調査シリーズ No.104
「今後の企業経営と雇用のあり方に関する調査」結果
―企業の人材活用は今後、どう変わるのか―

平成24年12月20日

概要

研究の目的

企業経営の観点から雇用の現状や今後の考え方を明らかにし、雇用政策・労働法制のあり方等を展望するための基礎資料を得る。

研究の方法

  • 調査対象:全国の従業員30人以上の企業20,000社のうち、事前の依頼状送付で調査協力を辞退した企業を除き調査票を配布した19,907社。
  • 標本抽出法:民間データ機関の企業データベースを母集団に、経済センサスの構成比に基づき、産業・規模別に層化無作為抽出。
  • 調査方法:郵送配布・郵送回収。
  • 有効回収数:3,707社(18.6%、うち従業員300人未満2,334社(26.3%)、300人以上1,373社(12.4%))。

主な事実発見

正社員の減少傾向に一定の歯止め

この3年間における正社員・非正社員の人数の推移については、【正社員・非正社員とも増加・横ばい】となった企業(33.7%)がもっとも多い(図表1・上)。次いで【正社員が減少し非正社員は増加・横ばい】の企業(12.5%)で、【正社員は増加・横ばいで非正社員が減少】した企業(4.6%)を8ポイント程度上回った。

3年後の見通しでも、引き続き【正社員・非正社員とも増加・横ばい】とみる企業(39.7%)がもっとも多い。ただ、今後3年間はこれまでとは様相が異なり、【正社員が減少し非正社員は増加・横ばい】とみる企業(6.8%)がほぼ半減し、代わりに【正社員・非正社員とも増加・横ばい】と【正社員が増加・横ばいで非正社員は減少】とみる企業(5.9%)が増加する。

正社員・非正社員比率の観点から再分類すると、この3年間でもっとも多かったのは【非正社員比率を高めてきた】企業群(17.8%)で、これに【正社員・非正社員とも増加】した企業(13.5%)、【正社員・非正社員とも横ばい】の企業(11.0%)と続き、もっとも少ないのが【正社員比率を高めてきた】企業群(8.6%)である。

3年後の見通しでもっとも多いのは【正社員・非正社員とも横ばい】の企業(19.8%)である。これに【正社員比率を高める】企業(12.3%)、【非正社員比率を高める】企業(11.3%)、【正社員・非正社員とも増加】の企業(9.0%)――と続く。

すなわち、今後は【非正社員比率を高める】企業が後退し、【正社員比率を高める】企業が増加して両者が拮抗する見通しで、総じてこの間進展してきた正社員比率の減少傾向に、向こう3年間で一定の歯止めがかかることが予想される。

正社員・非正社員の人数の増減を雇用形態別に詳しくみると、過去3年間、また現在から3年後のいずれでも【横ばい】とする企業がもっとも多い。増加と減少の割合の差に着目して整理すると(図表1・下)、3年前からこれまでは正社員数が減少する一方、非正社員数は定年再雇用・嘱託が大幅に増加したほか、派遣労働者を除くすべての雇用形態で増加してきたことが分かる。

3年後をみると、正社員数が増加傾向に転じるほか、非正社員数も全体として増加基調にあるものの、雇用形態別には定年再雇用・嘱託とパートタイム労働者が中心で、それ以外は横ばい、ないしは減少の見通しである。こうした変化は、同様の設問がある2006年調査時点の結果から経年比較するとさらに顕著で、正社員回帰に転じる兆しをも窺わせる。

正社員・非正社員とも根強い長期雇用志向

一方、雇用をめぐる考え方を聞いたところ(図表2)、正社員については「長期雇用を維持すべき」に「賛成」あるいは「どちらかというと賛成」の企業(80.2%)が、「正社員も柔軟に雇用調整しやすくすべき」に「賛成」あるいは「どちらかというと賛成」の企業(15.3%)を大きく上回った。また、非正社員についても、「出来る限り長く雇用する方がメリットある」(68.6%)が、「非正社員は人材の新陳代謝を促進する方がメリットがある」(17.0%)を大きく上回り、正社員・非正社員とも長期雇用が望ましいと考える企業が多数を占めている。

非正社員の職務・処遇のあり方については意見が分かれたものの、「非正社員にもより基幹的・重要な職務を任せ正社員の処遇との分配のあり方を見直すべき」(37.4%)より、「非正社員と正社員の職務は明確に分離し正社員の処遇との違いも維持すべき」(44.7%)が多くなっている。非正社員の能力開発では、「非正社員自ら行うべき」とする割合(23.6%)より、「非正社員も重要な戦力として企業も積極的に能力開発を行うべき」とする割合(60.5%)が高い。

高齢者の雇用延長と若年者の新規採用の関係をめぐっては、「(年齢構成是正や技能伝承で)補完的な関係にある」とする企業(50.9%)が、「高齢者を雇用延長すると若年新規採用は抑制せざるを得ない」(35.4%)を上回った。

図表1 正社員・非正社員の3年前比較の増減推移と3年後の見通し

図表1・上

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各雇用形態の(増加-減少)差

図表1・下

図表2 雇用をめぐる考え方

図表2

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政策的インプリケーション

非正社員比率が(団塊世代の定年再雇用等への流入もあって)35.1%まで高まるなか、1998年に71.6%に達した労働分配率も足下2010年は68.0%まで低下した。また、団塊世代も本年から65歳に入り始め、労働力の確保が今後、深刻な課題として先鋭化してくる。そうしたなか、派遣労働法や労働契約法の改正、パート労働者に対する社会保険の適用拡大など、非正規労働法制も大きな転換点を迎えている。

今回の調査結果は、企業が競争力の源泉は人材であるとの原点に立ち返り、持続的・発展的な経営を支える雇用基盤を整えようとしている動きを描き出したものと捉えられる。結局のところ、日本企業の正社員重視・長期雇用重視の姿勢は一貫している、といった単純な話に帰結するわけではないが、こうした兆しを前向きに捉えつつ、今後の企業経営と雇用のあり方をめぐる動向を注視する必要がある。

政策への貢献

本文

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研究の区分

緊急調査

研究期間

平成24年度

執筆担当者

荻野 登
労働政策研究・研修機構 調査・解析部部長
渡辺 木綿子
労働政策研究・研修機構 調査・解析部主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.61)。

入手方法等

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