調査シリーズ No.107
成人の職業スキル・生活スキル・職業意識

平成25年 3月20日

概要

研究の目的

昨今のキャリア環境の激変に伴い、労働者の働き方、キャリア形成のあり方には大きな変化がみられる。特に、昨今の人口動態の大きな変化、非正規就労の拡大、雇用の流動化等を受けて、企業等で働く在職者と組織との関わり方は変質しており、以前にもまして重要な課題となっている。

こうしたなか、生涯キャリア発達およびその支援は、従来から継続的な政策課題として受け止められており、国内外で一定の関心をもって検討がなされてきた。

本調査では、そうした一連の研究動向をふまえた上で、成人のスキルと意識に関する基礎的なデータの収集を行うことを目的とした。現在、成人の生涯キャリア発達を考える上で、成人の職業能力開発はよりいっそう重要となっているが、その際、現在の日本において20~50代の成人はどのような職業スキル・生活スキルをもっており、どのような職業意識を抱いているのかを改めて検討することが重要となるからである。

特に、本調査では、性別×年齢×現在の就労状況を均等に収集した成人サンプルを用いて、日本の成人のスキルの実態を明らかにすることとした。また、スキル政策とキャリアガイダンスの関わりを検討するにあたっては、そもそも成人がいかなる職業意識を抱いているのかも密接に関わる。そこで、成人の職業意識についても検討を行った。

研究の方法

(1)調査方法

調査会社のモニターを利用したインターネット調査

(2)調査対象
  • 調査会社のモニターである一般成人1,600名
  • 内訳は、性別(男性・女性)×年齢(20代・30代・40代・50代)×状況(正規就労・非正規就労・求職者・無業その他)で均等に収集した(性別×年齢×現在の状況の2×4×4の各セルに50名ずつを均等に割り当てて1,600名を収集した)。
(3)主な調査事項
  • 基本的属性(性別、年齢、未既婚、最終学歴、学校時代の専攻・学科、取得資格など)
  • 現在の状況(世帯収入、現在の身分、勤務先の業種・職業・従業員数、現在の職位など)
  • 学校卒業後のキャリア(転職経験、失業・休職期間の有無、職業能力の評価など)
  • これまでの職業や学習に対する意識(満足感、職業生活で役立ったこと、後悔など)
  • 職業スキル、生活スキルおよび自尊感情、抑うつ

主な事実発見

  1. 総じて年齢が高いほど自分の職業スキルに自信をもっており、年齢が若いほど自分の職業スキルに自信がなかった。その他、「大卒者」「高額所得者」「管理的職業従事者」「大企業で働く者」は自分の職業スキルに自信をもっていた。
  2. 総じて「女性」「年齢が高い者」「既婚者」「大卒者」は自分の生活スキルに自信をもっていた。特にマナーやルールを守る、生活リズムを守る、世間話・あいさつ・苦手な人と働くといったベーシックな生活スキルに自信をもっていた。

図表1 自信がある職業スキル×年齢

図表1画像

** p<.01 残差分析の結果、1%水準で統計的に有意に値が高い箇所に網かけ、有意に値が低い箇所に下線を付した。

図表2 自信がある生活スキル×性別

図表2画像

** p<.01 残差分析の結果、1%水準で有意に値が大きい箇所に網掛けを付した。「差」は女性−男性。

  1. 「特定の分野でいろいろな仕事をたくさん経験してきた」と感じている者は、「特定の分野で1つの仕事を長く経験してきた」「いろいろな分野で1つの仕事を長く経験してきた」「いろいろな分野でいろいろな仕事をたくさん経験してきた」と感じている者に比べて、総じて、自分の職業スキル・生活スキルに自信をもっており、職業意識も良好な水準を保っていることが多かった。従来型のジョブローテーションがスキル形成に一定の有効性をもっていることが示された。

政策的インプリケーション

(1)若年層の生活スキル

本調査の結果、若年層の職業スキル・ライフスキルが低いことが改めて示された。特に従来、生活スキルに関しては十分な注意が払われてきておらず、今後、よりいっそうの検討が必要となる。例えば、ジョブカード制度における「橋渡し訓練」、地域若者サポートステーションにおける「生活支援等継続支援事業」等、生活スキルに関わる施策のよりいっそうの拡充の可能性を議論する必要がある。

(2)若年層の職業スキル

若年層は職業スキルも低いが、この点については、学校教育段階における取り組みも必要となる。中長期的には一定の職業特殊スキルを身に付けさせて社会に送り出すという方向を模索すべきである。ただし、現段階では、職場におけるスキル形成の機会を与えられない若年層を対象に、公的なスキル形成プログラムの提供の必要性は高いものと見る必要がある。若年層を中心に上述した生活スキルと職業特殊スキルのベストミックスを模索する必要がある。

(3)中高年および女性の職業スキル

中高年および女性の職業スキルのアクティベーション(活性化)も重要となる。本調査の結果、改めて中高年および女性の職業スキルの高さが示された。中高年には一定以上の職業スキルの蓄積があり、中高年が持つ職業スキルの高さを可能な限り有効活用できる道筋を探り、社会全体で中高年の職業スキルを十分に使う方策を考える必要がある。女性についても同様であり、特に、基礎的な生活習慣やルールやマナーを守るといった生活スキル面での一定以上のスキルの高さは、やはり社会全体での有効活用する道筋を考えたい。

(4)職業能力開発行政におけるキャリアガイダンス施策

上述の示唆は、いずれも従来以上に職業能力開発と一体化したキャリアガイダンス施策の展開を求めるものであり、職業能力開発行政におけるキャリアガイダンスのあり方を今後もとも十分に検討していく必要がある。

政策への貢献

今後の職業能力開発行政に資する。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成24年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 主任研究員
松本 安彦
労働政策研究・研修機構 統括研究員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.73)。

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