資料シリーズ No.87
ジョブ・カード制度の現状と普及のための課題
―雇用型訓練実施企業に対する調査より―

平成23年3月29日

概要

研究の目的と方法

ジョブ・カード制度とは、単に「ジョブ・カード」自体のことを指すのではない。職業訓練と職業能力の評価を受ける機会の両方を提供し、このような機会が少ない人たちがより良いキャリア形成ができることを目指した制度である。具体的には、企業での訓練とその成果に対する評価、そしてその過程でのキャリア・コンサルティングが組み合わさった制度である。

本研究では、ジョブ・カード制度が導入されてから3年めにあたる2010年に、有期実習型訓練(ジョブ・カード制度の訓練の1つ。以下ではジョブ・カード訓練と呼ぶ)を実施したことある企業の特徴を明らかにし、ジョブ・カード訓練の導入によって企業内にどのような効果あったのかを検証した。くわえて、訓練の導入にあたって企業が困難に感じたことを整理した。

研究では、企業アンケート調査を実施し、大量観察に基づいて大きな傾向を見出すとともに、アンケート調査だけでは把握することができない企業の個別要因も調べるために、同時にヒアリング調査も行った。

また、フランスですでに導入されている類似の施策「交互訓練制度」についても紹介した。

主な事実発見

ここでは、企業で観察されたジョブ・カード訓練の導入の効果をまとめよう。

  1. ジョブ・カード訓練を活用したことのある企業の7割近くが正社員数30人未満の中小企業であり、地方の中小企業が多く、訓練導入の時期も合わせてみると比較的採用力の弱い企業の間で浸透している。
  2. ジョブ・カード訓練の導入のきっかけとしては、助成金の存在や地域ジョブ・カードセンターから説明を受けたことを挙げる企業が7割前後と多い。それと同時に、人材育成や採用に関わる各企業の課題を解決する手段としての期待を持つ企業が多い。
  3. 訓練については平均して募集人数の2倍の応募があり、充足率も9割と高くなっている。
  4. 訓練修了後の採用状況をみると、訓練を修了した企業の75%が訓練修了者全員を正社員として採用している。非正社員とした採用したケースもあるが、この場合は、訓練生が採用基準に達しなかったからという理由が多い。また、採用を見合わせたケースでは、本人が採用を望まなかった場合が多い。

図表 ジョブ・カード制度の導入の効果

図表 ジョブ・カード制度の導入の効果/資料シリーズNo.87

データ:「ジョブ・カード制度の活用に関する調査(企業調査)」(2010年9~10月実施)。

注1:[1]訓練カリキュラム、[2]職業能力評価基準による評価、[3]企業内での指導・評価の課題、[4]ジョブ・カード制度導入による職場の派生的な効果、[5]訓練生の意欲、[6]ジョブ・カード自体の通用性のそれぞれに関連する項目である。

注2:集計は、ジョブ・カード訓練導入後の企業225社についてである。

  1. 訓練カリキュラムに目を向けると、OJTとOff-JTを組み合わせ、体系化されたカリキュラムへの評価は高い(図の[1])。
  2. 評価に目を向けると、職業能力評価基準を活用した評価方法が高く評価されている。評価基準については他の正社員採用や上級職種への適用を考える企業も多い(図の[2])。
  3. ジョブ・カード訓練から離れて、「ジョブ・カード」自体の市場での通用状況をみると、回答企業のうち6割の企業が応募者がジョブ・カードをもっていれば採否の判断がしやすいとしており、ジョブ・カード制度の周知がすすめば、ジョブ・カードの市場での通用性が高まる可能性は高い(図の[6])。

政策的含意

以下では、ジョブ・カード訓練を実施に関する企業の意見や感想を紹介しながら、ジョブ・カード訓練導入を促進するための対策をまとめる。

  1. ジョブ・カード訓練実施企業のなかには、訓練カリキュラムの作成に困難を感じた企業が多かった。よって、教育訓練かかわる企業コンサルティングを強化することが必要と考えられる。

    具体的には、[1]ジョブ・カードセンターのジョブ・カード制度普及促進員の拡充、[2]既存の教育訓練の専門家を関係機関に再配置、[3]将来的には、教育訓練に関するノウハウを蓄積し、教育訓練についてのコンサルティングができる人材の育成・供給を担う組織づくりといったことが考えられる。

  2. 求職者・企業双方に対する制度の周知、制度普及を図ることが求められる。まずは訓練協力企業が増えないと、求職者の雇用型訓練の受講機会も増えない。同業他社の成功例を聞いたり、カリキュラムを参考にして導入を進めたという企業が見受けられることから、業界単位で情報・ノウハウを蓄積し、制度普及を推進することが効率的である。
  3. ジョブ・カード訓練生の募集がでても、応募者がないというケースもある。求職者への制度周知、普及を図ることが必要である。

    くわえて、ジョブ・カード訓練へのハローワークでの積極的な誘導が不可欠である。募集があっても、応募がなければ、社会から雇用機会が一つ失われることになる。たとえば、一定期間失業している人は自動的に訓練をともなう雇用へ誘導するといった誘導ルールを策定するなど、職業訓練の誘導を積極的に行う仕組み作りが望まれる。

  4. モデル評価シート、モデルカリキュラムに対する企業からの評価が高いことから、一層の開発・充実が求められる。
  5. 適正な評価が行われるために、評価者に対する教育・訓練の拡充が求められる。ジョブ・カードセンターで評価者講習が行われているが、実際には受講していない企業も多い。
  6. Off-JTの実施に課題を感じている企業が特に見受けられた。よって、Off-JTを実施できる外部教育訓練施設についての情報整備も有効である。

    また、業界団体や地域団体でOff-JTを提供できる仕組みの導入といったことが、企業のOff-JT実施上の困難を緩和するだろう。フランスの交互訓練制度では、Off-JTを実施するために、業界団体などが主体となって見習訓練センターが設置され、税金によって運営されている。この仕組みは日本でも参考になるだろう。

政策への貢献

内閣府「ジョブ・カード推進協議会」で、制度改善に向けた議論を行うための基礎データ・資料として活用された。

本文

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研究期間

平成22年度

執筆担当者

原 ひろみ
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
小杉礼子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
中道麻子
早稲田大学 産業社会研究所 特任研究員

入手方法等

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