調査シリーズNo.165
ものづくり企業の経営戦略と人材育成に関する調査

平成29年3月10日

概要

研究の目的

わが国のものづくり産業は、90年代以降、多くの企業が海外に生産拠点を移転するなど、縮小傾向にあるが、依然、関連する地場企業など非常に裾野の広い産業で、雇用吸収力も高い「良質な雇用の場」としての基幹産業であることは間違いない。政府が産業競争力の強化に向け、「日本再興戦略」を推進する中、ものづくり産業の復活と安定的な成長が喫緊の課題となっている。

中でも、ものづくり産業を支える中小企業の活性化が、産業全体の競争力向上と復活のためには欠かせない。しかし、こうした中小企業は大企業に比べて、採用・人材育成面などにおいて様々な制約を抱えていると思われる。

本調査は、中小企業を中心にものづくり企業が採用・人材育成面等で抱える課題を明らかにするとともに、ものづくりの競争力となる高付加価値を生み出す経営戦略と、その高付加価値の源泉たる熟練技能者の確保・育成の実態の把握を目的としている。

研究の方法

企業アンケート調査(郵送方式)。

調査対象は、全国の日本標準産業分類(平成19(2007)年11月改訂)による項目「E 製造業」のうち、プラスチック製品製造業、鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、はん用機械器具製造業、生産用機械機具製造業、業務用機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業、電気機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、輸送用機械器具製造業に属する従業員数10人以上の企業20,000社。平成21年(2009)経済センサス基礎調査(速報)での企業分布に従い、民間信用調査機関所有の企業データベースから業種・規模別に層化無作為抽出した。

調査実施期間は、平成26(2014)年11月28日~12月19日。有効回収数は4,280件(有効回答率21.4%)。

主な事実発見

3社に1社が「高度な熟練技能」が自社の強みと認識

自社の強みについて聞いたところ(複数回答)、「高度な熟練技能を持っている」ことを強みだとする企業割合が33.8%と最も高く、次いで「極めて短い納期に対応できる」(31.0%)、「優良企業の下請企業の主力となっている」(24.1%)、「他社の参入が難しい製品・サービスを提供している」(21.8%)、「狭い市場で高いシェアを誇っている」(18.4%)など。

約半数が「熟練技能者集団」企業で、規模が小さいほどその傾向

企業の人材的特徴をタイプ分けすると、「ベテランの技能者が多く、熟練技能者集団に近い」企業が45.4%と半数近くを占め、「比較的簡単な作業をこなす労働集約的な作業者集団に近い」企業が35.7%、「研究者・技術者の割合が高く、研究技術者集団に近い」企業が9.0%。規模が小さいほど「ベテランの技能者が多く、熟練技能者集団に近い」企業割合が高くなっている。

最も多くの企業が「熟練技能者」を主力製品づくりのキーパーソンにあげ、「加工・組立新技術の確立」「新製品の開発」での役割を評価

主力製品づくりのキーパーソンに「高精度の加工・組立ができる熟練技能者」をあげる企業が20.5%と最も高く、次いで「工場管理・作業者の指導ができる工場管理者層」(17.1%)、「生産現場の監督ができるリーダー的技能者」(16.4%)など。技能系人材をあげる企業(49.3%)が技術系人材(23.3%)を大幅に上回っており、熟練技能工が経営を支えている様子がうかがえる。「熟練技能者」の役割については「これまでの経験や熟練技能を活かして、新しい加工・組立技術を確立した」が40.5%と最も高く、「これまでの経験や熟練技能を活かして、新しい製品の開発に貢献した」(17.2%)が続いている。この「新製品開発」では、「新製品開発ができる研究職・開発職」に次ぐ2番手となっており、「熟練技能者」の貢献度の高さが伺われる結果となっている。

図表1 経営を支える主力製品の生産に重要な役割を果たした人材(ものづくり人材、%)

図表1画像

図表2 主力製品の生産に貢献したものづくり人材が果たした役割(複数回答、%)

図表2画像

約9割の企業が経営基盤を支える「ものづくり人材」を自前で育成

経営を支えるものづくり人材をどのように確保するかについて、約9割(88.7%)の企業が中途もしくは新卒を自前で育成するとしており、能力開発に積極的な姿勢を示している。従業員規模別にみても差はなく、どの規模階層も約9割が自前で人材を育成するとしている。

自社の強みを「ある製品・サービス分野で国際的に高いシェアを持っている」「海外のメーカー向けに機械や部品を供給している」などとするグローバル競争企業でも、過半数が「新卒者を採用して自社で育成」するとしている(それぞれ64.3%、55.4%)。

政策的インプリケーション

調査結果により、わが国製造業、中でも中小企業において、熟練技能労働者が経営を支える主力製品作りのキーパーソンであり、その「高度な熟練技能」が「加工・組立の新技術の確立」や「新製品開発」のうえで大きな役割を果たしている実態が明らかになった。このことから、激しい国際競争に晒され苦戦しているわが国製造業を復活させるためには、このような高付加価値を生み出す人材を確保し、育成に力を入れることが必要不可欠であり、民間企業における企業内訓練の高度化とともに、公的な教育訓練の充実・拡充や高度化が求められている。 

政策への貢献

「平成26年度ものづくり基盤技術の振興施策」(2015年版ものづくり白書)で活用されている。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

緊急調査「経済社会構造が変化する中でのものづくり産業における技能者の人材育成」

研究期間

平成26年度~平成28年度

調査実施担当者(肩書きは、調査実査時点)

尾形 強嗣
労働政策研究・研修機構 総務部長
郡司 正人
労働政策研究・研修機構 調査・解析部次長
藤本 真
労働政策研究・研修機構 人材育成部門副主任研究員
米島 康雄
労働政策研究・研修機構 調査・解析部 主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.94)。


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