調査シリーズ No.103
ものづくり現場における若年技能者及び中核的技能者の確保・育成に関する調査

平成25年 1月21日

概要

研究の目的

高い技術に支えられた「ものづくり」産業はわが国の強みの一つである。今後、わが国が持続的に発展していくためには、「ものづくり」産業において専門的な知識・技術をもった技能者を継続的に育成していくことが必要不可欠である。

機構では、「ものづくり」企業で働く技能者の育成・確保に関する実態を把握するため、2010年度、2011年度の両年度にわたり、調査を実施した。

2010年度は「ものづくり」企業が若手技能者を安定的に採用・育成するために行っている取り組みを把握することを目的に「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査」(以下、「若年技能系社員調査」という。)を行った。

2011年度は「ものづくり」企業において、中核的人材として競争力を支える技能者の確保・育成に着目し、各社がどのような取り組みを行っているか実態を明らかにするため、「ものづくり現場の中核を担う技能者の育成の現状と課題に関する調査」(以下「中核的技能者調査」という。)を実施した。

研究の方法

  1. 調査方法

    郵送による調査票の配布・回収。

  2. 調査対象

    製造業のうち、プラスチック製品製造業、鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、はん用機械器具製造業、生産用機械器具製造業、業務用機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業、電気機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、化学工業1)の従業員30人以上の民間企業10,000社2)

    1) 若年技能系社員調査では化学工業は対象外とした。

    2) 帝国データバンクの企業情報データベースから業種・規模別に層化無作為抽出

  3. 調査期間

    ①若年技能系社員調査:2010年10月4日(月)~10月15日(金)

    ②中核的技能者調査:2011年11月22日(火)~12月2日(金)

  4. 有効回収数等

    ①若年技能系正社員調査:3,229件(有効回収率 32.3%)

    ②中核的技能者調査:2,608社(有効回収率 26.1%)

主な事実発見

(1) 若年技能系社員調査
  1. 今後の能力開発の責任の所在については、「企業の責任」(「企業の責任で進める」と「企業の責任で進めるに近い」の合計)と考える企業割合が72.8%と高く、「個々人の責任」の24.7%(「従業員個々人の責任で進める」と「従業員個々人の責任で進めるに近い」の合計)を大きく上回っている
  2. 若年技能系社員の育成・能力開発について、「ある程度うまくいっている」が61.8%と過半数で、「うまくいっている」(4.4%)を合わせると、7割弱(66.2%)の企業が「良好」と評価している。規模別では、規模が大きいほど、育成・能力開発が「良好」な割合は高い。一方、「300人未満」規模の中小企業では、3分の1強が「うまくいっていない」としており、多くの企業が「育成を担う中堅層の不足」「効果的に教育訓練を行うためのノウハウ不足」を原因としてあげている。
  3. 優秀な非正社員への仕事の割り振りについては、「当面の業務の必要に応じて様々な仕事」が47.1%ともっとも高く、「育成のため積極的に高度な仕事」が27.1%と2番手に続いている。これを従業員規模別にみると、規模が小さいほど「高度な仕事」を与える割合は高くなっており、「300人未満」「300~999人」「1000人以上」で、それぞれ27.7%、22.0%、20.6%。人材確保に苦労している中小企業が、若年技能系非正社員の育成・能力開発について、期待をかけ、意欲的に行っている様子が窺われる。
  4. 若年者に限らず、技能系の非正社員を正社員に登用する制度があるかどうか聞いたところ、「正社員登用制度がある」と答えた企業は17.4%に止まっているものの、「制度はないが、慣行として正社員に登用されることがある」企業(35.9%)を合わせると、過半数(53.3%)の企業が何かしらの正社員転換ルートを持っていることがわかる。しかし、登用実績をみると、制度・慣行があるところでも、4割で実績がない結果となっている。また、「制度・慣行ともなく、制度の設置も検討していない」と、まったく正社員転換を考えていない企業は31.3%だった。
(2) 中核的技能者調査
  1. ものづくり企業で、中心的な役割を果たし、その企業の強みや競争力を支える「中核的技能者」に最も求められることとして、51.0%が「製造現場のリーダーとして、ラインの監督業務や、部下・後輩の指導を担当できること」をあげている。
  2. 中核的技能者の育成について、60.2%の企業は「うまくいっていない」と考えている。その理由としては、「育成を担う従業員が不足しているから」が56.4%でトップ。一方、育成がうまくっている企業の割合は39.8%。うまくいっている要因として最も高い割合を示したのは「技能系正社員の定着状況が良好だから」で、53.5%の企業があげている。
  3. 中核的技能者の人数が適正かどうかについては、60.8%の企業が「不足」していると考えている。「不足」していることに対する対応策では、「中核的技能者の候補を早期に選抜し育成する」とする企業割合が最も高く、46.7%を占めた。
  4. ものづくり企業のうち、中核的技能者に求められる能力要件を明確化している企業の割合は39.3%。能力要件を明確化している企業では、中核的技能者の育成が「うまくいっている」とする割合が54.7%だった。一方、明確にしていない企業では74.7%が「うまくいっていない」と回答している(図表)。

図表 能力要件の明確化と育成の成否との関係(n=2,544)

図表画像

図表拡大表示

※リンク先で拡大しない場合はもう一度クリックしてください。

政策的インプリケーション

若年技能系社員調査では、約3分の1の企業が若年技能系社員の育成がうまくいっておらず、その理由として約6割の企業が「育成を担う中堅層の不足」をあげていることが明かとなった。

この「育成を担う中堅層」は中核的技能者と重なる部分が多く、中核的技能者を確保・育成することは、若年技能系社員の育成を成功させる上でも重要と思われる。

中核的技能者育成の成否において、一つの鍵となっているのが能力要件の明確化である。だが、従業員規模が小さい企業ほど明確化している割合が低い傾向にあることから、今後中小零細企業に対し、明確化に向けた意識付けやノウハウの提供といった支援が求められる。

政策への貢献

  1. 若年技能系社員調査

    本調査の一部は、『平成22年度ものづくり基盤技術の振興施策』において使用された。

  2. 中核的技能者調査

    本調査の一部は、『平成23年度ものづくり基盤技術の振興施策』において使用された。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

情報収集

研究期間

平成22~24年度

調査実施担当者

郡司 正人
労働政策研究・研修機構 調査・解析部 主任調査員
米島 康雄
労働政策研究・研修機構 調査・解析部 主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.52-53)。

関連の調査研究

入手方法等

入手方法

刊行物のご注文方法をご確認ください。

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
ご購入について
成果普及課 03(5903)6263
GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。