調査シリーズNo.152
UIJターンの促進・支援と地方の活性化
―若年期の地域移動に関する調査結果―

平成28年5月31日

概要

研究の目的

近年、地方からの若年者流出とそれに伴う地域の衰退が問題視され、大都市圏からのUIJターン促進・支援と地方の活性化が重要な政策課題になっている。そして、若年者の地方定着・還流のためにも、地方に質の高い雇用機会を創ることが求められている。

本研究では、若年期の地域移動(地方出身者の出身地からの転出とUターン、大都市出身者の地方移住)の実態把握と行政支援ニーズの所在・中身を明らかにする目的で個人アンケート調査を行うとともに、地域の実態把握を目的とするヒアリング調査を行った。

研究の方法

アンケート調査、ヒアリング調査
(※本調査シリーズは、アンケート調査を中心に結果を取りまとめた。)

主な事実発見

(1)地方出身者の出身地からの転出

出身地からの転出は、大学・専門学校等への進学や就職に伴う移動が主であり、年齢でいうと18歳時が過半数を占める。転出の理由をみると、「地元には進学を希望する学校がなかった」「地元から通える進学先が限られていた」といった教育機会の地理的偏在と進路選択に大きく依拠し、「親元を離れて暮らしたかった」「都会で生活してみたかった」などの生活上の選択も重なり合った結果、もたらされるものといえる。

(2)地方出身者のUターン移動

地方出身者の出身県へのUターンは、就職や学校卒業をきっかけとして、実家(もしくは実家近く)に戻る移動が主となっている。年齢でいうと22歳時が中心であるが、新卒就職のタイミングを過ぎても、20代は離転職や結婚を機としたUターンが少なくない。

出身市町村へUターンする(できる)かどうかには、出身市町村の位置づけによる違いも関係する。つまり、同じ地方圏でも大都市部の出身者ほど出身市町村に戻る(戻れる)が、都市部から離れた地域の出身者では、県内の大都市部へのJターンとなるケースが多い。背景には、地元に十分な雇用の受け皿がないことが考えられる。

Uターンにあたっての仕事面の気がかりとしては「求人が少ない」「収入が下がってしまう」「希望にかなう仕事が見つからない」などが多く挙げられる。特に女性では、Uターンに際して「求人が少ない」「希望にかなう仕事が見つからない」という気がかりが男性に比べて多い。

なお、出身県外に居住している者についても、「出身地に戻りたい」というUターン希望が少なくない。特に、20代を中心とした若年者(35歳未満の者)においてUターン希望が多く、潜在的な支援ニーズの所在を示しているといえる。また、出身地に愛着がある者ほど強いUターン希望をもつほか、出身地を離れる前に地元企業をよく知っていた者ほどUターン希望が強い(図表1)。そして、Uターンするための行政支援としては、「仕事情報の提供」「転居費用の支援」「無料職業紹介」などが希望されている。

図表1 出身市町村へのUターン希望
―高校時代までの地元企業の認知程度別―【出身県外居住者】

図表1画像

(3)大都市出身者の地方移住

地方移住(Iターン)は、転勤等を機としたものを多く含むが、転職、結婚、就職を機とした移住も多く見られる。なお、就職、転職、転勤等に伴う地方移住者には業種・職種の特徴がみられ、結婚による地方移住者には女性が多いという特徴がみられた。

地方移住の年齢については、Uターンよりも幅があるが、就職を機とした移動は22~25歳頃、転職を機とした移住は20代半ば~30代後半、結婚を機とした移住は20代後半(25~30歳頃)、転勤等を機とした移動は20代後半~30代で多い。

地方に移住した当初の苦労としては、仕事面よりも、「休日に遊べる場所が乏しかった」「買い物が不便だった」「困ったことを相談する人がいなかった」などの生活面の苦労が多く挙げられるが、女性は、男性に比べて「仕事がなかなか見つからなかった」などの仕事面の苦労を挙げる人が多くみられた(図表2)。

図表2 移住当初に苦労したこと(複数回答)―男女別―
【地方移住者(転勤等による移住を除く)】

図表2画像

転職を伴った地方移住者について、地方移住による仕事面・生活面の変化をみると、地方移住に伴い、仕事面では収入低下を伴う場合が少なくないが、通勤の負担低下などによって時間面・精神面でゆとりも生まれ、居住スペースの増加も相まって生活の質向上をもたらす可能性があることがうかがえた。

政策的インプリケーション

地方出身者のUターンは、初職就職時(22歳時)に大きなピークがあった。ここから、新卒予定者を対象とした地方就職支援が最も効率的・効果的なUターン促進策であることがうかがえる。また、初職就職以降も、30歳頃まで、離転職や家庭理由などを機としたUターンが続いており、地元の仕事に関して継続的に情報提供すること等も、有効なUターン促進・支援策になる可能性がある。

さらに、出身県外居住者においても「出身地(県・市町村)に戻りたい」という希望(潜在的なUターン希望)が少なくない。そうした「潜在的Uターン希望者」にも、「仕事情報の提供」といった就業支援ニーズが多くみられた。そのため、潜在的Uターン希望者をどのように把握し、どのように継続的な情報提供の仕組みを作るか、今後検討する必要があろう。

地方移住に関しては、転勤等のほか、結婚、就職、転職を機としたものが多い。結婚を機に地方に移住するケースも多い女性においては、移住先での職探しの心配・苦労があり、就業支援のニーズが存在する。ハローワークで支援できる部分が大きいことがうかがえた。

最後に、分析からは、地域の雇用機会が個人のUターン選択にも大きく関わることがうかがえた。つまり、同じ地方圏であっても、大都市部ほど出身市町村へのUターンが起こりやすい一方で、都市部から離れた地域ほど一度転出した個人がUターンという選択をしにくく、出身県に戻る場合でも県内の大都市部へのJターンとなってしまう。この背景には、地方の中でも大都市部ほど雇用機会の量・質が豊富であることが考えられよう。都市部から離れた地域ほど、進学でいったん外に出た優秀な人材を呼び戻すには、魅力ある雇用機会を創出していくことが切に求められると示唆された。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」
サブテーマ「労働力需給構造の変化と雇用・労働プロジェクト」

研究期間

平成27年4月~平成28年3月

執筆担当者

髙見 具広
労働政策研究・研修機構 研究員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.158)。

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