調査シリーズ No.120
『全員参加型社会』の実現に向けた技能者の確保と育成に関する調査

平成 26年 5月19日

概要

研究の目的

高い技術に支えられたものづくり産業はわが国の強みの一つである。今後、わが国が持続的に発展していくためには、ものづくり産業において専門的な知識・技術をもった技能者を育成していくことが必要不可欠である。

近年、少子高齢化の急速な進展により、近い将来、労働力人口の不足が予測されていることから、高年齢者や女性、非正規社員など多様な労働者が参加する「全員参加型社会」の構築が求められている。

そこで、今回は、機械・金属産業などのものづくり産業における高年齢技能者、女性技能者、非正規雇用技能者の活用や育成・能力開発の実態などを明らかにすることを目的にアンケート調査及びインタビュー調査を実施した。

また、近年、ものづくり産業において、生産拠点を海外に移転する動きが一層活発化するなかで、現地で働く技能者をどのように育成しているかについても調べた。

研究の方法

  1. 調査方法
    • (1) アンケート調査:郵送による調査票の配布・回収
    • (2) インタビュー調査
  2. 調査対象
    • (1) アンケート調査

      製造業のうち、プラスチック製品製造業、鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、はん用機械器具製造業、生産用機械器具製造業、業務用機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業、電気機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、化学工業の従業員30人以上の民間企業10,000社注)

      • 注)帝国データバンクの企業情報データベースから業種・規模別に層化無作為抽出。
    • (2) インタビュー調査
    • アンケート調査に回答した企業の中から、「高年齢技能者の活用」「女性技能者の活用」「技能系非正社員の活用」「企業のグローバル展開に伴う技能者の育成」の各テーマごとに1~3社を選定。

主な事実発見

  1. 高年齢技能者の活用

    ものづくり企業に対し、60歳以上の高年齢技能者を活用するメリットを聞いたところ、「若い人に熟練技能を伝承・継承できる」が約7割(70.8%)でトップ。これに僅差で「熟練技能が確保でき、品質を維持できる」(69.2%)が続いた。

    また、ものづくり企業に対し、60歳以上の高年齢技能者が製造現場で働き続けることでどのような課題が生じるかを聞いたところ、「300~999人」「1,000人以上」の大企業では「若い技能系正社員の雇用・配置が難しくなる」との回答割合がトップで4割台を占めた。一方、「300人未満」の中小企業では「健康面での維持・管理が難しい」との回答がもっとも多く約3割(28.2%)となった。

  2. 女性技能者の活用

    現在、製造現場で女性技能者の活用を進めている企業の割合は35.6%で、「進める予定はない」とする企業の45.1%を下回るものの、「進めていないが、今後進めたいと考えている」とする回答割合(16.6%)と合わせると過半数(52.2%)の企業が女性技能者の活用に前向きであることがわかった(図表)。

    図表 女性技能者の活用状況(単位:%)

    図表画像

    すでに女性技能者の活用を進めているものづくり企業では、女性技能者の活躍を妨げる要因として、約4割(39.6%)が「家事や育児の負担を考慮する必要がある」をあげた。さらに「活躍を望む女性が少ない」(31.8%)「残業・出張・転勤をさせにくい」(25.1%)とする回答も目立った。一方、現在は活用を進めていないものの、今後進めたいと考えている企業では「女性技能者に向いている仕事が少ない」「女性技能者の確保が難しい」の回答割合が高く、ともに4割となった

  3. 技能系非正社員の活用

    ものづくり企業に対し、非正規雇用の技能者の活用方針を聞いたところ、パート・アルバイトなど企業と直接雇用関係がある技能者(以下、「直接雇用非正社員」という。)については、約6割(62.2%)が「積極的に活用したい」と回答。一方、直接雇用関係がない派遣・請負の技能者(以下、「非直接雇用非正社員」)については、「積極的に活用したくない」が約6割(57.8%)を占め、「積極的に活用したい」(38.5%)を上回った。

政策的インプリケーション

  1. 高年齢技能者の活用

    ものづくり企業において、若手技能者への技能の伝承がうまくいっているかどうか聞いたところ、約6割(56.1%)が「うまくいっている」(「非常にうまくいっている」と「おおむねうまくいっている」の合計)と回答した一方で、「うまくいっていない」(「あまりうまくいっていない」と「まったくうまくいっていない」の合計)も約4割(38.6%)あった。

    「うまくいっていない」と回答した企業に対し、その理由を聞いたところ、「ノウハウや技能伝承・継承方法がはっきりしていないから」、「技能やノウハウを伝承するための時間的・人的余力がないから」がそれぞれ約50%と他の選択肢に比べ、高い割合を示している。

