旧日本労働研究機構(JIL)資料シリーズNo.119
在宅ワーク発注と在宅ワーカーの動向

平成 14 年 3月

概要

序節 調査研究の目的と方法

1 目的

I T革命の進展の中で、情報通信機器を活用しながら情報関連サービスの業務を請負的に自宅を中心に行う“在宅ワーク”という働き方が注目されているが、技術革新が激しい状況下において在宅ワークはその実態も変化が大きく、継続的な実像把握が重要と考えられる。

日本労働研究機構のテレワーキング研究会は在宅ワ−クに関する調査研究を継続的に行っているが、1997年には発注事業所、在宅ワーカーの両面から在宅ワークに関する総合的な調査研究を実施したく結果については調査研究報告書No.113 『情報通信機器の活用による在宅就業の実態と課題』(1998)を参照。なお、この場合の「在宅就業」という用語は「在宅ワーク」と同じ意味で使われている)。

そこで、その後約4年間の経過の中で、全体として在宅ワーク発注の有無や発注人数等にどのような変化が生じているかを明らかにすることを目的に、今回(2001年)は往復葉書方式に限定しつつ調査を実施することにした。

また、各年調査のサンプルは既存のデータベースからランダムに抽出したものであるが、1997年と2001年とも調査に回答している事業所をその名称などから確認し、在宅ワーク発注に関するパネルデータを作成して、個別事業所レベルでの在宅ワーク発注の変動状況を分析する。

さらに、本研究会はインターネットのニフティ内で活動している在宅ワーキングフオーラム(注1)(以下「FW0RK」という)と連携を図りつつ、在宅ワーカーの就業実態を調査しているが、1999 年に実施した調査に回答した在宅ワーカーを対象に、再度2000年に調査を実施し、この間、在宅ワークを継続しているワーカーについて1年間の就業実態と課題の変化を分析検討した。

(注“93年に在宅ワークに関する情報交換など会員の相互扶助を目的に設立。)

2 方法

(1)在宅ワーク発注事業所調査

1997年調査、2001年調査とも、在宅ワーク発注が行われている傾向が強いと考えられる業種として表序−1に示す業種を選び、ともに(株)帝国データバンクのデータベースから、1997年は全国・全規模でランダムに2分の1を抽出し9月に調査を行い、まだ2001年は全国・全規模すべてのサンプルを対象に5月に実施した。

1997年は30,990社に対する有効回答数は2,200社で有効回答率は7.1%、2001年は67,695社に対する有効回答数は3,219社で有効回答率は4.8%であった。

(表序−1 調査対象業種、対象社数と有効回答)

(2)在宅ワーカーパネル調査

FWORKは1994年以来、会員を対象にネット上で就業実態調査を行っているが、その調査にJ I Lテレワーキング研究会として協力する形で実施した。こうした連携した形での実施は1997年からで、この調査で4回目である(注2)。

具体的には表序−2に示すように、まず1999 年調査は直近1ヶ月間のサイトヘのアクセス者約4,500人を対象に行い、次いで1999年調査への回答者(364人)のうち継続調査への合意が得られた339人を対象に2000年調査を行った。調査対象339人に対する有効回答は113人、回答率は33.3%であった。

(注2)97年~99年の調査結果は『在宅・SOHOワーク2000』(日本労働研究機構2000.9)を参照。

2000年調査の特色は、同一の在宅ワーカーを対象に、異時点間(1999年と2000年)の状況を比較できる点にある。こうした点を踏まえ、分析に際しては在宅ワーカーの就業実態と課題の変化を探るという視点から、回答者のうち1999年、2000年とも在宅ワークを行っている者(73名)を対象とした。このため分析対象は、結果的に在宅ワークを継続できているという条件の者に限定されていることにもなる。

分析にあたっては、在宅ワーカーを以下に示す3つの就業スタイルに分類している。

(表序−3 在宅ワークの就業スタイル)

なお、調査対象がインターネット上のネットワークの会員であることから、サンプルの属性等に関し偏りがある可能性に留意する必要がある。

第1節 在宅ワーク発注事業所の動向1997年と2001年の比較)

