調査シリーズNo.174
企業の転勤の実態に関する調査

平成29年10月25日

概要

研究の目的

企業における労働者の転勤については、企業独自の経営判断に基づき行われるものであるが、就職後間もない時期から複数回の転勤が行われることにより、結婚・妊娠・出産・子育てといった、将来のライフプランの設計に困難をきたし継続就業の妨げになる、あるいは家族形成を阻害するとの指摘がある。これらを踏まえ、雇用管理における転勤の位置づけや実態、その効果等について企業・労働者アンケート調査を行った。

本調査は、厚生労働省雇用環境・均等局(当時、雇用均等・児童家庭局)の要請にもとづく課題研究である。

研究の方法

アンケート調査(企業・労働者調査)。

調査対象は、企業調査が全国の常用労働者300人以上の企業;10,000社。正社員調査が調査対象企業で転勤経験のある正社員8人に配付(計80,000人)。企業調査の有効回収数が1,852件(有効回収率:18.5%)。正社員調査(転勤経験者)の有効回収数が5,827件(有効回収率:7.3%)。

主な事実発見

  • 企業調査によれば、正社員(総合職)の転勤(転居を伴う配置転換)がどのくらいあるかについては、「正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある」が33.7%、「正社員(総合職)でも転勤をする者の範囲は限られている」が27.5%、「転勤はほとんどない(転勤が必要な事業所がない)」が27.1%となっている。正社員規模別にみると、「正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある」の割合は規模が大きくなるほど高くなる。
  • 転勤の目的は、「社員の人材育成」が66.4%ともっとも多く、次いで、「社員の処遇・適材適所」「組織運営上の人事ローテーションの結果」「組織の活性化・社員への刺激」「事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充」「幹部の選抜・育成」「組織としての一体化・連携の強化」などとなっている。
  • 転勤命令の決定方法(転勤命令が「A:会社主導ですべて決定」か、「B:社員の意見・希望を踏まえて決められている」か)については、A計(「Aに近い」「ややAに近い」の合計)は79.7%、B計(「Bに近い」「ややBに近い」の合計)は19.4%となっている。8割弱が転勤命令は会社主導で決定されている。
  • 勤務地限定正社員の雇用区分がある企業は15.8%。勤務地限定正社員と全国転勤型との間の年収差(給与・賞与含む)は、「5~10%未満」が27.4%、「10~15%未満」が25.3%などとなっている
  • 転勤がある企業において、過去3年間で、転勤において家族的事情等を考慮したことがあるかについては、「親等の介護」が56.7%でもっとも多く、次いで、「本人の病気」「出産・育児」「結婚」「子の就学・受験」「配偶者の勤務(共働き)」などとなっている(図表1

    図表1 過去3年間での転勤における家族的事情等の考慮(MA、単位=%)【企業調査】

    図表1

  • 過去3年間で、配偶者の転勤を理由に退職した正社員の有無については、「いる」が33.8%。配偶者の転勤に伴う勤務地変更制度については、「制度としてある」が2.0%、「制度はないが運用としてある」が16.1%となっている。
  • 一方、正社員調査によれば、転勤免除配慮を求めたことが「ある」とする割合は12.2%(男性11.6%、女性14.6%)。転勤免除配慮を求めた事情は、「親等の介護」が28.2%でもっとも多く、次いで、「子の就学・受験」が19.3%、「出産・育児」が16.9%などとなっている。
  • 現在の会社でのあなたの転勤経験に照らして、転勤があることにより、困難に感じることがあるかについては、各項目で、「そう思う・計」(「そう思う」と「ややそう思う」の合計)の割合をみると、「結婚しづらい」(29.3%)、「子供を持ちづらい」(32.4%)、「育児がしづらい」(53.2%)、「進学期の子供の教育が難しい」(65.8%)、「持ち家を所有しづらい」(68.1%)、「介護がしづらい」(75.1%)となっている(図表2)。

    図表2 現在の会社での転勤経験に照らして困難に感じること(単位=%)(n=5827)【正社員調査】

    図表2

政策的インプリケーション

介護や子育て等の様々な理由により、男女ともに、転勤に関して様々な配慮を求める社員が増加している。共働き世帯の増加を背景に、配偶者の転勤に関わる配慮をする企業もある。転勤による社員の教育や組織の活性化等の効果に留意しつつ、転勤が人材確保・定着の制約とならぬように、異動・転勤の雇用管理の在り方を個々の企業が検討することが望まれる。

政策への貢献

本研究は、「転勤に関する雇用管理のポイント(仮称)」策定に向けた研究会及び報告書の作成において、基礎資料を提供した。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

研究期間

平成28年度

執筆担当者

荻野 登
労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 副所長
奥田 栄二
労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.96)。

関連の研究成果

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