調査シリーズ No.123
雇用調整の実施と雇用調整助成金の活用に関する調査

平成 26年 8月28日

概要

研究の目的

リーマン・ショック以降の不況下において、雇用調整助成金が広範にわたり活用された状況を受けて、その効果はもとより問題点も含めて評価・検証しておくための調査研究を、厚生労働省(担当:職業安定局雇用開発課(現:雇用開発企画課))からの全面的な協力の下に、当機構において実施することとした。この調査シリーズは、その調査研究の一環として実施したアンケート調査結果概要をとりまとめたものである。

今後、厚生労働省から別途提供された分析のために必要な様々な業務上のデータ等も併せて、外部研究者も交えた研究会においてさらに詳細な分析を行い、最終報告をとりまとめる予定である。

研究の方法

今回実施したアンケート調査(「雇用調整の実施と雇用調整助成金の活用に関する調査」)の概要は、以下のとおりである。

  • 調査対象:全国の事業所15,000所(リーマン・ショック後に雇用調整助成金を受給した事業所7,500所、受給していない事業所7,500所)
  • 調査時期:平成25年6~7月
  • 有効回答:5,952所(有効回収率:39.7%)

    (受給した事業所3,612所、受給していない事業所2,333所、不明 7所)

(注)上記のような抽出を行った結果、回答事業所については、産業としては建設業や製造業、情報通信業などが相対的に多く、卸売・小売業や宿泊・飲食サービス業などは相対的に少なくなっており、また、小規模事業所が多くなっていることなどには留意が必要である。

主な事実発見

1)回答事業所におけるリーマン・ショック以降の事業活動の推移とその要因

  • リーマン・ショック前年の2007年(平成19年)を100として、回答事業所における事業活動の推移を回答していただいた結果を平均値でみると、2008年が92.4、2009年82.0、2010年84.7、2011年87.7、2012年94.9と推移している。60以下、すなわち2007年水準を4割以上下回っている事業所の割合をみると、2008年は7.5%であったものが2009年は19.9%へ大きく増大し、2010年以降19.3%、19.7%、19.5%とほぼ横ばいで推移している。少なくない事業所で厳しい状況が長期にわたって続いたことが窺われる。一方、事業活動が2007年比の指数で91以上の事業所の割合は、2009年に32.3%にまで減少した後、2010年32.6%、2011年33.8%、2012年36.6%と緩やかに増大しており、持ち直しの動きも示されている。
  • 事業活動に急激な落ち込み等があった事業所に事業活動の変化の要因を尋ねた結果をみると、マイナスに影響したとした事業所の割合は、リーマン・ショックが74.8%、東日本大震災が50.2%となっている。このほか、「円相場変動」は35.8%、「取引先の海外シフト」が31.1%となっている(図表1)。今回の長期にわたる厳しい状況は、リーマン・ショックを背景とした経済収縮が大きく、また、広範な産業分野に影響を与えたことともに、その後発生した東日本大震災によって、経済的停滞がより長期なものになったことによるものと考えられる。これに対して、円相場の変動や海外シフトといった要因は、マイナスの影響がある一方でプラスの影響も少なくないことが窺われる。

図表1 リーマン・ショック以降の貴事業所の事業活動水準の変化の背景

図表1画像

  • リーマン・ショック後に事業活動に急激な低下があったとする割合は、回答事業所全体では60.6%となっているが、産業別には、製造業(76.8%)、情報通信業(71.1%)などで特に多くなっている。一方、東日本大震災後については、全体では44.0%であるが、産業別には宿泊業が71.4%と際立って高く、次いで飲食サービス業(57.85)、生活関連サービス・娯楽業(53.2%)、小売業(52.0%)などが相対的に高くなっている。どちらも広範な分野に影響があったが、リーマン・ショック後は輸出や設備投資に関連した分野で、東日本大震災後は内需関連の分野で相対的に大きな影響がみられたことが示されている。