1 発注事業所割合の変化

有効回答中の発注事業所の割合は 1997 年から 2001年への4年間で、全体として 30.8%から42.7%へと10%強上昇しており、在宅ワーク発注の拡がりがうかがえる。また以前発注経験があるケースもやや増加しており1割近い(表1−1)。

なお序節で示したように、調査への有効回答率が1997年は約7%、2001年は約5%と極めて低いため、この発注事業所割合の水準自体には少なからず高めのバイアスがかかっているものと考えられるが、発注率の変化の検討には意味があるといえる。

規模別には、基本的には小規模ほど高い傾向にあるが、この4年間では50人未満の小規模事業所、特に10~49人規模での上昇幅が大きくなっている(図1−1)。

業種別には、発注割合の水準は「出版、印刷」、「情報サ−ビス、調査、広告」、「デザイン、設計」で高いが、4年間の変化に関してもこれらの業種の上昇幅が大きくなっている。

地域別には1997年調査では「東京」、「東海」、「近畿」などで高水準であったが、この4年間では「南関東」での上昇幅が特に大きく、「東京」とほぼ同水準となっている。

在宅ワークの発注事業所割合に対する「規模」、「業種」、「地域」の同時的な影響を確認するため、在宅ワークを発注しているか、していないかの状況に関するプロビット分析を行い、1997年調査と2001年調査に関する結果を比べると(「規模」、「業種」、「地域」の違いは各々ダミー変数として説明変数に加えた)、まず「出版、印刷」、「情報サ‐ビス、調査、広告」、「デザイン、設計」の各業種は両年とも有意であり、限界効果が高まっている。規模別には基本的に「30人以上」規模が有意に低い状況に変わりはない。地域ダミーは両年で多少の変動がみられるが、「東京・南関東」で有意にプラスで、その限界効果も高まっている(表1−2)。

これまでの検討とあわせると、発注割合が高い零細事業所の割合が高まっていること、主立った業種の発注割合が上昇していること、また「東京・南関東」の発注割合が高まっていることなどが、全体の発注割合の上昇に寄与しているとみられる。

2 発注人数の変化

在宅ワークを発注している一事業所当たりの平均発注人数は1997年の8.7人から200事弱こは8.3人へとやや減少している(表1−3)。両年とも「1人」、「2人」が5割程度を占める。ただし 10人以上の割合は13.0%から15.4%へと増加している。

職種別の平均発注人数は1997年と2001年を比べて「その他」での減少が大きい。主要な業種に関しては、「情報サービス、調査、広告」では若干減少しているものの、「出版、印刷」、と「デザイン、設計」では増加している。特に「出版、印刷」での増加が大きい。

既にみたように平均の発注人数は全体としてはやや減少しているものの、50人未満の中小零細親模では増加しており、これらの規模では従業員数に対する発注人数の比率も上昇している(表1−4)。その比率は2001年調査では、30人未満では約60%以上となり、特に5人未満では約200%となっており、平均的に従業員数の倍近い在宅ワーカーへ発注がなされている。

他方100人以上規模では、平均発注人数は大きく減少し、全体の平均発注人数合計の減少はこうした事業所規模での多人数の発注事例が減ったことの影響と考えられる。

従業員規模が小さい事業所ほど、従業員当たりの在宅ワーク発注者数が多いという傾向を、業種や立地地域の影響を調整しつつ、関数分析により確認してみよう。

表1−5は従業員一人当たりの在宅ワーク発注者数(在宅ワーク発注者数/従業員数)を各種ダミー変数で説明した推計結果であるが、従業員規模ダミーはすべて有意で規模が大きいほど従業員一人当たりの在宅ワーク発注者数は小さい状況を示している。また、その傾向は1997年から 2001年にかけて大きくなっている。逆に言えば、規模の小さい事業所ほど従業員一人当たりの在宅ワーク発注者数が多い傾向が強まっていること、すなわち、在宅ワークという外注への依存度が高まっている動きを示しているとみられる。

