済状況を改善することを目的としている。

    一番初めに実施されたのは、TSYS社とコロンバス州立大学 (CSU) のCOMPASS ICAPプログラムで、1996~2003年の7年間続いた。大型汎用コンピューターのプログラマー不足に直面していたTSYS社のためにプログラマーを育成・供給する職業訓練プログラムで、CSUが訓練プログラムを作成し実施した。

    これまでに、TSYS社は約2,500人の訓練修了者のうち1,000人を雇用した実績があり、現在でも800人が働き続けている。

    なお、現在でも、雇用ニーズがあるにもかかわらず、必要なスキルを持った労働力供給のない分野で、他のICAPプログラムが複数行われている。

  2. ジョージア・クイックスタート

    クイックスタートは、ジョージア州への企業誘致を成功させ、また州内で雇用創出をする企業を手助けするために、職業訓練を提供する州の機関である。企業誘致や雇用創出を引き出すインセンティブとして、資金提供は行わず、職業訓練プログラムの提供のみであることが特徴である。

    クイックスタートは、要件を満たした企業に限ってではあるが、ジョージア州に新規参入する企業または一定数の雇用創出を行う既存企業に、無料で職業訓練を提供する。1967年に設立されてからこれまでに、約5,900社に職業訓練プログラムを提供し、約78万人に訓練を実施してきた。

    技術大学(テクニカルカレッジ)の上部組織であるジョージア技術大学機構の一部局という位置づけで、州の予算で州内のテクニカルカレッジと円滑に連携をとりながら事業を行っている。ジョージア州では約30のテクニカルカレッジが州内を網羅するように設置されていて(図表を参照)、クイックスタートの訓練プログラム提供要件を満たす企業が現れたとき、一番近いテクニカルカレッジから訓練場所や教室等の提供を受けるなどの連携がとられている。

図表 ジョージア州の主なテクニカルカレッジと職業訓練校

図表 ジョージア州の主なテクニカルカレッジと職業訓練校/資料シリーズ No.91

出所:調査時のクイックスタートからの提供資料

政策的含意

人材育成を行っても、育成した人材が雇用されなければ、その人材育成は無駄に終わってしまう。しかし、雇用の受け皿が用意された上で人材が育成されれば、高い確率で良質な雇用が生み出され、地域の経済成長にプラスに働くであろう。地域経済がプラスに成長すれば、新たな雇用が生み出され、さらに経済成長をするという好循環が生まれるだろう。こうした好循環のなかのほうが、能力開発やキャリア形成の機会を個人が見つけやすい。

上の2つのプログラムの効果の大きさについては評価が待たれるところであるが、労働の需給バランスにあわせて機動的かつ戦略的に公的資金を投入しているこれらの事例は、効率的な資源配分を実現するための公的な制度設計のアイデアとして参考となるだろう。

政策への貢献

将来的な雇用創出と人材育成のパッケージ事業デザインにあたっての参考情報。

本文

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研究期間

平成22年度

執筆担当者

原 ひろみ
副主任研究員

入手方法等

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