2)回答事業所におけるリーマン・ショック以降の雇用調整実施状況とその要因

  • 回答事業所においてリーマン・ショック以降に雇用調整を実施した割合をみると、2009年に35.4%まで増大し、2010年33.6%、2011年32.1%と高い水準で推移した後、2012年26.1%、2013年20.0%と減少に向かった。
  • 実施された雇用調整の方法をみると(複数回答)、リーマン・ショック直後の2008年において、「残業規制」などとともに、一方で「非正規の雇い止め」や「非正規の解雇」、「希望退職の募集・解雇」といったハードな人員調整を実施した事業所もけっして少なくなかった中で、2009年以降は6~7割の非常に多くの事業所において「一時休業」が実施され、そうしたハードな人員調整の方法は穏やかなものになったことが窺われる(図表2)。

図表2 雇用調整の実施状況:実施した雇用調整の方法

図表2画像

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 (注) 平成20年は秋以降、同25年は調査時点までについて尋ねたものである。

  • 雇用調整の実施目的をみると、「事業縮小がいつまでか分からないが見通しがつくまで実施」が47.4%ともっとも多く、次いで「一時的な事業縮小に伴い、予想回復までの間の実施」が36.9%と多く、「雇用面で中長期的な課題を改善する一環として実施」は7.3%となっている。

3)雇用調整助成金の活用状況

  • リーマン・ショック以降に雇用調整を実施した事業所のうち雇用調整助成金を受給した事業所に、その活用理由を尋ねた結果(複数回答)をみると、「円滑な雇用調整を図るため」(65.5%)と「助成金がなければ実施できない休業等が実施できる」(55.3%)が多かった。「助成金の要件緩和により使いやすくなった」も25.8%の事業所が挙げた。
  • 一方、受給しなかった事業所にその理由を尋ねた結果(複数回答)は、「雇用調整助成金の対象となる休業等はしなかったから」が68.0%と群を抜いて多く、「休業等は実施したものの規模が些少で、わざわざ雇用調整助成金を受給するまでもなかったから」(15.7%)、「売上高等の減少が助成金の要件に達していなかった」(10.5%)など支給要件に該当しないことが窺われるものが多かった。なお、「手続きが面倒だったから」が20.3%あった。
  • 受給事業所がこの間(2008年12月~2013年3月)に雇用調整助成金を受給した期間の累計月数をみると(図表3)、1年(12ヶ月)以下が42.7%、1年を超え2年以内が26.1%、2年を超え3年以内が17.3%、3年を超え4年以内が12.8%、4年を超える事業所は1.1%となっている。およそ7割程度の事業所が、2年以内の受給であった。これを、事業活動水準の落ち込みの程度別にみると、1年以下の割合は「一度でも40未満」が34.5%、「一度でも40~60未満」が37.2%、「一度でも60~80未満」が41.8%、「一度でも80~100未満」が51.0%となっており、落ち込みの程度が小さかった事業所ほど1年以下の受給期間で終了している割合が高くなっている。1年超や2年超の割合をみてもほぼ同様の傾向を見て取ることができる。その中で、「一度でも40未満」と「一度でも40~60未満」との間で、例えば2年超の割合をみると、それぞれ31.2%、35.9%と、大きな差とはいえないものの後者の方が受給期間の長い事業所が多くなっている。「一度でも40未満」のようにあまりに大きな落ち込みがあったときは、休業による雇用調整以外のより厳しい方法がより多く採られたのではないかとも考えられる。一方で、「一度でも40~60未満」の事業所について、リーマン・ショックおよび東日本大震災の二重の影響を受けたところが相対的に多かった可能性も考えられる。

図表3 受給事業所の累積受給月数階級別構成比(事業活動水準別)

図表3画像

注:1)設立日2007年以前の事業所について集計。

2)「一度でも40未満」とは、2007年を100とした事業活動水準が、2008~2012年の各年において、1度でも40未満となったことのある事業所である。「40~60未満」等についても同様である。また、相互に排反するよう、例えば②には①の事業所は除いてあり、以下同様である。