3 業務請負会社への外注と在宅ワーク発注の関係

2001年の調査では在宅ワークの発注状況とは別に、「過去1年間に、在宅ワーク関連業務を個人にではなく業務請負会社(在宅ワーカー登録会社含む)に外注したこと」の有無を尋ねている。その結果によると、全体で約2割の事業所が「外注あり」としている(表1−6)。在宅ワーカーへの発注の約半分の水準である。

業務請負会社への外注と在宅ワーク発注との関係をみると、在宅ワーク発注を行っている事業所ほど業務請負会社への外注割合が高い傾向にある(表1−7)。在宅ワーカーへの発注と業務請負会社への外注が同時に行われる傾向がうかがえる。

なお、以前に在宅ワーク発注を経験している場合も、していない場合に比べて外注を行っている割合が大きい割合が大きい。

上記の検討をベースに、業務請負会社への外注を行っているかどうかについて、プロビット分析(行っている場合=1、行っていない場合=0)により検討してみるとく表1−8)、在宅ワーク発注を行っていること、または以前行ったことがあることの有意度が高く、限界効果が大きいことが確認される。在宅ワーク発注と業務請負会社への外注は必要に応じて、また同時的に使い分けられている状況にあるとみられる。

第2節 在宅ワーク発注事業所のバネルデータ分析(1997年と2001年の比較)

1 発注状況の変化

185事業所の有効サンプルについて、1997年と2001年の間の発注状況の変化を示したのが表2−1である。

1997年時点で発注していた事業所の8割強が2001年時点でも発注を行っている。また1997年時点では発注を行っていなかった事業所の約半数が2001年時点では発注を行い、他方残りの約半数はその時点でも発注を行っていない。

こうした発注状況の変化を、発注変動の4タイプに分類してみる(表2−2)。

タイプ別の構成を示したのが図2−1であるが、両時点とも発注を行っていない「発注なし」も24.9%と4分の1を占めるものの、両時点とも発注している「継続発注」が43.2%と最も多く、またこの間に「発注開始」したのが23.2%と4分の1近い。他方、この4年間で「発注中止」したケースは8.6%と少ない。

従業員規模別には、50人未満で 「継続発注」の割合が相対的に高く、50人以上では「発注なし」が多い(表2−3)。

継続発注事業所について発注人数と従業員数の変化は、図2−2のように、従業員数がかなり(2割以上)減る中で、わずかではあるが発注人数は増加している。継続発注事業所においては、従業員数を減らす中でアウトソーシングの一環として在宅ワーク発注を増やしている傾向がうかがえる。

第3節 在宅ワーカーのパネルデータ分析(1999年と2000年の比較)

1就業スタイル…進む専業化

1999年から 2000年にかけての就業スタイルの変化をみると、「専業」が 49.3%から 57.5%へと増加しており、在宅ワークの継続に専業化を促す効果をみてとれる。

具体的には、1999年に「アルバイト・パート」で在宅ワークを行っていた者の3割近くは2000年には「専業」に転じ、同じく「副業・兼業」の2割強も専業化している(表3−1)。

2 仕事内容の変化

在宅ワーカーが行っている職種は、中心を占める「ワープロ・データベース入力」が若干ながら減る一方、「DTP」や「(デザインなどの)クリエイティブワーク」、「テープ起こし」などが増えている。

就業スタイル(1999年時点)別には、専業で「入力」が減って「クリエイティブワーク」が増え、アルバイト・パートでは「DTP」や「テープ起こし」が増えている(表3-2)。この結果一人平均の職種数は、アルバイト・パートでかなり増えている(表3−3)。

在宅ワーカーは複数の職種を行っている傾向が強い。それを単純化するため職種タイプ(行っているうち最も専門性が高いと考えられる職種で分類)別にみると、「文章等入力・処理」が減る一方、「DTP・電算写植」などそれ以外のタイプが増えている。

1999年に「文章等入力・処理」タイプであった在宅ワーカーの2000年の状況をみると、約3分の1が「DTP・電算写植」や「デザイン・設計」などより専門性が高いとみられるものに職種展開している(図3−1)。

図3−1で3分の2を占める「文章等入力・処理」タイプを継続している在宅ワーカーであっても、1年間に仕事内容を拡大させたり、より付加価値の高い仕事を行うなど、レベルアップの傾向がうかがえる。