    こうした状況への対応策としては、豊富な知識と経験を有する高年齢技能者を教育担当として活用することが有効と思われるが、彼らが実際に担当している仕事内容をみると、「他の技能者の教育担当としての仕事」は、従業員規模「1,000人以上」の大企業では、52.4%と高い割合を示しているものの、999人以下の企業では、約2割と低い水準に止まっているのが現状である。

    教育担当役として高年齢技能者の活用促進に向けては、行政が伝承すべき技能の体系化・マニュアル化を支援することなどが有効と思われる。

  2. 女性技能者の活用

    調査対象企業を女性の活用度合別にみた場合、全体の35.6%を占めているのが、すでに女性技能者の活用を「進めている」層だ。この層について、活用の妨げとなっている要因をみると、「家事や育児の負担を考慮する必要がある」(39.6%)、「活躍を望む女性が少ない」(31.8%)が上位二位を占めている。前者について、仕事と家庭の両立支援策の導入をより一層推進すると同時に後者については、女性活躍のロールモデルとなる人材の確保、キャリアカウンセリングの実施といった企業内における環境整備の支援が有効であろう。

    一方、現状では女性の活用を「進めていないが、今後進めたいと考えている」層については、全体に占める割合は16.6%と高くないものの活用に対する意欲はあることから、阻害要因さえ取り除いてやれば、活用を広げやすい層といえる。

    この層について、阻害要因をみると、「女性技能者に向いている仕事が少ない」「女性技能者の確保が難しい」の回答割合が約4割と高く、女性技能者の受け入れ段階でつまずいていることがうかがえる。

    「女性技能者に向いている仕事が少ない」については、一見女性向きでないと思われるプレス作業を女性に任せている事例もある。こうしたケースはまだ少ないものの、今後、女性が働きやすい職場環境の整備を進めるとともに、事業主への意識啓発を行い、思い込みを排することで、女性向きでないとされている作業においても女性活用が広がる可能性がある。

    もう一つの阻害要因である「女性技能者の確保が難しい」については、製造業という言葉から連想されがちな「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージが影響してか、ものづくり企業において、女性の採用が思うように進まない実態がうかがえる。とくに大企業に比べて、知名度の低い中小企業ほど採用が困難になっている。

    これを改善するためには、女性が働きやすい職場環境を整備するとともに、インターンシップをはじめ、あらゆる手段を通じ、ものづくりの魅力をアピールできるよう支援していくことが有効だろう。

    女性技能者の活用を「進める予定はない」とする45.1%の層で、「女性技能者に向いている仕事が少ない」が阻害要因としてもっとも回答割合が高く、43.9%を占めている。この中には、危険を伴う作業など実際に女性向きではない作業も含まれていると思われるが、多くの作業については前述したとおり、職場環境の整備や事業主への意識啓発により一定程度の改善が期待される。

  3. 技能系非正社員の活用

    技能系非正社員を対象とした教育訓練やキャリア形成支援の取り組み状況をみると、「正社員を指導者とするなどして実施した計画的OJT」、「職場での改善提案・QCサークルの奨励」、「採用時の社内研修の受講」をあげる割合は高い一方で、「定期的な社内研修の実施」、「社外研修の受講」、「自己啓発活動の奨励・支援」、「キャリアに関する相談の機会の設置」は低い水準に止まっている。

    また、直接雇用非正社員のみに実施している取り組みを従業員規模別にみると、「自己啓発活動の奨励・支援」、「キャリアに関する相談の機会の設置」は300人以上の大企業に比べ、300人未満の中小企業では、取り組む割合が低くなっている。

    このように技能系非正社員に対する教育訓練やキャリア形成支援の機会は必ずしも十分とはいえない状況にあるが、その背景には技能系非正社員の定着率が低く、企業側にとって教育訓練投資のインセンティブが働かないことにあると思われる。

    行政は、こうした技能系非正社員に対し、労働者自身が自分のキャリアについて考えながら、能力開発できるようキャリアコンサルティングの機会を提供することが必要である。

政策への貢献

本調査の一部は、『平成24年度ものづくり基盤技術の振興施策』において使用された。

本文

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研究の区分

緊急調査

研究期間

平成24年~25年度

  1. アンケート調査:2012年11月20日(火)~12月3日(月)
  2. インタビュー調査:2013年2月~4月

調査実施担当者

郡司 正人
労働政策研究・研修機構調査員次長
藤本 真
労働政策研究・研修機構副主任研究員
米島 康雄
労働政策研究・研修機構主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.62)。

関連の研究成果

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