  • 雇用調整助成金を受給した事業所に休業等の実態について尋ねた結果をみると、まず、休業等の対象に非正規雇用者が含まれていたとする事業所が40.0%あった。また、休業等の対象の選定方法については、「ほぼ全員を休業の対象としたため、選んでいない」(63.4%)が群を抜いて多く、「業務量が減少している特定の部署を対象として休業させた」(12.5%)、「特定の従業員を対象とせずに、多くの従業員を順番に休業させるようにした」(12.2%)、「原則として特定の従業員を対象として休業させた」(6.7%)などは少なかった。ただし、事業所の規模が大きくなると、「業務量が減少している特定の部署を対象として休業させた」とする割合が高くなるといった傾向はみられた(300人以上規模:23.5%)。
  • 雇用調整助成金受給の際に教育訓練を実施したとする事業所(926所)にその目的を尋ねた結果(複数回答)をみると、「既存分野の専門的知識を高めるため」(71.5%)がもっとも多く、次いで「日常業務の技術の確認のため」(44.5%)、「助成金が活用できるため」(38.3%)、「これまで計画的な教育訓練が実施できなかったため」(28.7%)などとなっている。

4)雇用調整助成金を受給した事業所と受給していない事業所との比較

  • 2007年を100とした事業活動水準の平均値の推移を受給・非受給事業所間で比較すると、受給事業所は2008年90.2、2009年76.6と両年とも10%程度ないしそれを上回る落ち込みをみているのに対して、非受給事業所では96.2、92.2と相対的に緩やかな減少で推移している。このように当然ながら、事業活動の落ち込みにかなりの差がみられている。
  • リーマン・ショック後について、余剰労働力の調整の態様(従業員数か労働時間数か)を受給・非受給事業所間で比較すると(図表4)、受給事業所では従業員数よりも労働時間数でより多く調整した事業所(表の対角線より下のセル)が40.7%であるのに対して、逆に労働時間数よりも従業員数でより多く調整した事業所(表の対角線より上のセル)は17.0%となっており、労働時間削減により重点を置いた事業所の方が2倍以上多くなっている。一方、非受給事業所について同様に計算すると、労働時間削減重点事業所が8.9%であるのに対して、従業員数削減重点事業所が11.9%とそれほど大きな差ではないものの、後者の方が多くなっている。事業活動が縮小したとき、従業員数(雇用数)の削減よりも当面労働時間の削減による雇用調整を支援するという雇用調整助成金の本旨が活かされたことが窺われる。

図表4 リーマン・ショック後における従業員数・労働時間の減少割合クロス集計
(雇用調整助成金の受給経験の有無別)

図表4画像

 (注) 設立が平成20年(2008年)8月以前の事業所について集計した。割合は、「無回答」を除いて計算した。

  • 雇用調整を実施した事業所におけるその実施目的を受給・非受給事業所間で比較すると、受給事業所は事業回復ないしその見通しがつくまで調整したとする割合が非受給事業所よりかなり高い。一方、「中長期的な課題改善の一環」として実施したとする割合は、非受給事業所が26.2%であるのに対して、受給事業所では5.2%と少なかった。