3 仕事の確保状況の変化

仕事の確保状況の変化をみると、「あったりなかったり」や「ない時の方が多い」が減る一方、「継続的にある」や「たまに途切れる」が増えている(図3−2)。

一見、在宅ワークの継続により仕事確保が高まるともみられるが、調査対象者の性格上、むしろ仕事が確保できないと継続が難しいという方が実態に近いと解釈できる。

仕事獲得ルートの変化をみると「自分で営業」や「知人(以前の勤め先以外)の紹介」が増加している。特に「自分で営業」は「FWORKの募集コーナー」を上回ってトップとなっている。他方「FWORKの募集コーナー」と同じくサイト上で利用できる「FWORK の自己PRコーナー」も若干ながら減少している(図3ー3)。

仕事の確保状況別に獲得ルートをみると(2000年調査)、確保ができているほど「自分で営業」を行い、逆にできていないほど「FWORKの募集コーナー」や「求人広告」などの公開情報に依存する傾向にある。たまに途切れるケースでは「仕事仲間」や「知人」といった人的コネクションに頼っている割合が相対的に高い(図3−4)。

4 就業時間の変化

就業時間(週平均)の変化をみると、合計で31時間から 35時間へと増加している。就業スタイル別には、「アルバイト・パート」(1999年時点)の増加(24時間→31時間)が大きい(図3−5)。

そのうち、2000年には「専業」へと就業スタイルが転換しているワーカーのケースでは、28時間から 38時間へと特に増加が大きい。

就業時間の増加の要因としては、「アルバイト・パート」から「専業」への就業スタイルの転換のほかに、図3−2(P14)でみた仕事が確保できている程度の高まりも挙げられる。

2000年調査により、仕事の確保状況別に週平均就業時間をみると、「継続的にある」場合の40時間に対して「あったりなかったり」では23時間と、確保できているほど長くなっている(図3ー6)。

5 年収、報酬単価の変化

年収(税・諸経費を含む)水準の変化をみると、約280万円から約300万円へと増加している。

就業スタイル別(1999年時点)には、「アルバイト・パート」での増加程度(3分の1強)が大きくなっている。逆に「専業」では5%弱とあまり大きくない(図3−7)。在宅ワークの開始時と比べた報酬単価の水準については、「変わらない」とする者が減る一方で、「上昇」(26.0%→31.5%)と「低下」(21.9%→27.4%)がともに増加しており、二極分化の傾向にある(図3−8)。

就業スタイル(1999時点)別には、「アルバイト・パート」で「上昇」が大きく増加(17.8%→28.5%)しているが、「専業」では横這い(33.3%→33.3%)である。

開始時と比べた報酬単価の変化について「上昇」から「低下」の割合を引いた値をみると、職種タイプ(2000年時点)別の違いが大きい。

「翻訳・ライター」と「ソフト関連」では上昇超過(「上昇」>「低下」)が続く一方、「文章等入力・処理」と「DTP・電算写植」では低下超過(「上昇」<「低下」)が続いている。また「デザイン・設計」では低下超過が上昇超過に転じている(図3−9)。

6 困っていることの変化

困っていること(複数回答)としては、引き続き上位にあるものの「仕事の確保」を挙げる者がやや減る一方、「収入が安定しない」や「単価が安い」といった収入や単価に関する指摘が増加している。また「納期が短い、きつい」や「(大きな仕事を引き受けるための)仲間・人材の確保」の指摘も増加が大きい。

また就業時間の増加の中で、パソコン使用による「眼精疲労、腰痛、肩こり」や「生活が不規則」といった健康問題、「(自分や子供の)病気などで納期間際に仕事が出来なくなった時の対処」という生活とのバランス問題の指摘も増加している。

さらに「ハードウェアのレベルアップ」という追加投資の課題もある。

執筆担当者

神谷 隆之
日本労働研究機構研究員

テレワーキング研究会

座長 亀山 直幸 日本労働研究機構常任参与
  金井 祐子 在宅ワーキングフオーラム代表(調査実施時)
  神谷 隆之 日本労働研究機構研究員
  加藤 明子 同上
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