調査シリーズ No.83
世界同時不況後の産業と人材の活用に関する調査・外国人労働者の働き方に関する調査

平成23年3月31日

概要

研究の目的と方法

(1)研究の目的

世界同時不況後2年近く経過するなか、[1].企業(事業所)は雇用の動向についてどのような方針をもち、どのような人材に対するニーズがあるのか、今後の雇用についてどのような展望を持っているのか、[2].また、企業の雇用調整によって日系人労働者の就業・離職行動にどのような影響を及ぼしたか、今後の日本での就労についての展望などを明らかにする。

(2)研究の方法
  1. 事業所調査:民間の事業所データベースに登録されている事業所のうち外国人集住都市28自治体の従業員10人以上の事業所2万所を一定の方法により抽出、質問紙を送付。
  2. 日系人労働者調査:調査対象事業所のうち、日系ブラジル人労働者、日系ペルー人労働者を直接雇用している事業所にスペイン語・ポルトガル語の質問紙の配付を依頼。日系人労働者本人が返送。
  3. 調査期間は事業所調査:2010年7月19日~7月31日、日系人労働者調査:2010年7月~8月。
  4. 事業所調査票の回収率は11.5%である。

主な事実発見

(1)事業所調査
  1. 2010年7月現在で、「過去2年間、専門的・技術的分野以外で外国人を活用したことがある」事業所は、全体の約2割に留まっている。一方、「活用していない(したことがない)」理由では「日本人だけで求人数を確保できたから」(約58%)がもっとも多く、以下、「人事管理などの面で外国人労働者を受け入れる社内体制が未整備だったから」(約22%)などが続く。
  2. 今後なんらかの形で外国人を活用しようとする事業所は少なく、雇用形態、仕事内容にかかわらず、「活用の予定がない」がおよそ3分の2を占める。
  3. 雇用した外国人に対し、「期待以上」という評価は1割弱であるが、「期待どおり」という評価は半数を超えている。一方、否定的評価は約15%である。
  4. 外国人を採用する場合に求める日本語能力は相対的に高く、より正確な意思疎通ができるレベルが求められる。会話については、「仕事上必要な日本語が話せる」と「仕事上の指示を理解できる」という相対的に高いレベルを求める比率が、約8割となっている。
  5. これまでに外国人労働者を活用した経験がある事業所は約2割である。このうち約15%は正社員・非正社員として活用している。今後についても、正社員や専門的・技術的な仕事での外国人労働者の活用を検討している事業所もある。
(2)日系人労働者のケーススタディから
  1. 事業所が外国人労働者に求める日本語能力(会話、読解、筆記)と日系人労働者が実際に有する能力の間にギャップがあるが、会話についてはギャップが相対的に小さい。また、日系人労働者は系統的に日本語を学習している者が少ない。
  2. 日系人労働者の8割以上が前職を辞めてから現職に就くまでに仕事をしていない期間を経験している。前職を辞めた主な理由は「よりよい条件の仕事を探すため」(27.5%)、「会社の人員整理や退職を勧められたから」(12.5%)などとなっている。また、「その他」(40.0%)の大半がいわゆる「雇止め」によるものである。
  3. 離職期間中は、「貯蓄の切り崩し」(45.8%)、「家族の収入」(33.3%)、「失業等給付」(12.5%)などによって生活している。また、離職期間中に資格の取得や能力開発を行った日系人労働者は少ない。
  4. 現職への入職経路は「友人、知人を通じて」(39.5%)、「ハローワークを通じて」(18.6%)などとなっており、個人的なネットワークによる就業が多い。
  5. 前職と現職の仕事内容を比較すると、前職・現職ともに「生産工程・労務の仕事」の者が多いが、前職の「生産工程・労務の仕事」から現職では「サービスの仕事」や「事務の仕事」に就いている者もいる。また、前職で「派遣、請負社員」として働いていた者が約5割を占めていたが、現職では「正規従業員」や「パート、アルバイトなど」として就業している者が約8割に達している。
  6. 現在の仕事に関して、「仕事の内容」については全員が、「職場の人間関係」、「休日数」については9割以上が「満足」と回答している。一方、「賃金」、「労働時間」については他の項目よりも不満と回答している者の比率が高い。さらに、約8割の日系人労働者が今後も現在の仕事を継続することを希望している。
  7. 健康保険に関して、6割以上の者が「協会けんぽ、会社の健康保険組合の保険」または「国民健康保険」に加入しているが、約1割の者は健康保険に未加入である。また、半数以上の者が厚生年金か国民年金に加入しているが、4割以上の者はいずれの公的年金にも加入していない。

図表 人材の雇用形態別活用方針(多重回答、単位:%、N=2252)

図表 人材の雇用形態別活用方針(多重回答、単位:%、N=2252)/調査シリーズNo.83

政策的含意

世界同時不況後、企業の外国人労働者への労働需要は小さい。企業は外国人労働者を採用する際、高い日本語能力があることを要件としている。実際、同時不況後に職を失っても早い時期に就業できた日系人労働者は比較的高い日本語会話能力を有している。日系人労働者は現在の仕事に高い満足度を感じており、今後も現在の仕事での就業継続を希望している者が多い。一方、日系人労働者が就業していない期間は貯蓄の切り崩しや家族の収入によって生活した者が多く、失業等給付を受けた者は少ない。

以上から、日系人労働者の就業促進策として能力開発を行う際には日本語学習も同時に実施する必要がある。また、日本での就労年数が長期化していることを考えると、日本への定着を視野に入れ、健康保険や公的年金など生活支援のセーフティネットへの加入を促進する必要がある。

政策への貢献

企業は外国人労働者に対して比較的高い日本語能力を求めていることから、日系人労働者など外国人労働者の就業促進策には日本語学習の重要性が示唆された(実際日本語能力によって日系人労働者の就業・離職行動に違いがある)。また、従来から指摘されてきたことであるが、日本への定着を視野に入れ、健康保険や公的年金など生活支援のセーフティネットへの加入を一層促進する必要性が示唆された。

本文

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執筆担当者

中村良二
労働政策研究・研修機構 主任研究員
渡辺博顕
労働政策研究・研修機構 副統括研究員

研究期間

平成22年度

入手方法等

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