5)雇用調整助成金の受給の効果

  • (受給事業所の主観的評価)受給事業所は、雇用調整助成金の支給を受けられなかったとすると、半数を超える事業所(54.4%)が「より多くの雇用を削減するための措置をとったと思う」と回答している。また、「業績回復時の社員確保が難しいと思う」(33.5%)、「休業は実施したと思うが、後で雇用削減をしたと思う」(29.2%)との回答も多くなっている。また、「労使関係が悪化する等、厳しい事態をまねいたと思う」も18.8%となっている。一方、「雇用を維持しつつ経済変動を何とか乗り切れたと思う」とする事業所は15.9%となっている(以上、複数回答)。
  • (雇用調整助成金の「よくない」点)「よくない点」を尋ねた結果(複数回答)をみると、無回答や「特にない」の割合(受給事業所:64.1%、非受給事業所:71.6%)が高い中で、受給事業所では「不正受給の温床になりやすい」(16.8%)や「非効率な企業を温存することになる」(10.2%)を挙げるところが相対的に多くなっており、雇用調整助成金の目的や機能に関してではなく、制度の副作用に対する懸念が挙げられている。また、非受給事業所では「不正受給の温床になりやすい」(11.6%)とともに、「事業所が属している業種では活用しにくい」(11.6%)も比較的多く指摘されている。
  • (今後の雇用見通し)今後の従業員数の見通しを受給・非受給事業所間で比較すると、受給事業所の方が非受給事業所よりも減少方向の割合がわずかに高いものの、「現状維持」(受給事業所:57.1%/非受給事業所:55.2%)や「増加する」(同15.8%/16.0%)などをはじめとして、両グループ間で大きな違いはみられていない。受給事業所の多くは、雇用調整助成金の受給後には、再び安定した雇用状況を取り戻していることが窺われる。

政策的インプリケーション

  • リーマン・ショック後の厳しい経済・雇用情勢の下で、途中に東日本大震災も加わり、長期にわたり雇用調整が実施される中で雇用調整助成金が活用されたが、事業所ごとの受給期間をみると、1年以内が4割強、1年超2年以内が4分の1とせいぜい2年以内が7割近くを占めており、多くの場合、メリハリの利いた活用が行われたことが窺われる。ただし一方で、3年を超えて受給した事業所も14%程度ある。多くが、リーマン・ショックと大震災との影響を二つながら受けた事業所であるとも思われるが、長期にわたり、ただ単に休業が実施されていたのであるとすれば、そのことの政策的意味は議論されてよいと思われる。
  • 受給事業所と非受給事業所とを比較した結果からは、事業活動面でより厳しい事業所において雇用調整助成金が活用されていることはもとより、余剰労働力の調整が受給事業所ではより労働時間削減に重点を置いてなされているのに対して、未受給事業所ではより人員数削減に重点を置いたものになっている傾向がみられており、雇用調整助成金の趣旨に沿った活用と効果が確認された。また、非受給事業所では中長期的な課題への対応の一環として雇用調整が実施された事業所も少なくないのに対して、受給事業所では、そうした目的での実施は少なくなっている。
  • 今後の雇用見通しをみると、若干の違いはみられるものの、受給事業所と非受給事業所との間で大きな違いはみられず、今後雇用が「増加する」とする割合も遜色ない。多くの事業所では、雇用調整助成金を活用した雇用調整を通して、雇用面の定常性を取り戻していることが窺われる。
  • 受給事業所は、雇用調整助成金の雇用維持効果を高く評価しているが、一方で、懸念される点も指摘している。その多くは「不正受給」や「非効率企業の温存」といった、制度の副作用に対する懸念であり、同時に、雇用調整助成金については、より機動的に一層活用しやすいものにするよう要望もされている。今後、指摘の副作用面への対応のあり方を含めた検討、議論がなされることが望まれる。
  • 今回の事業所アンケート調査から得られたデータは、さらに今後、他の関連データとともに、詳細に分析することを通じて、上述の政策課題に関するものを含め、より多くの政策的インプリケーションを導出することとしている。

政策への貢献

リーマン・ショック以降の経済変動下において、雇用調整助成金が果たした効果や機能を整理することを通じて、そのあり方を検討する際の基礎データを提供するとともに、次に来るべき大きな経済変動に直面したときの速やかな対応に関して多くの示唆を与えることが期待される。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究 「非正規労働者施策等戦略的労働・雇用政策のあり方に関する調査研究」

サブテーマ「正規・非正規の多様な働き方に関する調査研究」

研究期間

平成24年~26年度(継続中)

執筆担当者

梅澤 眞一
労働政策研究・研修機構統括研究員
浅尾 裕
労働政策研究・研修機構特任研究員/統括研究員
何 芳
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員

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